TOP経済経営研究所(ebrisk)■客員研究員制度 ≫ 令和7年度 客員研究員研究報告書(令和7年4月1日~令和8年3月31日)

令和7年度 客員研究員研究報告書(令和7年4月1日~令和8年3月31日)

▷一覧に戻る

  1. 氏名及び所属(所属名等は在籍当時のもの)
  2. 調査・研究テーマ
  3. 研究成果の概要(中間報告可)

※学会報告や論文発表がある場合は大会名・誌名・タイトルを記載。ない場合のみ概要や計画を記述。

推薦型客員研究員

① 稲村由美(鹿児島国際大学 経済学部 経営学科・教授)

■研究テーマ
債務契約が経営者の利益調整行動に及ぼす影響に関する研究

■研究成果の概要(中間報告可)


本研究ではまず、古くから実証会計学(特に利益調整研究)の分野で提唱されている「負債仮説」と「負債比率仮説」に焦点を当て、財務制限条項違反への接近度と負債比率との関係を検証した。その結果、我が国では①負債比率の高い企業ほど、より厳しい財務制限条項設定がなされ、②負債比率の高い企業ほど財務制限条項に記載の閾値に接近している、という2つの傾向が観察された。これらの結果は、利益調整研究の実証モデルに変数「負債比率」を組み込むことによって、容易に「債務契約が経営者の利益調整行動に与える影響」をコントロールすることが可能になることを示唆している。(研究の詳細は、稲村由美 (2025)「利益調整研究における負債比率の利用に関する考察 : 財務制限条項と負債比率との関係」『産業經理』第85巻 第3号, 38-47頁.にて公表済み)
次に本研究では、債権者による規律付けと企業価値の中長期的な向上との関係をコーポレート・ガバナンスの視点に基づき検討を行った。(研究の詳細は、日本会計研究学会第84回大会 特別委員会【最終報告】にて報告済み)従来からコーポレート・ガバナンスの研究分野においては、主として取締役会や監査人に注目して分析が行われることが多く、債権者と債務契約の役割に関しては、ほとんど関心が払われて来なかった。そのようなリサーチ・ギャップを埋めるためにも、本研究は今後も継続する予定である。
なお、当該研究の遂行にあたり、笠井直樹先生(滋賀大学経済学部)からデータ取得や参考文献について、適切なアドバイスを頂いた。

② 井手一郎

■研究テーマ
大学とファイナンスに関する経済学的研究

■研究成果の概要(中間報告可)
主要な研究は進行中で、未発表です。
「道路の混雑:独学者のためのミクロ経済分析入門Ⅱ」『彦根論叢』
444、p.72‐86、2025
「主体化と秩序形成:言語、学術知 及び 価値観」mimeo.
「道路の混雑:独学者のためのミクロ経済分析入門Ⅲ」mimeo.③ 夏吾太(青海民族大学 経済経営学部 准教授)

③ 夏吾太(青海民族大学 経済経営学部 准教授)

■研究テーマ
生態牧畜業農産物に対す消費者の選好について経済分析

■研究成果の概要(中間報告可)
The aim of this study is to investigate factors affecting consumers' willingness to pay a premium price for eco-friendly animal husbandry products in China. To this end, we introduced three premium-priced rice products and conducted a survey among 1,000 consumers to test their attitudes regarding the products' characteristics (reduction in the use of pesticides and chemical fertilizers in favor of organic fertilizers; locally grown; and price per kilogram) and to identify the factors affecting consumer intentions. Also, we conducted a discrete-choice experiment (best-worst scaling multi-profile case) using subjective and inferred valuation to determine the social desirability bias. To ensure respondents were heterogeneous, we used the mixed logit model. The results show that consumers value the reduction in pesticides and chemical fertilizers and the ability to support the local community more than the relative price increase. Therefore, consumers are willing to pay for food safety in environmentally friendly products. We found the inferred valuation to be higher than the subjective valuation. Therefore, there was no evidence of a social desirability bias. Our results underline the importance of understanding context when investigating social desirability.

