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令和3年度経済経営研究所客員研究員ワークショップが開催されました。

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20210127.png ※当日表題が変更になっている発表があります。

 滋賀大学経済経営研究所は客員研究員制度を設けており、毎年客員研究員を任命し、滋賀大における研究活動にご参加頂いております。客員研究員ワークショップは、客員研究員の成果報告の場として毎年度開催しているものです(ただし、昨年度は新型コロナウィルス感染症流行に伴い未開催)、今年度は1月27日(木)にオンラインで開催し、令和3年度公募型客員研究員5名の方に研究成果をご報告頂きました。いずれも興味深い内容で、参加者からも多くの質問やコメントが寄せられました。以下に各研究員の報告概要を記します。


石川清英氏(大阪信用金庫管理部・龍谷大学大学院・神戸学院大学・他 非常勤講師)

「被合併信用金庫の財務特性分析-比率財務諸表分析による正常金庫との差異分析-」WSIshikawa.png

 石川氏は、以前の研究において、破綻した信用金庫と健全な信用金庫の財務上の差異が、破綻時からさかのぼること10年前の時点で既に観察されることを実証分析により明らかにしました。今回の研究では、金融バブル崩壊後の被合併信用金庫に注目し、被合併金庫と健全金庫の財務上の差異を分析しました。具体的には、1996年度~2000年度の信用金庫の財務諸表を用いて、健全金庫と被合併金庫の財務上の差異を、各群の平均差を測る指標(マハラノビス距離)に基づき年度毎に評価しました。その結果、①有価証券運用について被合併金庫はリスク性資産が多額であったこと、②1999年度以降、被合併金庫の方が不良債権額が多額であったこと、③被合併金庫の方が利益の面で大幅に劣っていたこと、④健全金庫の方が貸出金償却額は多額であったことなどが分かりました。③と④の結果は、1990年代後半、健全金庫が被合併金庫と比べて経営体力を有していたことを示唆するものです。さらに、本研究では、被合併金庫と破綻金庫の財務上の差異も同様の手法により分析しました。その結果、債務保証や預貸率といった項目で、大きな差があることが明らかになりました(破綻金庫の方が債務保証や預貸率が大きかった)。

 参加者からは、「年度毎に推定を行うのではなく、サンプル期間全体で推定を行う方が推定の頑健性が確保されるのではないか」といった提案がありました。


李冠軍氏(山口学園 ECC国際外語専門学校 非常勤講師)

「農家の生産行動と収量リスクに関する実証分析」WSLiK.png

 中国政府は、一昨年、新型コロナウィルス感染症流行に伴う農作物の供給網が混乱していることや米国との緊張関係の長期化を受け、食料安全保障を重視する方針を打ち出しました。方針の1つに、米国からの輸入に依存している大豆について、2025年末までに国内生産量を4割増やすといった計画が含まれています。李氏の今回の研究テーマである、中国の大豆の生産投入構造に対する収量リスクの分析は、中国の農業政策にとって大きな関心事であるといえるでしょう。まず、発表では、中国の大豆供給の時系列推移が示され、2010年以降、中国の大豆は、単収、作付面積、国内生産量が増加しているものの、依然、輸入に依存している現状が確認されました。そのうえで、本研究では、大豆の生産量を、作付面積、経常財投入、資本投入、労働投入に応じて定まる関数としてモデル化し、10省の1997年~2018年のデータを用いてモデルパラメータの推定を行いました。生産および変動係数の投入財に対する弾力性を計算した結果、経常財と労働投入の弾力性の絶対値が減少する傾向にあることなどが明らかになりました。これは、技術進歩により単位投入当たりの収量の変動が抑えられるようになってきたことを反映したものと推察できます。

 参加者からは、中国の大豆の収量変動要因と推定の結果得られた結論の関連性に関する質問があったほか、「収量リスクを考察するうえで、気温や降水量といった気象変数を生産関数に組み込むことが重要ではないか」との指摘がありました。


京井尋佑氏(京都大学大学院農学研究科生物資源経済学専攻 博士後期課程)

