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《ワークショップHaSS (Humanities and Social Sciences)》 Poetry-Transcreation Workshop ―詩の翻訳からひろがる世界―

日時:20241月26日(金) 12:50-14:20    H.Kawaguchi.jpg

論題:「Poetry-Transcreation Workshop ―詩の翻訳からひろがる世界―」

会場:総合研究棟〈士魂商才館〉3階セミナー室Ⅰ 

報告者:川口 晴美(詩人)  

開催様式:対 面


<講演報告>

 詩人の川口晴美氏を講師に招き、詩の翻訳ワークショップをおこないました。川口氏は、詩集『やがて魔女の森になる』(2021年、思潮社)で第30回萩原朔太郎賞を受賞しました。現代詩というと、難解でとっつきにくいという印象が強い文学ジャンルですが、川口氏は漫画家の山中ヒコ氏の絵を自身の詩集の表紙にしたり、自分の好きな漫画やアニメを作品に取り込んだり、現代詩の世界に斬新な風を吹き込む存在です。2014年に川口氏が編集した『詩の向こうで、僕らはそっと手をつなぐ。萌詩アンソロジー 』(ふらんす堂)は、近現代詩をBL(ボーイズラブ)の視点から読み解いたものです。

 川口氏は、「どんな読み方をしても大丈夫」と、自由に楽しく詩を読む可能性を探究し、『名詩の絵本』(2009年、ナツメ社)、『小さな詩の本』(2022年、リベラル社)など、たくさんのアンソロジーを編集しています。また、長年、大学や文化講座などで詩作を教えており、詩の書き方のレッスンをまとめた『ことばを深呼吸』(渡邊十絲子共著、2009年、 東京書籍 )の共著者でもあります。本ワークショップでは、そんな詩を書く、読む、教えるプロである川口氏と一緒に、詩を書くとはどういうことかを学生に実際に体験してもらいました。

 そうは言っても、詩をほとんど読んだことがない本学の学生を対象に、いきなり「では詩を書いてみましょう」と言っても書けるはずがありません。本ワークショップでは、「モデル」になるものとして、オーストラリア在住のカッサンドラ・アサトン氏の散文詩「Rubbish」を使いました。川口氏は、この英語詩を学生とともに読み解きながら、詩はわからなくてもいいこと、わからないように書くのも「アリ」なこと、自由な読み方を許してくれるのが詩というジャンルであることなどを説明しました。「きれいな映像を見て、意味はわからないけどいいなと思ったりするのと同じ」、とやさしく語りかける川口氏に学生もホッとしたのか、学生から次々と新しいアイディアが飛び出しました。「Rubbish」というひとつの詩が、10人の学生がいれば10通りに、50人の学生がいれば50通りに意味を持ち、解釈され、新しい息吹を得ることができることが体感できたワークショップとなりました。

 「読むことは書くことのはじまり」と言われるように、「Rubbish」という英語詩を読み、日本語に訳し、さらにその詩の中の「I」と「You」を「誰(あるいは「何」)」だと想定して、どんな日本語の人称代名詞(「私」「おれ」「あんた」など)で表現したいかを考える。それが「自分の言葉で詩を書いていく」ことにつながっていく、という創作活動の一端を体験する。このことは、「I」と「You」の境界を曖昧にさせ、自分が「そっちの立場だったら」と考えるきっかけになります。他者との「線引き」を曖昧にする体験は、相手の立場になって考えることの第一歩です。学生のリアクションペーパーには、自分が「You」と想定したもの、たとえばそれが「いらなくなった服」であっても、書いているうちに、その「You」を「捨てたくなくなった」、「自分だったら捨てられたくないと思ってしまうと思う」という声が目立ちました。 

 ダイバーシティを尊重して共生することが重視されるグローバル社会を、より豊かに、ひとりひとりが生きやすい社会にするために、詩を読むこと・書くこと・訳すことが貢献できると体感できたワークショップでした。講師の川口氏にはもちろん、積極的にワークショップに参加してくれた本学の学生のみなさんにも心から感謝したい。

(文責・経済学部教授・菊地利奈)

対面出席約30名、オンライン視聴約20名。

 

<詩人紹介>

川口晴美(かわぐちはるみ):1980年代、早稲田大学在籍中に詩を書き始める。2016年、詩集『Tiger is here.』(2015年、思潮社)で第46回高見順賞受賞。2022年、詩集『やがて魔女の森になる』(2021年、思潮社)で第30回萩原朔太郎賞受賞。2017年オーストラリアで開催されたPoetry on the Move国際詩祭で日英翻訳ワークショップに参加、対訳アンソロジー『pleasant troubles 喜ビ苦シミ翻ル詩』(2018年、Recent Work Press、菊地利奈編)を監修。2023年早稲田大学にて詩の翻訳ワークショップ講師をつとめるなど、翻訳という行為を詩作とつなげる活動もおこなっている。

カッサンドラ・アサトン(Cassandra Atherton):オーストラリアのメルボルン在住の散文詩人。ディーキン大学准教授、ハーバード大学客員教授。詩は多数のアンソロジーに収録され、著書に『Prose Poetry: An Introduction(Paul Hetherington共著、Princeton University Press2020)など。菊地利奈らとの共著論文「Poetry co-translation and an attentive cosmopolitanism: internationalising contemporary Japanese poetry」(2021年、バルセロナ大学『Coolabah』)もある。詳細はhttps://cassandra-atherton.com/publications.php参照。


講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子

 -著書紹介-(画像を押すとリンクが開きます)

    『名詩の絵本』(2009年、ナツメ社)      詩集『Tiger is here.』(思潮社、2015年)

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