④ 今井綾乃

■研究テーマ
高等商業学校史実証研究

■研究成果の概要(中間報告可)
旧制高等商業学校(以下、高商、と略記)の実証研究をすすめるため、旧制彦根高等商業学校(以下、彦根高商、と略記)の支那科・東亜科について、他の高商と比較し調査した。その成果を、①「研究ノート 旧制官立高等商業学校と東アジアについての素描:学科課程としての支那科と東亜科」(『彦根論叢』第444号、2025年7月、阿部安成との共著)、②「旧制官立高等商業学校の支那科・東亜科が目指した地域:学科課程の変遷比較と彦根高等商業学校生の進路追跡から」(『滋賀大学経済経営研究所ディスカッションペーパー』No.J-11、2025年12月)で発表するとともに、滋賀大学経済経営研究所・朝鮮史研究会等共催の国際シンポジウム「帝国日本の専門教育:高等商業学校と女子高等師範学校を中心に」(2025年12月20日、滋賀大学彦根キャンパス)において、「20世紀前期官立高等商業学校の支那科・東亜科について:その学科課程と進路動向」をテーマに報告した。これらにより、高商における支那科・東亜科の就職動向ならびに教育活動の実態の一端を示した。

⑤ 山本健人(熊本学園大学大学院会計専門職研究科 准教授)

■研究テーマ
株主による監査人の評価メカニズムの解明に関する研究

■研究成果の概要(中間報告可)
昨年度の研究では、監査人選任議案に対する議決権行使を、監査人に対する株主の評価の代理変数とし、金融庁による懲戒処分がどのような影響を与えるか分析した。分析の結果、金融庁による懲戒処分を受けた監査人を選任する議案はそうでない場合と比べ反対率が高いことが判明し、懲戒処分は監査人の評判を毀損させるイベントであると結論づけた。
本年度は、評判が毀損することで監査人にはどのような経済的帰結が生じるのか分析した。具体的には、2015年に金融庁が下した新日本有限責任監査法人(以下、新日本)に対する懲戒処分に注目し、当該イベントの発生により新日本の新規クライアント獲得能力や既存クライアントの喪失可能性、また、既存クライアントから支払われる監査報酬にどのような影響が生じたのか分析した。結果は、懲戒処分により、新日本の新規クライアントの獲得能力は低下し、既存クライアントの喪失可能性は上昇するものの、監査報酬への影響は見られないというものであった。

⑥池村恵一(東洋大学経営学部会計ファイナンス学科・准教授)

■研究テーマ
企業会計における株式オプションの取扱いに関する研究

■研究成果の概要(中間報告可)
2025年度においては,IASBのFICEプロジェクトにおけるコメントレターを分析した。具体的には,IASBが提案した,非支配株主持分に対する売建てプット・オプションの会計処理についてコメントレター回答者が一般にどのような意見を提示し,そこにどのような会計思考がみられるかを検討した。


⑦薄井 彰(早稲田大学商学学術院 教授)

■研究テーマ
包括利益の価値関連性に関する実証方法の再検証

■研究成果の概要(中間報告可)
制度研究において重要性が極めて高い論点である包括利益情報の有用性について、今後、エビデンスに基づく政策提言を行うため、包括利益情報を細分化した価値関連性研究を行う。具体的には、包括利益を(1)当期純利益と(2)その他包括利益に区分するとともに、(2)その他包括利益を①当期発生額、②組替調整額、③税効果額に区分し、それぞれの価値関連性を計測する。また、疑似的にリサイクリングを行わなかった場合の分析も行う。
 その他有価証券評価差額金の増減額に限定したパイロットテストを行うべく、令和6年度から継続して進めていた③税効果額のデータ補完作業が終了した。作成したデータセットを用い、その他有価証券評価差額金の増減額について、①当期発生額、②組替調整額、③税効果額に区分して価値関連性の有無を検証した結果、①当期発生額は価値関連性を有する一方、②組替調整額と③税効果額については価値関連性が認められなかった。
 本パイロットテストは、包括利益情報を細分化して価値関連性を検証する分析方法の有効性を確認するものであり、今後、対象項目や分析期間を拡張して検証を進めることにより、包括利益の表示およびリサイクリングのあり方に関する制度的議論に対し、より精緻な実証的知見を提供しうることを示している。


