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地方自治体の財務ディスクロージャーの機能にかかる研究

会計情報学科 准教授 山田 康裕
 筆者はこれまでの研究において,近年の自治体における企業会計手法の導入は,制度派社会学にいう同型化として捉えられることを明らかにした。すなわち,近年の自治体の財政危機を背景として,他の自治体に遅れを取らないように会計手法の改革でもって当該問題に積極的に取り組む姿勢を明らかにすることが,自治体にとっての正当性の確保・維持にとって重要なのである。そして総務省モデルなどの監督官庁から公表される指針は,これらの動きを,ある意味で強制力を持って促進する働きを有している。このように解釈できるとすると,多くの自治体が会計改革に取り組む近年の動きをよく理解できるであろう。
しかしながら,監督官庁や会計士協会などが指針を公表する以前から会計手法の改革を行っていた自治体が存在する。このような先駆的な自治体が改革に着手した動機は何であったのだろうか。この点を明らかにすることが,本研究の課題である。本研究によって明らかとなった諸点は,以下の通りである。
 まず第1に,多くの自治体に共通する要因をあげることは容易ではないが,1つの特徴として,自治体の長による強力なリーダーシップがあったことがあげられる。なかには,営利企業での勤務経験のある者や,あるいは公認会計士試験の受験をめざした経験のある者が自治体の長となり,自治体会計の改革を強力に指示したという背景が伺える。
 第2に,もう1つ先駆的自治体に共通する特徴として,上記のように近年の多くの自治体における会計改革の背景には自治体の財政危機があるといわれているが,先駆的な自治体はむしろ財政の危機的な状況はなく,財政危機の打開が動機とはなっていなかったことがあげられる。
 第3には,誰に対する公開なのかという点では,意見が分かれたが,議会あるいは市民一般という意見が比較的多かった。ただし,議会に対する公開であっても市民一般に対する公開であっても,会計情報は多くの資料のなかの1つに過ぎず,会計情報が取り立てて注目されることはないようである。
 第4に,先駆的な自治体において企業会計手法を導入することによって,自治体経営にどのような変化が生じたかという点について,際立った変化を見出すことはできなかった。担当部署の職員は会計改革に積極的であっても,それが他の部署の職員にまで大きな変化を及ぼしたとか,あるいは市民(や県民)の関心をひきつけたといった事例は見られなかった。なかには担当部署の職員のコスト意識の改善に役立っているというところもあった。

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