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20170106セミナー

第10回リスク研究センター主催セミナー
リスク研究センター開発経済セミナー


リスク研究センターでは、平成29年1月6日(金)、Vladimir Hlasny氏をお迎えして、開発経済セミナーを開催いたしました。

  日 時:平成29年1月6日(金)11:50~12:50
  会 場:滋賀大学 彦根キャンパス セミナー室(大)(士魂商才館3F)
  演 題:『Different Faces of Inequality across Asia: 
Decomposition of Income Gaps across Demographic Groups』         -アジア諸国の不平等の相違点、所得格差の要因分解-
講 師:Vladimir Hlasny氏(韓国 梨花女子大学 准教授)   


【講師紹介】

フラスニィ氏(Vladimir Hlasny)は、旧チェコ・スロバキアの現チェコ側で生まれ、高校・大学・大学院と米国で教育を受けている。Michigan State UniversityでPh.D.の学位を授与されてからは、梨花女子大学(韓国)に着任した。博士論文では産業組織論に基づいた研究であったが、その後世界銀行(World Bank)に勤務する大学院同期の紹介もあり、エジプトの所得格差の分析を行うプロジェクトにコンサルタントとして参画した。今回の研究発表は、梨花女子大学から一年間のサバティカル期間中にルクセンブルグにある研究機関(LIS, Luxembourg Income Study)に滞在して推し進めた研究に基づくものである。  

【研究背景】

 米国の所得格差が大きいことが政治的な話題にもなり、今回の大統領選挙でも争点の一つであった。また、日本国内でも様々な格差についての議論が行われている。しかし、あいまいなイメージで所得格差を語るのではなく、正しいデータを根拠として所得格差を数値として表すことは、国際的に所得格差の程度を比較するにあたっても、わが国においても所得格差が拡大しているのか縮小しているのかを議論するにあたっても、とても重要な基礎的研究となる。
 所得格差を測る指標として良く知られているものにジニ係数がある。ジニ係数は、0から1の値を取り、格差が無い場合には0の値を取り、格差が最大の場合に1を取る。この数値を計算するためには、簡易な説明をすると次のような手順をとる。(1)横軸には、最も所得の少ない家計から最も所得の多い家計を順番に並べる。(2)縦軸には、各所得層に対応する累積所得を示す。(3)原点から最後の累積所得に直線を引く。(4)この直線と累積所得が作る曲線の間の面積の、三角形に対する比率がジニ係数となる。

1

そのため、国民全員が同じ所得を得ているような「完全に均等な所得配分」の場合にはジニ係数は0をとり、一人だけが全ての所得を独り占めしているような場合(すなわち残りの国民の所得はゼロ)に1の値を取る。上記の図には、中間である場合を点線で示しているが、この例の場合は0.66となる。

【研究報告】

LSI研究所は、世界の先進国を中心に各国の世帯別の所得データを集計して、国際比較が可能になるように修正・加工を加えたものを無料で提供している。フラスニィ氏は、ルクセンブルグにあるLSI研究所にて客員研究員として滞在して、アジア各国(日本・韓国・中国・台湾・インド)の家計レベルの所得データを用いた分析に取り組んだ。各国で入手可能なデータに、年度やサンプル数にばらつきはあるものの、各国の所得格差を比較するには最適なデータベースである。フラスニィ氏は、上記で説明したジニ係数を計算するのは当然のこと、特に低所得層と高所得層の国際比較に注目した。貧困問題を分析する場合でも、同じ下位10%の低所得層だとしても、国によっては貧困を引き起こしている要因が異なるかもしれない。
 階層別の特徴を捉えて行う統計分析の方法には、quantile regression(分位点回帰、もしくは区分回帰)という方法が良く用いられるが、さらにFirpo, Fortin and Lemieux (2009)によって改良された無条件分位点回帰の方法が用いられた。フラスニィ氏は、Blinder(1973)とOaxaca(1973)によって提唱された要因分解法を用いて、各国所得に差があるのには、(1) (endowment効果)そもそも教育年数等の違いによるのか、(2)(return効果)同じ教育年数でも所得に反映される程度に差が生じるのか、を明確にした。
 まだ分析途中なので確定した結果ではないが、次のような特徴が確認された。(1)中国とインドの国内の所得格差は大きく、日本・韓国・台湾の国内所得格差はそれほどでもない。(2)また20年程度の時系列でみても、所得格差の傾向はゆっくりとしか変化しない。(3)特にインドの所得格差の要因は、教育年数等の格差によるendowment効果に加えて、教育が給与に反映しやすい地域(都市部)に居住しているかのreturn効果の、双方ともが重要であることが指摘された。

参考文献(フラスニィ氏の論文から抜粋)

Blinder, Alan (1973), Wage Discrimination: Reduced Form and Structural Estimates, Journal of Human Resources 8(4):436-455. Firpo, S., N.M. Fortin, and T. Lemieux (2009), Unconditional Quantile Regressions, Econometrica 77(3):953-973. Oaxaca, Ronald (1973), Male-Female Wage Differentials in Urban Labor Markets, International Economic Review 14(3):693-709.


                  (文責 ファイナンス学科教授 吉田裕司)

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