⑧ 海老原 崇(武蔵大学経済学部金融学科 教授)

■研究テーマ
包括利益の価値関連性に関する実証方法の再検証

■研究成果の概要(中間報告可)
制度研究において重要性が極めて高い論点である包括利益情報の有用性について、今後、エビデンスに基づく政策提言を行うため、包括利益情報を細分化した価値関連性研究を行う。具体的には、包括利益を(1)当期純利益と(2)その他包括利益に区分するとともに、(2)その他包括利益を①当期発生額、②組替調整額、③税効果額に区分し、それぞれの価値関連性を計測する。また、疑似的にリサイクリングを行わなかった場合の分析も行う。
 その他有価証券評価差額金の増減額に限定したパイロットテストを行うべく、令和6年度から継続して進めていた③税効果額のデータ補完作業が終了した。作成したデータセットを用い、その他有価証券評価差額金の増減額について、①当期発生額、②組替調整額、③税効果額に区分して価値関連性の有無を検証した結果、①当期発生額は価値関連性を有する一方、②組替調整額と③税効果額については価値関連性が認められなかった。
 本パイロットテストは、包括利益情報を細分化して価値関連性を検証する分析方法の有効性を確認するものであり、今後、対象項目や分析期間を拡張して検証を進めることにより、包括利益の表示およびリサイクリングのあり方に関する制度的議論に対し、より精緻な実証的知見を提供しうることを示している。


⑧ 京井 尋佑(山形大学人文社会学部 講師)

■研究テーマ
環境配慮行動に関する社会ネットワークの研究

■研究成果の概要(中間報告可)

本研究では、社会ネットワーク上での環境配慮行動の伝播メカニズムを解明するため、大きく2つの研究を実施した。第一に、学生を被験者とする経済実験をデザイン・実施し、複数大学において、コンピュータ上で作成した仮想的な社会ネットワーク上での環境配慮行動の伝播メカニズムを分析した。実験の結果、社会ネットワーク上に環境配慮的に振る舞うBot(事前に指示したように振る舞うコンピュータ・ウログラム)を導入した場合、Botと直接つながる個人は環境配慮的な行動を取りやすくなる傾向が見られた。本研究成果は、現在、査読付き国際学術誌へ投稿中である。

第二に、島根県をフィールドに活動する環境NPO法人を対象にインタビュー調査を実施した。インタビュー調査を通じて、実社会における社会ネットワークの形状や広がり方、ネットワーク上で起きている具体的事象についての示唆が得られた。特に、他の個人に環境配慮敵行動を促す影響は、実際にはネットワークの縁辺部で起きている可能性が浮上した。得られた成果を論文にまとめるため、現在成果を取りまとめている。


⑨ 伊藤宏之(米国ポートランド州立大学経済学部教授)

■研究テーマ
インボイス通貨シェアに基づく二国間・産業別実効為替レートの研究

■研究成果の概要(中間報告可)

この研究テーマ実施のためには、日本財務省が管理している輸出入申告書の個票データベースへのアクセスが必要であり、第四期共同研究応募に佐藤清隆氏(横浜国立大学)を研究代表者として申請した。研究チームには、推薦者の吉田裕司氏(滋賀大学)に加えて、故伊藤隆俊氏(コロンビア大学)、清水順子氏(学習院大学)、塩路悦郎氏(中央大学)、吉見太洋氏(中央大学)が参画していた。具体的には、日本と個別相手国の貿易産業分類(HS2桁、もしくはHS4桁)別のインボイス通貨比率を計算して、実効為替レートを構築する計画であった。しかし、残念ながら2025年度には採択されない結果となってしまった。そのため、具体的な計量分析には着手できず、一旦共同研究は保留となってしまった。財務省の輸出入申告書の個票データベースへのアクセスが可能になれば、改めて滋賀大学の客員研究員として申請する予定である。


公募型客員研究員

① 河合政利(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)

