講演日時: 2026年9月10日(木)10:00-12:00
表題: 研究会「引揚孤児」からみる引揚研究の可能性
講師: 大石 茜 先生(松山大学人文学部 准教授)
開催様式: 対面及びオンライン開催
開催場所: 総合研究棟士魂商才館3F セミナー室Ⅲ
参加対象: どなたでも(参加申込が必要です)
開催概要
『「引揚孤児」関係資料集成』(六花出版、2026年~)の編集に関わってきた経験をもとに、「引揚孤児」に関わる史資料の収集過程や特徴について紹介するとともに、今後の引揚研究の可能性を考えていきます。「引揚孤児」をめぐる史資料には、満洲において敗戦前後から引揚げまでのあいだ、人々がどのような境遇にあったのかを示す史料が多く含まれています。史資料から「引揚孤児」の移動を追うことで、敗戦前後の満洲での状況のみならず、引揚港上陸後の、戦後日本の救済事業との接続についても検討が可能です。このような史資料の特徴から、今後どのような引揚研究へと展開し得るのかを考えていく機会にしたいと思います。
開催報告
今年2026年に、単著(『保育の帝国史―家族をめぐる統治の技法』岩波書店)を刊行し、また、複数名による編集史料集(『編集復刻版「引揚孤児」関係資料集成』全3巻、六花出版、2026年7月)の第1回配本を遂げた大石茜さんは、研究会にお招きするに時宜のひとといえます。「「引揚孤児」に関わる史資料の収集過程や特徴について紹介するとともに、今後の引揚研究の可能性を考え」るとのご報告からは、まずなにより、〈史料の威力〉とでもいうべきところを感じました。
上記資料集成に収録した史料は、それを保管していた施設の廃園時に相談があり、必ずしも満洲史や引揚史の専門家ではなかった研究者の判断で史料を確保し、それがまた「いもづる」式にほかの史料につながって、今回配本の資料集成につながったといいます。これは、滋賀大学経済学部にある「満洲引揚資料」もまったくおなじで、かつてそれを持っていた国際善隣協会(満蒙同胞援護会からつながる)から法政大学大原社会問題研究所へ、そして滋賀大学へと受け入れられた事情につうずるところです。歴史を経た史料には、どこかそうした生きながらえる力が籠っているばあいがありそうです。
その史料には、「引揚げ」という難事にかかわって生きられたり生きられなかったりした子どもたちのゆくえが記されています。そうした個人情報については、伏せ字=墨塗りとせざるを得なかった箇所があるといいます(六花出版代表のご発言もあった)。ただ、引き揚げた子どもたちはその後も移動する、性別がわかると引き揚げた子どもたちのようすにいっそうの理解がおよぶばあいがある、引き揚げた子どもたちが兄弟なのかどうかその続柄がわかるばあいがある、といった理由で、できるだけ子どもたちの名がわかる編集をこころがけたとのこと。
こうして資料集成編者の手にわたった史料によって、これまで知られてこなかった「同胞援護婦人連盟」の存在がわかり、それにかかわった伊藤房緒が知られてゆきました。
戦後日本社会では、「引揚孤児」たちは「偏見や無理解」にさらされました。そうしたなかで、「引揚孤児」たちを「同胞」として「援護」した団体やそれを担ったひとには、戦前戦中からの連続性や、外地との接点がありました。
だれが、どのように「引揚孤児」たちを保護したのかを問うてゆくと、「加害/被害の二項対立的な図式や戦争責任を問う」という視点だけでは、援護の団体や担い手たちの評価が困難となる、と大石さんは指摘しました――こうした論点をふまえてわたしは、第二次世界大戦にかかわる引揚史研究とは、一つには〈帝国の後始末〉を適確に見届けることであり、そこでの子どもたちへの着眼は、みずからの責とはかかわりなく引き揚げをせざるを得なくなり、そして、かならずしももと居た場所ではないところで生き延びてゆくこと/それがかなわなかったことは、いわば〈戦後社会の下拵え〉のその一端を引き受けた軌跡をわたしたちにみせつける意味があるのだろうと感じました。
当然のこと、史料をきちんとふまえた研究には説得力があります。そうした研究をすすめるための土台である資料集成の刊行を遂げた編者のみなさんの尽力と出版社の手腕に敬意を表します。 (阿部安成)
講演の様子


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