「環境配慮社会は実現可能か―ネットワークモデルによるシミュレーション研究―」WSKyoui.png

気候変動問題への対処は喫緊の課題となっており、個人による環境配慮行動が欠かせません。本研究は、人々が社会的なつながりを通じて環境配慮的に行動を変化させていくかどうかをネットワークモデルによるシミュレーションにより明らかにしたいとの動機に端を発しています。本研究が扱うモデルでは、人々の社会的なつながりをネットワークとして表現し、つながりがある人の環境配慮度をみて自らの環境配慮度に調整を加えるという「学習」を繰り返し行うことを想定します。人々の学習は、①自身とつながりがある人が持つ環境配慮度の平均値に配慮度を調整する学習、②自身とつながりがある人が持つ環境配慮度の中で最大値に自らの環境配慮度を変える学習(ベストプラクティス)、③自身とつながりがある人が持つ環境配慮度の最小値を若干上回る水準の環境配慮度に変える学習(フリーライダー)のそれぞれを考えます。数値シミュレーションの結果、個人の環境配慮度の初期分布の形状によらず、①の行動を取る者が社会の大半を占める場合は、社会全体として低い環境配慮度に収斂してしまうことが明らかになりました。また、②のベストプラクティスで行動する人の割合がある程度社会に存在していたとしても、③のフリーライダーの割合が高まるにつれて、社会全体の環境配慮度が悪化していくことも明らかになりました。

参加者からは、「ネットワークのハブとなる個人がベストプラクティスで行動し、それ以外の多数が①の行動様式で行動する時の社会の帰結に興味がある」といったコメントなどが寄せられました。


李珊氏(南山大学大学院社会科学研究科博士後期課程)

「金融市場における混合寡占市場競争と民営化政策」WSLiS.png

 中国の4大国有商業銀行(中国銀行、中国国商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行)は、香港市場や上海市場などに上場し、現在、民間部門が保有する株式比率も2~4割程度となっており、部分的に民営化された状態にあります。本研究は、中国で見られる公的金融機関の部分民営化政策を描写する理論モデルを構築し、同モデルに基づき部分民営化政策が社会厚生などに与える影響を分析しております。具体的には、市場には複数の民間金融機関と1つの公的金融機関が存在する「混合寡占モデル」を展開しています。民間金融機関は自身の利潤を最大化するのに対し、公的金融機関は、社会厚生と公的金融機関自身の利潤を、公的金融機関株式保有比率(民営化率)で加重平均を取った値を最大化します。預金準備率を所与とし、最適な貸出量、預金量、民営化率を導出しました。その結果、最適な民営化率は民間金融機関の市場への参入数に依存し、1を下回ることが示されました。また、預金準備率の水準に対する貸出量や社会厚生の挙動をモデルの均衡解から分析した結果、①預金準備率引き上げに対して総貸出量は減少すること、②預金準備率の引き上げに対して社会厚生はいったん向上するものの引き上げすぎると低下に転じること、などが明らかになりました。

 参加者からは、モデルから導出される最適な民営化率の解釈に関する質問や「金融仲介機能の安定化を分析するという観点からは、預金金利の上限規制をモデルに導入できるのではないか」といった提案もありました。


脇屋勝氏(日本取引所グループ総合企画部主任研究員兼東京証券取引所 情報サービス部)

「政策保有株式の保有比率と企業業績および流動性との関係」WSWakiya.png

 企業が純投資目的以外の目的で保有している株式は、政策保有株式と呼ばれています。政策保有株式には、コーポレートガバナンス上の問題がしばしば指摘されます。政策保有株式を保有する企業に対しては、資本効率悪化の可能性です。政策保有株式を保有される側の企業に対しては、経営者への規律付けが弱体化や株主軽視につながるという懸念です。本研究は、政策保有株式を多く保有されている側の企業が①経営者への規律付けが弱くなり株主軽視になっていないか、②流通株式数が減少し流動性低下になっていないか、の2点を検証したものです。まず、保有されている株式に占める政策保有株式の割合(被政策保有株比率)の記述統計をみると、2020年度において、平均が6%、第3四分位点が9%、最大値が53%となり、全体としては大きな値ではないものの、一部企業の割合が過大なことが分かりました。上記の①の分析については、被説明変数をROE、説明変数を被政策保有株式比率、創業年数、時価総額、負債比率、業種ダミーなどとするパネル推定を行いました。その結果、被政策保有株式比率が有意水準10%で負に有意であることが分かりました。②の分析ついては、流動性指標(日次株式収益率を日次売買高で除したもの)を被説明変数としてパネル推定を行いました。その結果、被政策保有株式比率は流動性指標に対しては有意になりませんでした。

 参加者からは、被政策株保有株比率のデータ整備方法に関する質問や「被政策保有株式比率が過大な企業ダミーを説明変数に加味したらどうか」といった推定方法に関する提案がありました。

文責 菊池健太郎(経済学部ファイナンス学科 准教授)


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