リスク研究センターでは、平成28年7月28日(木)、Arthur Viianto LARI教授をお迎えして、計量セミナー兼ミクロセミナー
を開催いたしました。
日 時:平成28年7月28日(木)11:00~12:00 会 場:滋賀大学 545共同研究室(ファイナンス棟5F) 演 題:『 Individual Human Development Indicator Measurement for Guanajuato State Education 』 |
講演概要
講師の紹介
講演内容の紹介
実際、人間開発指標は大きく3つの指標、所得水準(通常、一人当たりGDP)、教育水準(通常、就学率)、健康水準(通常、平均余命)から構成されるが、一人当たりGDPについては世帯所得データで、健康水準については個人データではなく地域データで代用しているのが現状である。他方、教育水準については、ローカルな学校制度の変遷に配慮しながら年齢別に就学率(就学年数割合)をカスタマイズして計算し、他の2指標と比べてかなり精緻にデータを計算している点には注目したい。この点がラリ氏の研究の大きな貢献ということになるだろう。
最初に、教育水準の高さは年齢と明確に反比例していることが示された。このことは学校制度や政策の変遷の影響を顕著に受けているわけだが、若年層の教育水準の方が高いことを考えれば、望ましい状況にあると言える。というのは、このことは将来に向けて教育水準の改善が進んでいくことを意味しているからである。実際に、ラリ氏が示した将来予測データを見ても、その改善傾向ははっきりしている。
このセミマクロのデータ分析に続き、グアナファト州内の市町村レベルで分けて、都市化レベル(人口密度で測定)や州予算の分配割合などの他のデータの地理的分布と比較しながら、教育水準の地域間格差を地図上で明確に示しながら分析的な議論が行われた。面白いことに、教育水準の地域間格差は所得水準や都市化レベルの地域間格差とは関係がなかったのである。
では、教育水準の地域間格差は何によって説明されるのだろうか。いくつかの考えられる要因が挙げられた。たとえば、移民、インフォーマルセクターの労働や子供の労働、教育年数ではなく教育内容の質の低さ、10代の妊娠の多さ、暴力などである。しかし、地理的データとしてまだ十分に整備されていないということもあり、この点については今後の課題として残っている。これらの分析は非常に興味深く、今後の研究成果が期待される。
最後に、本講演内容について、根本的に不明な点も残っている。人間開発指標は、所得水準、教育水準、健康水準の3つの指標を統合化した「複合指標(composite index)」であり、その指標の背後には哲学として「弱いサステイナビリティ(weak sustainability)」がある。弱いサステイナビリティのもとでは、異なる種類の資本(物的資本、人的資本、社会資本、自然資本)の間で、資本は代替可能であると考え、サステイナビリティの評価の際に質的に異なる種類の指標間での相殺を許すことになる。たとえば、仮に教育水準が低くても、それを大きく上回る所得水準が確保できるならば、トータルとして人間開発指標は十分に高く評価され、問題は無いと考えることになる。ラリ氏の本研究では、教育水準は他の指標では代替できない重要な指標として取り上げられているが、なぜ、教育水準指標を人間開発指標という複合指標の中の一つの指標として取り扱う必要があるのかがよく分からないのである。本研究の教育水準を捉える価値観から考えれば、弱いサステイナビリティに立脚する複合指標の採択は回避されなければならないのではないだろうか。
セミナーの様子
(文責:滋賀大学 国際センター教授 森宏一郎)
滋賀大学経済学部リスク研究センター TEL:0749-27-1404 FAX:0749-27-1189
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