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平成17年度リスク研究センター助成研究報告 0402

地域経済の成長と自然災害

経済学科  教授 鈴木康夫


 ほぼ確定的な表現で近似した新古典派地域経済成長の基本モデルが消費者の最適成長理論の枠組みで構築された。特に、資本ストックの震災後残存率や、労働力1単位当りの防災支出を表す変数を導入し、これを消費のようなフロー量と同様に扱うなどして、諸々のバージョンの分析が展開された。
 こうした考察から得られた基本的な分析結果は、新古典派的な修正黄金律や均衡成長の状態が一義的に存在することであり、しかも、もしも無限計画解が存在する場合には、最適経路となる軌道が一義的に存在することも分かる。また、政策面に注目し、政策的解釈が可能な比較静学分析も行われ、その防災支出が外生的に増大すれば、消費の長期均衡水準のみが低下し資本労働比の長期均衡水準には全く影響しないなどの基本的な結果も得られている。なおこれらは部分的なモデルの加工による単純な分析だが、修正黄金律や(最適)成長軌道に及ぼす災害の負の効果やリスクの動学的影響を分析した内容として解釈できる。
 しかしながら、主な分析は、特定の1回きりの地震災害を想定して、有限計画期間のモデル設定で行われている。こうした想定は調査結果から妥当な想定であり、また政策面の考察を一層明確にでき、研究上の利点がある。この場合の分析では、横断性条件に制約されることだが、この条件が適当な形で得られるならば、最適成長経路の軌道が一義的に存在し得るという主張も可能である。ただし、軌道の単調性は保証されないなどの関連の内容や諸結果も得られている。これらも、形式面では部分的な研究結果に見えるが、妥当な内容であり、一つの研究成果として論文に仕上げられている。
 さらに、試みとして、その防災支出が可変的な場合も、部分的に一層単純なモデルで分析され、新古典派的成長で周知の諸結果によく類似した諸結果が得られている。
 以上の諸考察の内容は、地震災害に対して事前に最適な経済計画を立案するという問題意識から設定された長期的経済問題を動学的に分析したものである。他方、これらに対して、地震災害を事後的に捉え、短期的性格の強い観点での、復興経済過程はどのように展開するかという問題意識から、震災後の事後的な復興過程という応用考察へと繋がる基本的な考察も模索されたが、経済成長現象ないし経済成長理論を手がかりにして基礎理論研究が行われただけであった。すなわち、この基本的な考察は、応用考察への繋がりに全く触れることなく、基本分析にのみ集中して、ハロッドの経済変動成長モデルの再解釈と理論的拡張という純粋に基礎理論的な形で終始行われただけである。
 このハロッド・モデルの基本的な分析は、拡張的な理論的再解釈であり、経済動学の学説史的な意義も併せ持つ考察である。この考察によれば、大まかに言えば、第一に、経済成長過程は従来と同じく動学的に不安定で変動成長が続くものではあるが、しかしこうした変動過程は長続きせず比較的に短命に終わる、つまり短期的性格のものに過ぎないということである。第二に、こうした変動過程は、単純な不安定性原理と整合する成長循環過程と捉えられるということである。かくして、ハロッド・モデルの理論的な動学的過程を、むしろ自律的な減衰振動で表現することを主張する。つまり、現実ないし保証成長率の動学的体系の長期均衡点が、不安定性原理と整合する渦状点となるということがそれである。それらの解釈に基づき、現実および保証成長率の概念について、拡張解釈ないしその主張と整合する理論的な定式化が形式的に可能であるということも、それほど一般性を失うことなく論証できることがわかった。また、十分あり得る場合としてだが、ある特殊な場合には、均斉ないし均衡成長の理論的可能性も存在することが論証されている。

研究成果発表の時期と方法
発表時期: ハロッド関係の研究内容は、論文としてすでに平成18年1月に公表されているが、他方、新古典派成長関係の研究内容は、平成18年7月末に公表予定である。
発表方法: ハロッド関係の研究内容は、すでに学術誌(『彦根論叢』第357号、pp.143-163)上に論文として発表されているが、他方、新古典派成長関係の研究内容は、学術誌( 『彦根論叢』第361号、pp.99-117 )上に論文として発表予定。これらの他にも、未整理の研究内容や考察結果かがあるので、今後もこうした研究を継続して、すぐにではないが、まとまり次第適当な時期に、それぞれのバージョンのモデルでの考察内容や分析結果を論文にして発表して行く予定である。


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