■研究テーマ
甲賀・日野の地場製薬企業

■研究成果の概要(中間報告可)
滋賀県内の地場製薬産業は、現在、近江日野商人を中心に発展していった近江日野売薬と、多賀大社の坊人から転換した甲賀売薬が中心となっている。これら甲賀・日野地区の地場製薬産業(地場の定義は、本社在地とした)は、過去30年間に渡り県内の他の地場産業と比べて生産額を伸ばしている。しかし、全国で見ると地場製薬産業の中には、薬事法の改訂や生活様式の変化等で顧客が縮小された事などにより、衰退そして消滅していった地域も多くある。
研究概要は、甲賀・日野地区の地場製薬産業の発展を、近世の産業創設期まで遡り、まず以降に薬事法(現在の薬機法)が地場製薬産業に与えた影響を考察する。さらに戦後、品質管理を規定したGMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)導入による業界再編成後の販路等を含めた業務システムの転換による地場製薬産業に与えた影響について考察する。そして現在、OEM事業への参入、OTC医薬品への展開、新薬開発等に至る中で、甲賀・日野地区の地場製薬産業の特色と発展の要因について研究する。

② 石橋千佳子(滋賀大学大学院経済学研究科・特別研究員/神戸学院大学・客員教授)

■研究テーマ
障害者雇用における特例子会社―京都府下の各社の事例から―

■研究成果の概要(中間報告可)
京都府下には14の特例子会社があり、そのすべてにアプローチし、訪問許可をいただいた以下7社の特例子会社にアンケートおよび聞き取り調査を実施した。
①    オムロン京都太陽株式会社
②    株式会社ユアサソシエ
③    株式会社ハートコープ京都
④    株式会社ストーンフリー
⑤    日新ハートフルフレンド株式会社
⑥    株式会社立命館プラス
⑦    株式会社王将ハートフル
 特例子会社の意義は事例からもわかるように法定雇用率の達成だけでなく障害者雇用のノウハウを蓄積し、地域の障害者雇用の促進や従業員の定着率向上に貢献していることにある。特例子会社の限界としては、障害者の管理職が現在はオムロン京都太陽だけであり、キャリアアップの機会が少ないことや、給与水準が低いこと、業務内容が親会社に依存しがちで経済的自立が難しいことが挙げられる。

③ 中井誠(四天王寺大学非常勤講師)

■研究テーマ
コーポレート・ガバナンス~日本企業の指名・報酬委員会はどの程度機能しているか~(我が国企業のコーポレート・ガバナンスの現状と課題)

■研究成果の概要(中間報告可)
2025年3月期の連結報酬の総額が1億円以上の役員がいる企業は357社と前の期から21社増え、過去最高となった。グローバル化が進んだことで、海外から優秀な経営者が日本企業のトップになるケースもあり、外国人経営者の中には欧米企業並みの30億円を超える報酬を受け取っているケースもみられる。さらに、コーポレート・ガバナンスコードの導入により、業績や株価に連動させる形での報酬体系に移行した企業では、近年における株価の上昇により報酬額が増加傾向にある。役員の報酬や役員の選解任に独立性があるか否かは、当該企業の機関設計が整備されているか否かとも密接に関連している。
本報告では、高額な役員報酬を受け取っている役員が所属している企業および1億円以上の報酬を受け取っている役員の数が多い企業などから、代表的な企業5社(伊藤忠商事、ソニーグループ、トヨタ自動車、日立製作所、武田薬品工業)を抽出して、機関設計の側面から検討を行った。とりわけ、役員報酬やトップの交代が指名委員会等設置会社で求められている基準を満たしているか否かを先の5社について検討した。
結論:機関設計上、好ましいと考えられている指名委員会等設置会社を採用している企業においても、日立製作所のように高額報酬を受け取っている役員が多い点が観察された。各々の委員会において過半数を社外取締役で構成していても役員報酬に関しては、ソニーや日立製作所、武田薬品工業などにおいて、近年、報酬の増額に歯止めが利かなくなってきている点が明らかとなった。過去の研究においても、企業内昇進で経営者や役員になるケースの比率が高い日本の企業では、社内での競争が厳しく昇進が困難になるため、役員報酬が高くなる傾向にあるという報告がある。本研究で取り上げた5社については、いずれも有名大企業であり優秀な従業員間の厳しい競争に勝利して役員になったこと、いわゆる昇進トーナメントの勝者のご褒美(高額な報酬)になっているという過去の主張が当てはまることが確認された。
また、グローバル化の進展により、日本の企業においても武田薬品工業のように、外国人経営者がトップであるケースも多くみられる。外国人経営者が日本企業において、欧米の経営者並みの高い報酬を受け取っている。それに追随するように日本人経営者の報酬も増加傾向にある。さらに、日本特有の横並び意識も、競合他社の役員報酬と肩を並べるような形で、自らの企業の報酬を増額させているケースもみられた。
残された課題:今回は紙面の関係上、5社のみの検討に終わった が、日経225に採用されている上場企業225社について、何らかの 定量的な分析を試み、より説得力のある研究報告にする必要がある。

