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《ワークショップReD # ensemble》〈奨学本〉の世界-歴史学研究会編『歴史学と、出会う』を読む

石居人也(一橋大学大学院社会学研究科教授)

阿部安成(本学経済学部教授)

 学生が本を読まなくなった、と指摘される世のなかが続く。全国大学生活協同組合連合会による「第55回学生生活実態調査概要報告」(2020年2月28日)は、「1日の読書時間「0」分は48%」と報せた。学部生だけでなく大学院生も、もしかすると大学教員ですら本を読まなくなっているのかもしれない。出版社が廃業したり転業したり、地方国立大学の最寄り駅まえから書店が消えたりする世相は、そうした恐れに現実味をあたえている。

 他方で、読書をすすめる本は、けして少なくはない。中公新書とちくま新書はそれぞれ、「――の名著」「――の名著30」と題したシリーズを刊行している(2021年3月時点で前者16点、後者11点)。PR誌と呼ばれる『UP』と『みすず』はそれぞれに、「東大教師が新入生にすすめる本」(4月号)、「読書アンケート」(1・2月合併号)の号を組み、『週刊読書人』も『図書新聞』も発行をつづけている。

 それでも本が読まれない、となると、いちど、ブックガイドのたぐいを検証してみようとおもった――その対象に、歴史学研究会編『歴史学と、出会う―41人の読書経験から』(歴史学研究会発行、青木書店発売、2015年)を選んだ。本書は「歴史学の入門書」であり、また「歴史学の歴史の一端にも触れることができるブックガイド」だという。ただし本書には特徴があり、それを書名に籠められた「読書経験」の語と「、」(読点)とがあらわしている。1冊の本を軸に、それを書いた著者と、それを読む読者と、それをすすめる執筆者とがつながり、そこにあらわれた積み重なる「経験」に、いく様もの継承(「継ぐ」)をみとり、そこから歴史学が「変化」するようすを、歴史学をめぐる「問い」を、そして歴史学にとっての「現在」を説いてゆく。周到なくふうが張りめぐらされた編集と構成とがうかがえる好著といえよう。

 だが、「歴史学にはじめて接する人」には、読みやすい本か。「その一冊の内容紹介」もそうそう易しくはないし、選ばれた「一冊の歴史書」の著者がその執筆時の歴史と現在をどうとらえていたかは昔話にみえるかもしれない。また、選ばれた歴史書の著者が教員で、それをこの本で紹介する執筆者がそのゼミ生だというばあい、傍からはお家芸の伝承ととらえられかねない恐れを感じる。それは、「入門書」にして「ブックガイド」なるものが、かえって、学界や大学や、そして学問というものの制度(なかなかに変えがたい強固な仕組みによってなりたっている機構)性をつくりあげているようにみえてしまうことにつながる。もちろん、本書の重点の1つが「歴史学は少しずつ変化をつづけている」と説くところにあるのだろうから、その硬い仕組みを変える手立てを検証しているのだともいえる。

 だから、歴史と歴史学とをひとまず弁別し、歴史学という仕組みへの出会い方に、いくらかの、あるいは、おおきな間(interval)をおく姿勢は好ましい。出会いはいちど限りではなく、くりかえされるし、めぐるときもあり、ときに絶えてもしまう――「出会い」のまえの読点は、「歴史学」とそれにむきあうものとのあいだに打たれた間合いをあらわす。歴史好きであっても、歴史学がおもしろいかはべつ、歴史を学んだり教えたりすることと、歴史学がわかることとは違う、歴史は変えられないが、歴史学は変わる、か。

(阿部安成)

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