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平成29年度第3回 ミクロ経済学先端研究セミナー 20170608

リスク研究センターでは、平成29年6月8日(木)、宮川 栄一氏をお迎えして、ミクロ経済学先端研究セミナーを開催致しました。


  日 時:平成29年6月8日(木)16:10~17:10 
  会 場:滋賀大学 彦根キャンパス 545共同研究室(ファイナンス棟5F)※士魂商才館ではありません。ご注意ください。
  演 題:『ゲーム理論で教育を分析する』
 講  師:宮川 栄一氏(神戸大学大学院経済学研究科 教授)  

【講演概要】

■講師紹介
 宮川氏は、関西学院大学経済学部を卒業後、神戸大学大学院経済学研究科で修士課程を修了して、米国のロチェスター大学に留学しました。経済学のPh.D.を取得後、米国のコロンビア大学でAssistant Professorとして約9年間務めた後、2007年に母校の神戸大学の教員として戻ってきました。専門はミクロ経済学分野の中でも特にゲーム論の研究をされています。数理的な経済理論分析を専門とする国際学術誌の中で権威のあるJournal of Economic Theory(通称、ジェト)に、宮川氏は幾つもの研究論文を掲載しています。
 
■研究背景:ゲーム理論とは
 (ゲーム論を用いない)経済学では、個人の経済行動にしても、企業の経済行動にしても、「ある状況」の下で『最適』な選択をすることが想定されています。例えば、「ある状況」というものが商品や原材料の「価格」であれば、個人や企業は自分の行動を決定する時に、自分の行動によってその価格が変わることは考えません。少し専門的な表現を使えば、価格などの「ある状況」は外生的に決まっていると考えて、そのもとで自分にとっての最適な行動を取ります。ある意味、世界の中で、自分一人だけがどのような行動を取るかを選択しているようなものです。
 しかし、ゲーム論では「ある状況」は外生的ではなく、自分のとる行動によって変化すると考えます。世界の中で、どのような行動をとるかを考えているのは自分だけでなく、他にも同じように考えている個人や企業がいるのです。そのため、ゲーム論では少なくとも二人以上のプレーヤーを想定しています。そして、一人のプレーヤーの選択した行動は、もう一人のプレーヤーの行動に影響を与えてしまい、「ある状況」は自分の取る行動に連動して変化してしまいます。このような設定で、最適な行動(ゲーム論では戦略と呼びます)を選択することを考える応用数学がゲーム論です。ナッシュ均衡で有名なJohn F. Nash Jr.を始め、多くのゲーム理論の研究者がノーベル記念経済学賞を受賞しています。

■セミナー内容
 今回のセミナーのテーマは、学生や教員はもちろんのこと、社会人であっても大学に籍を置いたことのある者であれば、誰でも関心を持つテーマでした。それは、『学生はどれだけ勉強に努力を費やし、教員はどのように成績を決定しているか』、という問題でした。このような問題を考えると、あらゆる要因が頭に浮かぶことだと思います。しかし、経済学の理論モデルを構築する時に重要なのは、全ての要因を取り込むことではなく、最も根幹に関わる部分をシンプルな形でモデルとして構築することです。でないと、問題の答え(解)が得られなくなったり、あいまいな答えしか得られなくなってしまいます。
 宮川氏が設定したのは、以下の通りです。ある授業において、学生が苦しい勉強に時間をかけて努力するのには、(1)その科目の単位をとれる喜びと、(2)自分の能力を向上させることで将来から得られる便益、の二つのためです。しかし、宮川氏の想定する学生は、直ぐに結果が得られる(1)に対しては正しく評価するのですが、卒業してからの遠い将来に役立つような能力に関しては低く評価してしまいます。これは、行動経済学(behavioral economics)で、現在バイアス(present bias)と呼ばれています。そのため、(コストとベネフィトを正しく評価した)最適の量よりも少ない勉強しかしなくなってしまいます。
 一方、教員は学生のことを真摯に考えていて、(1)も(2)も正しく評価します。できることなら、今すぐのことだけに囚われがちな学生に、将来のためにもっと勉強するように仕向けたいのです。となると、教員にとっての最適な戦略は、学生に将来の能力を高めるために最適な量まで勉強をさせることです((2)の上昇)。しかし、採点の時には、既に努力を費やした後ですので、教員が学生の厚生を上げるためには、成績に関係なく合格((1)の上昇)させることになってしまいます。ですが、教員には宮川氏が道徳心(モラル)と呼ぶ、テストの悪い点数を取った学生に合格を出すことの心苦しさのコストがあるため、全員を合格とはしません。実際に教員がとる行動は、どこまで(誰まで)を合格にするかの決断となります。ですが、採点時には、もう授業も試験も終わっているため、本来よりも甘い採点となり、合格率が高くなってしまいます。ここまでの分析の結論では、学生は本来よりも努力が過小になり、教員は本来よりも甘い採点をしてしまいます。ここで大事な点は、学生は教員が甘い採点をすることも読み込んで、努力を怠るのです。
 どうすれば、この問題を解決できるのでしょうか?宮川氏が提唱している方法は、大学として事前に合格率(例えば、80%)を設定して、学生に通知をします。そして、教員は採点時に、その事前に設定された合格率以上の学生を合格することを許されません。このようにすると、学生は甘い採点に期待が出来ないため、より多くの勉強に努力を費やし、結果として学生の将来に役立つ能力も向上します。
 さて、幾つかの疑問点が考えられます。理論モデルからは理想の合格率は明確に示されています。しかし、それは観測できない理論モデルのパラメターを多く含んでいます。実際の合格率をどのように設定すれば良いのかは、導入時に非常に難しい問題となります。しかし、多くの学生が欠席しがちの大講義で、全員に近い人数が合格する授業というのは、教員のモラルが欠落しているのが原因であると宮川氏の理論モデルからは示唆されます。そのような講義に関しては、合格率の規制も有効でしょう。(もちろん、そのような講義は滋賀大学経済学部には無いと信じたいのですが...。笑。)
 私と同様に多くの皆さんも、いろんな疑問や問題点が頭に浮かんでくることだと思います。しかし、新しい経済理論というのは最もシンプルなところからスタートして、そこから少しずつ進歩していくのです。他の多くの研究者から何百回と引用される研究論文というものには、得てしてそういうものが多いものです。今後の宮川氏の研究の発展と、日本の大学における教育効果の向上に期待して、本文を締めさせて頂きます。
                       

(文責 ファイナンス学科教授 吉田裕司)

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