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平成18年度リスク研究センター助成研究報告 0602

経済成長の不安定性と企業行動の不確実性

経済学科  教授 鈴木康夫

 「不確定性や創造的な期待は、企業の投資を通じて経済成長およびその不安定性にどのように影響するか」という考察が理論モデルを用いて行われた。
1.まず、企業の「投資行動」の定式化が、ケインジアン体系に基づいていろいろと試みられたが、結局、体系的な動学的結論を経済成長理論の枠組みにおいて有意義な形で引き出すことができなかった。この点は、今後の課題である。
2.次に、明確な投資行動を定式化することなく、解釈上で投資を通じた論理的関係として、不確定性や創造的な期待が経済成長の均衡成長率やその動学的な安定性にどのように関わり、かつ影響するかという考察が次のように二つの側面から展開された。
2-1:第一に、ケインジアン・モデルとしてのハロッド・モデルの先行研究に基づき、その動学的な安定性の詳細な理解を吟味し、不確定性や創造的な期待を特徴付ける概念を導入して詳細な理論的解釈が展開され、ハロッド・モデルの動学的安定性の先行研究の形式的な結果に理論的な理由付けを与え、経済理論的な基礎付けを行った。
2-2:第二に、新古典派最適成長理論を用いて不確定性と創造的な期待の概念がどのように経済成長経路の合理的な資本蓄積軌道に影響するかという考察が展開された。その最適な資本蓄積軌道の取り扱いを重視して、不確定性について経験的なリスク・プレミアムの考察だけがなされた。結局、標準的な最適制御の手法だけが応用された。
 上でも触れたように、研究計画に従って実施された研究段階1では、理論的な考察が行われたにもかかわらず、体系的な動学的分析結果として研究成果が得られなかった。
 続いて実施された研究段階2では、次のような研究成果が、ケインジアンと新古典派のそれぞれの理論考察で得られた。
 研究段階2-1では、先行研究で得られたハロッド型モデルの形式的な定式化や動学的な分析結果に、理論的な基礎付けと解釈を与えることができた。すなわち、そのモデルの均衡経済成長率が、創造的な期待や不確定性を具現した概念としての「創造的な期待(経済)成長率」と、企業行動から経験的に得られると想定されている「(経済)成長率リスク・プレミアム」を用いて理論的に有意義に解釈できるということが示された。さらに、ケインジアン的な「血気」概念との関連付けを導入すれば一層意義深い理論的解釈が可能となることも示されている。
また、これらの概念との関連付けに基づき、先行研究で残されたケインジアン的でない場合や極端な場合も含めて、パラメータのいくつかの場合について、当該マクロ・モデルの動学的安定性について理論的可能性が考察され、それらの主な場合での分析結果が得られている。
研究段階2-2では、新古典派最適成長理論に基づき、不確定性と創造的な期待の概念の、経済成長経路の合理的な資本蓄積軌道への影響の諸分析が展開された。標準的な新古典派最適経済成長モデルの状態方程式の定式化で経験的なリスク・プレミアムを導入し、その目的汎関数ではサルベージ値を導入して定式化が修正され、これらの修正の理論的な理由付けを明らかにして、考察が展開された。研究成果として、創造的な期待成長率やリスク・プレミアム等の諸概念との関連付けに基づいて、その最適な成長経路としての資本蓄積軌道の存在・一意性・特徴が分析され、それらに関する諸条件の下で存在や一意性の可能性が確認された。
また、諸パラメータについて比較静学等の諸分析が行われ、均衡成長経路について諸結果が導出された。この他に、最適軌道についてのターンパイク性や偏倚などの動学的特徴についての比較動学的な考察も展開されている。 なお、動学的成長経路の取り扱いを重視したので、当該の諸研究段階での諸理論考察では、不確定性の分析については経験的なリスク・プレミアムの考察だけがなされた。結局、標準的な最適制御の手法だけが応用された。
 『彦根論叢』第367号に、論文として投稿予定としているので、今年の7月から8月には発表される予定である。ただし、仕上がりが遅れる場合には、当該研究成果の後半の残り部分が第368号(9月末発行)以降の号に投稿されることになる。


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