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平成29年度第1回 学際研究セミナー 20170427

リスク研究センターでは、平成29年4月27日(木)、林 憲吾氏をお迎えして、学際研究セミナーを開催致しました。

  日 時:平成29年4月27日(木)16:10~17:10 ※開催時間を今年度より変更しております
  会 場:滋賀大学 彦根キャンパス セミナー室(大)(士魂商才館3F)
  演 題:『金融危機と都市景観-アジア通貨危機がもたらしたジャカルタの郊外化―』
 講  師:林 憲吾氏(東京大学生産技術研究所 講師)  

【講演概要】

◆講師の紹介
 林憲吾氏は2017年2月から東京大学生産技術研究所講師を務めています。林氏の専門は建築史で、特にインドネシア建築史に詳しい研究者です。建築史の専門家を本学リスク研究センター主催のセミナーに招聘したわけですが、意外に思われた人も多かったかもしれません。しかし、今回のセミナー名をよく見ると、「学際セミナー」となっています。実は、林氏と私は2007年から総合地球環境学研究所(地球研)のメガ都市プロジェクトで一緒に研究をしてきました。地球研のプロジェクトは数十人におよぶ多彩な研究者とステークホルダーが超学際的研究をおこなうもので、林氏はその中でサブリーダーを務めてきた人物です。そのため、林氏は経済学を含めた多彩な研究領域の息づかいを理解できる稀有な研究者の一人です。林氏の著作も建築史から都市サステイナビリティまでと多彩です。

◆講演内容の紹介
 今回、林氏には「金融危機と都市景観-アジア通貨危機がもたらしたジャカルタの郊外化―」について講演していただきました。講演の題目は多分に滋賀大学経済学部を意識して付けられたものです。そのため、講演中に若干の混乱を招きましたが、林氏の専門領域の特性を存分に生かした講演をしていただき、非常に刺激的でした。混乱と刺激の種明かしは、後ほどしたいと思います。
 取り上げられたジャカルタはインドネシアの首都です。実は、ジャカルタは、ジャカルタ市だけではなく、周辺のいくつかの都市(Bogor(ボゴール市)、Depok(デポック市)、Tangerang(タンゲラン市)、Bekasi(ブカシ市))を含めたジャボデタベック(JABODETABEK)という都市圏を形成しています。その人口規模は2300万人に達します。東京都市圏に次ぐ世界第二位の規模となっており、ジャカルタ都市圏は世界のメガシティの中でも注目される存在です。林氏の講演は、都市化の波に飲まれたジャカルタ郊外に、現在どのような景観が形成されているのか、そしてその景観が、1997年に起こったアジア通貨危機とどのような関係にあるのかを探ろうというものでした。社会経済的な現象と、目の前に広がる都市と都市を形成する建築や土地利用形態といった物理的な景観とのつながりをみんなで感じようというものでした。
 インドネシアは湿潤なモンスーンアジア地域に位置しており、都市周辺に水田を伴った農村地帯が広がっています。20世紀後半、都市の拡大が世界的に起きたわけですが、ジャカルタのみならずモンスーンアジアの都市では、郊外の農村を完全に都市化してしまうのではなく、都市と農村が混在するという現象が生じていると言います。この現象は地理学者のT.マギーによって「デサコタ(desakota)」と名付けられています。デサコタでは都市並みの人口集中が起きているにも関わらず、土地利用形態が農村になっています。しかし、林氏の現地調査によると、ジャカルタ郊外では必ずしも農業依存しているわけではなく、多くの人が近隣の第二次産業や第三次産業に従事していると言います。とりわけ、この種の産業従事構造はアジア金融危機を境によく見られるようになった現象であると考えられ、経済現象の影響を受けて変化していると推察されるとのことでした。加えて、農地はディベロッパー所有となっているものの、開発されるまでの間、現地農業従事者が暗黙の了解事項として農地として利用しているのが現実となっています。開発されるケースでは、水稲耕作と共存した住宅地開発ではなく、中間所得層以上向けの典型的な開発住居地となっていっています。
 近代都市計画では、都市と農村の混在は無秩序な都市拡大として否定的に捉えられてきました。しかし、林氏によると、そうした混在が、生物多様性の保全や快適な温熱環境の維持などにつながっているとして肯定的に捉えられるのではないかと言います。世界的に地球環境を配慮したサステイナビリティを議論している現在、そうした混在を維持した方が良いのではないかと言えるのではないでしょうか。こうした背景のもと、林氏は、ジャカルタ郊外において環境負荷の増大や居住快適性の低下のリスクが高まっていると指摘しています。
 最後に冒頭で予告した種明かしをしておきます。林氏の専門の特徴として、現実の観察を積み重ねて、これまでの世界観を抜本的に変えるような新しく面白い仮説の構築を試みるということがあります。他方、経済学者は現実の観察を積み重ねるところには相対的に弱く、ある種の現象の傾向に関する仮説を素早くセットし、その検証に情熱を注ぎます。この違いによって、講演の前半、会場にいた経済学をベースとする聴衆は混乱しました。アジア金融危機が引き起こしたであろう現象を明確に指摘することなく、前半は現実の観察の積み重ねが紹介されたからです。聴衆はシンプルな仮説を早く聞きたかったわけです。そして、どのようにデータ(質的データを含む)で検証してみせるのかを見たかったようでした。私は、このギャップ感こそが林氏の講演の焦点だったのではないかと思っています。この点でも、林氏は滋賀大学に知的刺激をもたらしてくれました。

◆セミナーの様子  
 士魂商才館3階のセミナー室大でおこなわれました。備え付けの聴衆席がほぼ埋まるほどの盛況ぶりでした。正確ではないかもしれませんが、学部生が15人程度、大学院生が15人程度、教職員が10人程度といった構成でした。林氏には講演中の質問を許可していただき、セミナーは最初から最後まで林氏と聴衆の間で議論が絶えることが無く、非常に活気のある空間となりました。そして、その良い雰囲気をそのままに、林氏と一緒に、教員4人、学部生2人の合計7人で、楽しい夕食会のひとときを過ごしました。そのとき、学部生2人と林氏の間で、建築史(フィールドワーク)と経済学の思考スタイルの違いについて熱心にディスカッションしていた様子がたいへん印象的でした。「いいシーンを見たなあ。」
                            (文責: 経済学系 教授 森 宏一郎)
   

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