経済学部

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《ものひと地域研究会》刑事弁護から見える社会

亀石倫子 弁護士

 法律は、その社会がどのような社会を目指すのかを映し出す鏡である。例えば、死刑制度は世界の多くの国々ですでに廃止されているが、法改正で廃止した国と法の運用で事実上廃止している国がある。法律は、法そのものだけでなく、法をどのように運用するかも含めて、社会を映し出す鏡となっている。

 今回、講師にお招きしたのは、クラブ風営法違反事件、奈良県警GPS捜査事件、タトゥー彫師医師法違反事件などに弁護士としてかかわり、いずれも最高裁判所まで争って、無罪確定などの結果を残した亀石倫子弁護士である。当日の講演会ではそうした事件の概要についてお話しいただくとともに、法律と社会との関係について多くの示唆を得た。

 例えば、いわゆる風営法は1948年にできた法律であり、当時はダンスホール等が売春の温床となっていたために、それを間接的に取り締まるために条文が定められていたという。しかしながら、売春を直接取り締まる売春防止法が1956年に制定され、「ダンス」や「クラブ」といったものの概念も時代とともに変遷をしてきた。亀石さんは風営法違反とされたクラブの弁護を行うために、第2回通常国会での記録を精査したり、いろいろな人に話を聞くなどして、こうした歴史を解き起こすことから始めて、法廷での論争を展開した。それと並行して、亀石さんたちの取り組みの影響をうけ、国会でも改正風営法が2015年に成立した。具体的には、改正法では、今回係争となったようなクラブについて、店内の照明がある程度の明るさが確保されていれば、通常の飲食店として24時間営業を認めることとなった。亀石さんらの弁護活動は、社会の実情に照らし合わせて、あらたな「立法」を促す機能も有していたということである。

 今回は時間の関係で十分にお話しいただく時間はなかったが、薬物使用者に対するハームリダクションという考え方も、社会の在り方を大きく変えるものである。薬物依存におけるハームリダクションとは、薬物使用をやめさせることを目的とせずに、薬物使用から生じる健康・社会・経済上の悪影響を減少させることを主たる目的とするものである。我々はともすれば、法律を守ることが主目的になってしまって、そもそも法律が我々の生活を豊かにするためのものであって、そのためには必要であれば法律も変えていかなければならないものであることを忘れがちである。

 法律は硬直的で無機質なものではなく、我々が常に働きかけて、命を吹き込んでやる必要がある。そうすることで、社会は創造的で革新的な場であり続けるし、逆にそうでなければ死んでしまう。亀石さんのご講演をききながら、そんなことを考えた。 

(中野 桂)

講演会の様子
講演会の様子

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