④ 田中 孝憲(関西大学商学部 教授)

■研究テーマ
銀行との取引関係が社債の利回りに与える影響

■研究成果の概要(中間報告可)
本研究の目的は、銀行との取引関係が企業が発行した社債の利回りに与える影響について分析を行うことである。先行研究において、以下の2つの仮説が示されている。まず、銀行は債券投資家には入手できない内部情報を知ることがきるので、それを用いて顧客企業に対してモニタリング(Monitoring)活動を行うことは、債券投資家にとって好ましいことである。結果として、債券投資家は、他の企業と比べて当該企業が発行した社債に対して低い利回りを要求することになる。次に、銀行が顧客企業に対するホールド・アップ(Hold up)問題が発生することを懸念した場合、債券投資家は他の企業と比べて当該企業が発行した社債に対して高い利回りを要求することになる。
実証分析の結果、銀行との取引関係が強い企業は、他の企業と比べて発行している社債の利回りは低いことがわかった。これは、日本のデータを用いた既存研究とは異なる結果である。


⑤ 湯川真樹江(香港大学専業専修学院非常勤講師)

■研究テーマ
財団法人満蒙同胞援護会による歴史編纂、慰霊事業に関する実態調査

■研究成果の概要(中間報告可)
本研究は、満洲における日本人の引揚げを促進した団体である満蒙同胞援護会に着目するものである。本年度はその前段階として、経済経営研究所と満洲との関係を検討した。その結果、以下のことが明らかとなった。
まず、彦根高等商業学校時代には、当時の「海外志向」を背景として、旧植民地関係資料が積極的に収集されていた。田中秀作教授は『海外事情研究』において頻繁に投稿しており、とりわけ満洲国に関しては次のような見解を示している。
満洲国は歴史的に特殊性を有し其の広大にして豊富な境域と資源を擁し、民衆も純朴着実で民族的のママ結束も固いので、援助指導宜しきを得るならば国家として洋々たる前途を有するは言ふまでもなく、最初から特殊関係に立つて之が支持に努めた日本としても其の将来を楽観して飽く迄健全なる発達を期し国家としての内容外観を速かに完成せしめねばならぬ
(田中秀作「我が満洲国観」『海外事情研究』第1輯、1933年、55頁)
田中教授は満洲国は「国家としての内容外観」の速やかな完成を強調しており、そのため学生の派遣に積極的であったことが確認できる。
戦後、彦根高等商業学校は統廃合を経て滋賀大学へと再編された。この過程で戦前の「海外志向」的な特色は"消失"したとみられる。
一方で、1945年前後には満洲から石田興平・山本安次郎・江頭恒治の3名の教授が彦根に到着した。いずれも京都帝国大学出身で、満洲国立建国大学で教鞭を執っていた人物である。
彼等の満洲での経歴はきわめて興味深い。石田興平教授は当初、満洲経済の実態研究を志していたわけではなかったが、建国大学での経験を通じて問題意識を深め、戦後に『満洲における植民地経済の史的展開』を1964年に刊行した。江頭恒治教授は満洲国の高官として満洲建国10周年式典に参列し、国務院総務庁参事官を兼任するなど、行政
