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20161020セミナー

第6回リスク研究センター主催セミナー
リスク研究センター公共経済学先端セミナー


  リスク研究センターでは、平成28年10月20日(木)、焼田 党教授をお迎えして、公共経済学先端研究         セミナーを開催いたしました。

  日 時:平成28年10月20日(木)16:00~17:00
  会 場:滋賀大学 彦根キャンパス 士魂商才館3F セミナー室(大)
  演 題:『Effects of child-care policy on family decisions in a Nash-bargaining model-
ナッシュ交渉モデルにおいて児童保育政策が持つ家族の意思決定に対する諸効果-』
 講 師:焼田 党 氏(南山大学経済学部 経済学科 教授)     

【講演概要】

講師紹介

 焼田党氏は、上智大学を卒業後、名古屋大学の大学院で学び博士号(経済学)を取得された。その後、福岡大学経済学部、三重大学人文学部、中京大学経済学部、筑波大学大学院システム情報工学研究科、名古屋市立大学経済学部などを経て、現在、南山大学経済学部教授。焼田氏の論文は、Quarterly Journal of Economics, Journal of Public Economics, Journal of Economics Dynamics and Controlなどの国際的一流誌に多数掲載されている。また、2009年にJournal of Population Economicsに発表した論文"Fertility, child care outside the home, and pay-as-you-go social security"(平澤誠氏と共著)に対しては、グズネッツ賞が授与されている。

論文紹介

 焼田氏の研究の動機は、出生率と男女の教育水準に対する現状認識である。周知のとおり、多くの先進国では出生率が2を割り込んで久しく、早晩、人口減少に結びつくのは避けられない状況である(日本では、今年から総人口が減少に転じたようである)。また、男女の教育水準には、多くの国で必ずしも対称的とはいえない現状が知られている。このような状況を明晰に理解し、必要ならば解決への青写真を描くことは経済学の使命である。  焼田氏の論文は、世代重複モデルに男女二人からなるペアが一つの家計を構成するという要素を組み込んだものであった。二人の交渉を通じて家計の意思決定がなされ、出生率と子供に対する教育投資が内生的に決定されるのである。子育ては女性が重く負担することになる。また、性別を区別してあることから男児と女児に対する教育投資が別に決定される。そこでの政府の役割は、育児支援政策として保育サービスを提供し、女性の育児負担を軽減することである。そのための財源は一括課税により徴収される。 このような設定の下で、いくつかの興味深い結果が報告された。第1に、子育て支援が子供の教育投資に及ぼす効果には、母親の教育レベルは影響するが、父親の教育レベルは影響しない点。第2に、パラメーターの範囲によっては、子育て支援が、男児と女児に対する教育投資で正反対の効果を持ち得る点である。(子育て支援が、女児に対する教育効果は促進するが、男児に対してはむしろ縮小させる。)第3に、子育て支援が、かえって出生率を低下させる場合がある点である。これらの結果は、上述の通り母親の教育水準に加え、家計の選好や生産技術を反映したパラメーターの範囲によって決まってくるのである。

今後の研究について

 焼田氏の研究結果は大変に興味深いものであり、今後はさらなる研究の深化が期待される。筆者の愚見では、以下のような展開が重要に思えた。  第1に、課税方式の一般化である。特に、子供への教育投資が本論文の話題であるだけに、相続税の効果を考察できれば望ましいのではないだろうか。しばしば指摘されるように、格差是正のために相続税を強化すると、家計には子供への教育投資という形で資産を相続しようとするインセンティブが働く。例えば、アメリカにMBAを取りに行かせたり、医学部に入れたりするという形で、資産を現金ではなく人的資本として子供に相続しようとするのだ。相続税を導入することで、本論文では現れていない、政府による子育て支援が出生率を引き上げると同時に、子供への教育投資を男児に対しても女児に対しても共に引き上げるようなパラメーターの範囲が現れるかもしれない。  2点目も課税方式に関することであるが、消費税の導入である。消費税も教育投資に比較して消費を不利にする効果があるため、教育投資を増加させる効果があるように思う。よって、相続税と近い効果があるのではないだろうか。  第3に、出生率を2以上に保つための政策の在り方の研究である。当然のことながら、出生率が2を下回る状態が続くと、人口は減少し、国家を維持することはできない。国家の存続を政府の役割と考えるならば、政府は出生率を2以上に保つことを制約条件として政策を考える必要があることになる。その制約の下で、税制、子育て支援などが子供の教育投資などにどのような効果を持つのかは、興味深い問題である。  思いつきで3点ほど挙げたが、本論文は、今後多くの研究を刺激する可能性を秘めた優れた研究成果だと思う。

セミナー後記

 セミナーの後は食事に出かけ、研究にまつわる興味深い話を聞くことができた。その中でも、焼田氏が、今後、論文をAmerican Economic ReviewやJournal of Political Economyに掲載するのが夢だとおっしゃっておられたのが印象的だった。これらは、経済学分野の五大ジャーナルといわれる世界トップの学術雑誌である。すでに五大ジャーナルの一角であるQuarterly Journal of Economicsをはじめ、多くの一流雑誌に論文をお持ちの焼田氏であるが、向上心を失うことなく研究を継続しておられ、頭が下がる思いであった。  このような研究成果の発信は、単なる個人の業績稼ぎではなく、世界の学術研究の進展を通じて人類の幸福に寄与するものである。我々はそのような志を持って研究を行っている。そして、研究に真摯に取り組んでいる方々と交流することで、良質な刺激を受けることができるのである。今後もリスク研究センターが、そのような研究者間の相互交流を通じて研究活動を促進する場であってくれればと思っている。
(文責 ファイナンス学科准教授 近藤豊将)

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