日 時:平成29年10月19日(木)16:10~17:10 会 場:滋賀大学 彦根キャンパス セミナー室(大)(士魂商才館3F) 演 題:『Assessing the Inefficiency Caused by the Hold-up Problem in Public-works Procurement |
【講演概要】
報告者の鶴岡昌徳氏は、実証産業組織論分野における新進気鋭の若手研究者です。これまでの研究は一貫して、公共入札やその後の公共工事において発生する諸問題の分析であり、大阪大学社会経済研究所森口賞入選など、若手研究者を対象とする賞を複数受賞しておられます。
今回のセミナーで報告された研究「Assessing inefficiency caused by the hold-up problem in public-works procurement」は、公共工事を受注する業者が品質を選択する際に生じる非効率性を分析した大変興味深い研究です。 公共工事では、工事内容に変更が生じたり工事が想定以上に困難であったりした場合、最終的な工事金額が修正されることがあり、その追加的支払額は受注者と発注者の間の交渉によって決定されます。今回の鶴岡氏の研究は、その交渉の際、発注者と受注者は品質に関して完備契約を結ぶことが出来ず、社会的に望ましい品質の工事が納品されないという問題に着目しました。
分析においては、発注者と受注者の間の交渉、その後の受注者の品質選択、および発注者によるオークションの設計等の行動がモデル化され、その均衡を特徴付ける式に実際の工事品質等のデータを当てはめていくことによって、モデルの構成要素となるパラメータが推定されています。
さらに、推定されたパラメータを元に、もし上述の問題が生じていなければどの程度の品質が達成されていたかを試算し、品質の低下と社会厚生の損失の度合いを割り出しています。鶴岡氏の試算によると、国の発注する公共工事においては、上述の問題によって約35%の品質低下が生じ、それによって社会厚生が26%損なわれているとのことです。このアプローチは、「現実とは異なる仮想的な状況を描く」という意味でcounter factualと呼ばれています。
このような形で仮想的な状況と現実を比較分析することは非常に説得力があり、理論モデルとミクロデータの絶妙な合わせ技である構造推定の大きな利点であると、筆者は改めて認識した次第です。公共工事の金額修正と品質に着目した分析、しかもナッシュ交渉解をベースとした構造推定は非常に新鮮で、後日、何度も頭の中でモデルを反芻するほどでした。大いに刺激を受けたセミナーとなりました。
(文責 経済学科准教授 石井利江子)
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