中枢に深くかかわっていた。「満洲国」崩壊後の1年間は「国家なき社会生活の辛酸を具さママに嘗め」たと回想している(江竜龍太郎編「江頭恒治博士還暦記念論文集」『彦根論叢』70・71・72号、1960年、327頁)。
山本安次郎教授は「満洲国」崩壊後、建国大学解散に際して「今後の問題について満系学生と協議」したが、その後シベリアで過酷な抑留を経験した。帰還後は体調不良になったものの、日本経済文化研究所の所長として長らく勤務した。(「七十八年のあゆみ」、加藤勝康編『山本安次郎先生喜寿記念文集 めぐりあい』経済学理論研究会、1982年、179頁)。
このように、3名はいずれも満洲経験を有しながら、戦後の滋賀大学経済学部および日本経済文化研究所の基盤形成に重要な役割を果たした。しかし、石田興平教授の業績を除けば、満洲に関する研究は戦後途絶えることとなった。研究所の組織図をみても、「近江商人研究部」「日本企業発達史研究部」「日本産業構造発達史研究部」など、「日本研究」へと重点が移り、戦前の「海外色」は一切みられない。ここには、戦前の活動に対する「沈黙」が認められる。
その後、経済経営研究所では、しばらくの「沈黙」を経て、1990年代頃から再び満洲が注目されるようになった。資料保存の価値を認識していた宇佐美英機教授、「満洲引揚資料」を収集した阿部安成教授、それを精力的に整理した江竜美子氏の3名の貢献が大きい。
「満洲引揚資料」は「旧植民地関係資料」が存在したからこそ、受け入れが可能となった。また「石田記念文庫」は、石田興平教授が経済学部に在籍していたことが背景にある。これらの資料群の受け入れによって「EBRと『満洲』研究者の交流が始まることとなった」(阿部2008)。阿部安成、江竜美子「『満洲引揚』スタディーズの試み――整理、調査、議論――」『滋賀大学Working Paper Series』No.98、2008年、2-3頁。
阿部教授が指摘するように、経済経営研究所と満洲は「未完の、そしてその意義と歴史がとつねに問われる、歴史資料をめぐるいわば文脈」(阿部2008)である。このように人の思いや経験、そして資料そのものが媒介となり、新たな研究活動へとつながっていることが確認できるのである。以上が今年度の研究成果の概要である。


⑥ 田中 あや

■研究テーマ
企業経営の発展プロセスに関する研究

■研究成果の概要(中間報告可)
【学会報告】2025年6月13日,単独, How effectively U.S. and Japanese companies manage DX, SPECIAL SESSION-Japanese Management Today: International Perspectives, SIMA and JABA, Genova in Italy


⑦ 石川清英(滋賀大学経済学部非常勤講師・神戸学院大学法学部非常勤講師)

