日 時:平成30年11月15日(木)16:10~17:10 会 場:滋賀大学 彦根キャンパス 545共同研究室 演 題:第10回リスク研究センター主催 応用経済学セミナー 『-自治体の入札における談合の検知-Detecting Collusions in Japanese Municipalities』 講 師:中林 純 氏(近畿大学経済学部 経済学科 / 経済学研究科 准教授) |
報告者の中林純氏は、実証産業組織論、特に入札データを用いた実証分析のエキスパートとして国際的に活躍する研究者です。今回のセミナーで報告された研究"Detecting Collusions in Japanese Municipalities"は、東北地方の市町村の公共工事の入札データを用い、入札談合を検知することを試みた研究です。
談合をデータから検知するために、中林氏らは、談合が行われている場合にしばしば観察される「一位不動」という現象に着目しました。公共工事の入札では、発注者である市町村は通常、入札での落札額に「予定価格」と呼ばれる上限額を設けます。予定価格は、入札の前に公開される場合と、非公開のまま入札が行われる場合があります。発注者が予定価格を非公開のまま入札を行う制度を採用している場合、すべての入札額が予定価格を上回ってしまうことが多々あり、その場合には2回目、3回目と再入札が実施されます。このような制度の入札で談合が行われていると、初回の入札と再入札とで、一位になる入札者が同一になるという現象が頻繁に観察されます。これが一位不動です。
一位不動という現象は談合がなくても起こりえますので、単に一位不動が観察される、ということを根拠に談合の有無を議論することは困難です。そこで中林氏らは、分析対象とした自治体の入札では、入札が正常に行われていることを前提とすると極めて低い確率でしか生じないはずの事象が異常に高い頻度で起きている、ということを統計的に示しました。
たとえば、初回入札の2位と3位の入札者は、再入札となった2回目では約半分の確率で順位が入れ替わることが観察されています。また、初回入札で1位と2位が僅差であった場合には、工事コストの差がほとんどないはずなので、2回目で順位が入れ替わる可能性が十分に高いはずです。にもかかわらず、実際のデータでは1位と2位が入れ替わる確率は極めて低くなっています。この結果は、一位不動の現象が偶然によって起きたものではなく、入札額が談合によって調整された結果であることを示唆しています。
中林氏らの研究は、談合を検知する上でのアイデアが独創的であるだけでなく、実務的にも非常に有用です。というのも、既存の検知手法には、入札データ以外の膨大な情報が必要とされるなど、いくつかの大きな制約がありました。中林氏らの手法はこれらの問題を回避した画期的な手法であると筆者は考えます。
セミナー当日は学外やデータサイエンス学部からも参加者が集まり、活発に意見交換が行われました。
文責:経済学科准教授 石井 利江子
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