■研究テーマ
被合併信用金庫の財務特性分析-破綻処理終結後における近畿地区信用金庫の分析-

■研究成果の概要(中間報告可)
1.目的
バブル崩壊以降25の信用金庫が破綻したが、2003年頃にその処理が終結し、その後信用金庫の破綻は発生していない。この時点で信金業界の危機は収束したように思えるが、その後も合併による金庫数の減少は続いている。
この現象は、破綻処理こそ免れたものの、当時、財務内容が著しく悪化していた金庫が相当数存在していた可能性を示唆している。
筆者は自身の先行研究において、全国の破綻金庫と健全金庫の比率財務諸表を用いた時系列分析を行い、破綻の10年前から両者の財務状況に有意な差異が見られることを明らかにした。
本研究は、同様の手法を用い、合併によって消滅した金庫(以下、被合併金庫)と単独で存続、あるいは合併を行い存続金庫となった金庫(以下、存続金庫)との財務上の差異を10年間にわたり分析した。
併せて、破綻金庫と被合併信金の差異について比較検証を行う。
さらに、近畿3府県(滋賀・京都・大阪)の合併事例を対象に、地域別及び個別金庫のケーススタディを実施した。
2.分析手法
・サンプル選択
-被合併金庫:破綻処理終了後の2001~2004年度の4年間に合併された近畿地区の12金庫。
-存続金庫:被合併金庫と同一地区から選定。複数候補がある場合は、後に合併主体となった金庫など関連性の高い金庫を選択。
-サンプル数の偏りを防ぐため、両グループとも12金庫ずつ(計24金庫)とした。
・分析手続
-各サンプルの10年度分の総勘定科目を対象とした比率財務諸表を作成。
-「存続金庫」と「被合併金庫」の2グループに分け、勘定科目ごとのマハラノビス距離(MD)を算出。
-MDが大きい(差異が顕著な)指標を絞り込み、詳細な分析を加えた。
3.分析結果と結論
 10年間にわたる差異分析の結果、両者間には1991年度の時点ですでに、財務の健全性に差が認められた。この差異は年度の経過とともに顕著となり、特に不良債権関連の指標において明らかな差が生じていた。また、自己資本比率についても、被合併金庫は脆弱であり、単独での存続には、将来的にリスクを抱えていたといえる。
 一方で、破綻金庫に特有の傾向であった「過度な債務保証」や「高い預貸率」は、被合併金庫には特に見られなかった。ただし、出資金については年々増加傾向を示しており、破綻金庫同様自己資本比率の維持を意識した動きと推察される。
 また、破綻金庫と被合併金庫の比較においても、破綻金庫と存続金庫との分析結果と概ね同様であった。
 以上より、本研究の対象とした被合併金庫は、財務上の問題を抱えていたものの、当時破綻処理された金庫とは深刻度のレベルが異なっていたことが明らかとなった。
 また、個別事例の分析(ケーススタディ)においても、いずれのケースでも存続金庫の財務内容が、被合併金庫のそれよりも良好であったことが確認された。
4.今後の課題
 今後は分析対象を全国ベースとして同様の分析を行いたい。また、特定の要因が合併に及ぼした影響について調査すべく、個別信用金庫のケーススタディも行いたい。


⑧脇屋 勝(京都大学経営管理大学院 特定准教授)

■研究テーマ
地方議会におけるダイバーシティの推進

■研究成果の概要(中間報告可)

女性議員の増加が単独児童福祉費に与える影響についての実証研究

2025年8月現在、女性議員割合が3割以上、組織に影響を与える割合と言われる、いわゆる「クリティカルマス」以上の自治体は、1,741自治体のうち175(10%)にとどまっている。他方、「女性ゼロ議会」は212(12%)、「女性お一人さま議会」は378(22%)となっており、両者の割合は計34%にも達し、女性の意思が政策や施策に十分に反映され難い状況にある。日本の地方自治体において、女性議員割合が増えることで財政・施策面でどのような変化が見られるかについては定性的な研究の蓄積はあるものの実証的に検証を行ったものは多くはない。本研究においては、2015年及び2020年の全自治体のデータを用いて、女性議員割合と財政・施策面について実証的分析を行い、女性議員割合が3割以上の「クリティカルマス」を超えるケースにおいて、単独児童福祉費割合に対してポジティブな関係を有意に示すことを明らかにした。


⑨ VICTOR GORSHKOV (新潟県立大学国際経済学部・教授)

■研究テーマ
国際制裁下におけるロシアの外国資本参加銀行の戦略的適応に関する研究

■研究成果の概要(中間報告可)

ロシアは2014年以降、制裁の対象となっており、とりわけ、2022年以降の制裁の強化に伴い、多くの海外企業や外国人投資家がロシア事業の売却や縮小などを通じて市場撤退を進めている。制裁が企業のパフォーマンスと経営戦略に与える影響を評価することは、国際ビジネスと経済学において極めて重要である。しかし、ロシアで事業展開している外国資本参加銀行に対する制裁の影響を分析した研究が稀である。

本研究では、制裁やロシア政府による制裁対抗措置及び国際社会からの圧力が、ロシアに進出した100%外国資本参加銀行に与える影響を分析した。とりわけ、外国銀行による市場からの撤退戦略と残留戦略に焦点を当て、制裁と対抗制裁措置の中で外国資本参加銀行はどのように戦略的適応を行なっているのかを明らかにした。ロシア中央銀行の統計データとメデイア報道を分析して、外国資本参加銀行の数の推移などを分析した。2014年以降、外国銀行の数は一貫して減少しており、とりわけ、2022年から2025年にかけてはその数が約24%減少している。同期間中にロシア銀行部門総資本に占める外国銀行の割合が13.23%から9.03%に低下した。2021年1月時点で100%外国資本参加銀行の数は57行であったのに対して、2025年11月現在はその数が39行になっている。非友好国と友好国の割合はそれぞれ62%と38%であった。

分析の結果、(1)制裁対抗措置などの国内制約要因があるため、撤退戦略が難しくなっていること、(2)現時点での撤退した外国銀行は元々ロシア市場での活動が限定的であったこと、(3) 資産額やリテール基盤などの大きい銀行ほど、残留戦略を選択し、ロシア市場における事業縮小を進めていること、が明らかとなった。加えて、撤退費用を膨大させるロシア政府の対抗措置のレビューを行なった。

本研究の成果をディスカッションペーパーという形でまとめ、2026年4月中に公表する予定である。


⑩加藤淳(情報経営イノベーション専門職大学・准教授)

■研究テーマ
経営幹部と現場の意思決定の齟齬に潜む構造的問題

■研究成果の概要(中間報告可)

令和7年度において、調査・研究のテーマに関する以下の論文掲載・学会報告を行った。
【論文掲載】
加藤淳(2025)非倫理的向組織行動に関する解説-道徳と組織文化に着目して- 文理シナジー,29(2),p.137-141.
加藤淳(2025)インクルーシブ・リーダーシップと心理的安全性-内部通報制度との関連- 文理シナジー,29(2),p.153-154.
加藤淳(2025)経営幹部と現場の意思決定の齟齬に潜む構造的問題~ 
 『福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録』から レコード・マネジメント,89,p.54-62.
【学会報告】
加藤淳(2025)経営幹部と現場の意思決定の齟齬に潜む構造的問題~ 
 『福島原発事故 東電テレビ会議49時間の記録』から~(記録管理学会研究大会 於大阪大学)


⑩小林拓磨(松山大学経済学部・准教授)

■研究テーマ
中国製造業の国際競争力―国際分業の観点からの分析

■研究成果の概要(中間報告可)

上記研究テーマに関しては下記2本の論文を執筆した。

1. 小林拓磨(2026)「日系企業の脱「中国依存」は進むのか―研究開発拠点の中国への移転―」『産研論集』第53号,19-28ページ
 【内容】中国のイノベーション政策で研究開発力の増強が述べられていることに着目し、日系企業の研究開発機能の立地の変動について分析を行った。製造業の「脱中国依存」の事例が見られるようになったが、それとは反対に日系企業の研究開発拠点の中国への移転は増加していること、また、日系企業の中国の研究機関・企業との連携が深まっていることが明らかとなった。
2. 小林拓磨(2025)「中国EV企業の海外進出―BYDを事例に」『研究中国』第21号(通巻141号),45-55ページ。
 【内容】BYDはいかに国際競争力を高めていったのか、また、海外展開はどの程度進展しているのか、4つの視点(①企業特殊的優位性、②国家特殊的優位性、③輸出/現地生産比率、④地理的プレゼンス)から分析した。BYDは元々バッテリー製造の会社である強みを活かし、社内でバッテリーを製造していることから①に関しては大きな国際優位を獲得していると言える。しかし、①が強くなれば弱まっていくと思われる②への依存は次々と打ち出される産業政策や中国国内の強固な産業集積によって維持されている。また、主要な海外自動車市場の開拓はBYDの今後の課題である。

 ただし、国際分業に関しては十分に分析を行うことができなかったので、今後の課題としたい。


 本ページに関するお問い合わせは

滋賀大学経済経営研究所
TEL : 0749-27-1047/E-mail:ebr(at)biwako.shiga-u.ac.jp までお願いします。

★(at)を@に変更して送信してください