経済学部

彦根ゴーストツアー「結界の章」を開催しました。

2017年1月28日(土)29日(日) 「彦根ゴーストツアー:結界の章」 が滋賀大学、彦根市および近江トラベル株式会社の協力で行われました。
 彦根ゴーストツアーは、2011年経済学部で行われた、島根県立大学短期大学部教授・小泉八雲記念館館長で小泉八雲曾孫の小泉凡先生による講演 「城下町で文化資源を生かす!:松江ゴーストツアーと造形美術展の取組から」に触発され、産官学民が協力して行っている着地型観光で、今回が14回目となります。 私たちは、企画・運営の核となる 「空の旅人舍」 を北風寫眞舘代表杉原正樹さんと共に立ち上げました。私たちの考える「ゴースト」とは、五感を最大限に用い、想像力と創造力を駆使して、土地のもつ文化・歴史資源から得ることのできる「見えないモノ」のことです。 私たちは、参加者の皆さんと共にこのゴーストを感じ取り、未評価の文化を紡ごうとしています。

老蘇の森入口の勧請縄  第14回彦根ゴーストツアー、「結界の章」において、東京、横浜、大阪、地元滋賀、などから12名の参加者とともに、湖東地域の勧請縄と鳥居を巡りました。ナビゲーターには、湖東湖北の歴史と民俗に詳しい長浜曳山博物館館長中島誠一先生、ゲストに小泉凡先生と、美術史家である滋賀大学教育学部の谷田博幸先生を迎えました。

老蘇の森奥石神社の勧請縄  1月に2度、30年ぶりの記録的大雪に襲われた彦根周辺でしたが、1月28日(土)は、晴天。陽光に輝く純白の田畑のなか、バスは彦根駅から東近江市の老蘇の森へ。白州正子が『かくれ里』で、独特の味で紹介したこの地を参加者が自らの感覚で捉えます。老蘇の森入口の勧請縄に迎えられた後、中山道の町並みを中島誠一先生の解説で歩き、老蘇の森の奥石神社へ。鬱蒼とした森のなか、天に伸びる古木の杉に架かる巨大な勧請縄に一同、歓喜の声をあげました。

長勝寺の勧請縄  その後、能登川町に移動、長勝寺を中心にする街のまさしく結界にある「干しいたけ」のような勧請縄、さらに伊庭町を古から守る大浜神社の勧請縄と茅葺の神楽殿を見学しました。夕刻、彦根市に戻り、午後の陽射しが徐々に夕闇に変わるなか、長松院にて坐禅をしました。長松院は彦根藩初代藩主、井伊直政が荼毘にふされた地に建っている寺です。
大浜神社の勧請縄 手塚紀洋住職の「結界というものはない、どんなものでも受け入れたい」との考えに、彦根ゴーストツアーの原点、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の「オープン・マインド」に通じるものを感じました。気さくな住職の話は、一同の心を魅了するものでした。

勧請縄に模した揚げピザ  夕食会場、南彦根のダイニング&バーSLOWで、小泉凡先生による講演「怪談と結界」を拝聴しました。怪談に出てくる結界(境界)は、目、耳、歯、爪、玄関、縁側、厠(トイレ)、屋敷境、橋、河、辻、三叉路、峠、坂、聖域境(神社の境内、聖山の入口)など異界と接触する場所にあり、語り継がれるたくさんの話があるとのこと。「河童伝説」「三枚のお札」「橋姫伝説」の紹介のち、小泉先生が『日本民俗学』159号に書かれた論文「境界の神―日本人の病理観から―」より、境界の神の機能や、出雲地方の「サエノカミ」の紹介があり、「結界(境界)と怪談の強い関係は、人々の異界への畏怖の念により、いまも継承されている」と結ばれました。
 夕食は、勧請縄を模した揚げピザに始まるイタリアンのフルコースを頂きました。各テーブルは、結界についての楽しい話で盛り上がりました。

多賀大社の大鳥居  2日目は、結界として誰にも身近な存在である鳥居を巡ります。昨日に続き陽光に恵まれた朝、多賀大社の一の鳥居(彦根市高宮町)へ。中山道を江戸と京都を行き交いながらも、多賀大社本殿に参る余裕のない旅人が、ここでお参りし、旅路を急ぎ辿ったという賽銭箱が今もあります。私たちには夕方までの時間があるので、さらに進んで多賀大社へ。多賀大社を代表する正面の大鳥居を前に、中島先生から湖国の民俗学としての鳥居の話を聞きました。

天稚彦神社の鳥居の笠木の側面を観察  初詣の空気が未だ漂う境内でお詣、門前町で買物や糸切餅を味わいとそれぞれの時を過ごした後、豊郷町に向かいました。酉年にちなみ御神文が酉である天稚彦神社へ。天稚彦神社は静かに町に寄り添う小さな神社です。ゴーストツアーでなければツアーに組み込まれないような神社ですが見どころ満載。まず、鳥居の笠木の側面を観察、独特の出っ張った意匠が施されています。
滋賀県最小の鳥居(豊郷町の天稚彦神社) かわいい太鼓橋を渡り、神馬の横腹に御神文の酉を確認。境内の愛宕神社にある滋賀県内最小の鳥居を参加者みなが次々に腰をかがめて通り抜けました。

岡村本家で酒蔵の「結界」を見学  昼食は、豊郷町の岡村本家で。ここは、江戸時代、彦根藩井伊家により酒作りを命じられた清酒「金亀」の醸造元です。酒は聖なるものです。結界である注連縄の張られた神聖な酒蔵で、岡村本家の考える結界について、当主岡村博之さんに説明頂きました。続いて、米蔵を改装したカフェで昼食。酒粕を使った料理を頂きました。
 午後、元米蔵の二階で美術史家の谷田博幸先生が、日本中を巡って撮られた150枚のスライド写真を使われた講演「鳥居結界の謎」を拝聴。神社の入り口や参道でおなじみの鳥居が、なぜ鳥居と呼ばれるのか、またいつ頃からなんのために立てられたのか、その起源は今なお多くの謎に包まれている、というお話から始まり、著書『鳥居』(河出書房新社、2014年)にあるように、谷田先生が10年以上にわたり全国を歩かれて収集されためずらしい鳥居の数々を、その背景を教えて頂きながら、丸1時間にわたり堪能しました。

雪中の久留美神社(彦根市本庄町)へ  最後に、谷田先生お薦めの変わった鳥居のなかから、愛知川の土手から見下ろすという不思議場所に位置する久留美神社(彦根市本庄町)を訪れました。雪が融けぬままの境内で、波兎文様の付いた灯篭やかわいい狛犬を楽しみました。
 旅の締めくくりは、鉛色の琵琶湖を眺めながら、湖岸道路を彦根駅まで辿りました。車窓から見える鳥居が、谷田先生の愉快なお話を聞いた私たちに、不思議な造形物として訴えかけてきます。明神系か神明系鳥居か、笠木の反りはどうか、貫の形状は、亀腹が意外と大きいなど、わいわいにぎやかな帰路となりました。
 今回のゴーストツアーは、雪景色のなかを巡る、湖東らしいものとなりました。ご協力いただきましたみなさま、遠くからツアーに参加して下ったみなさま、どうもありがとうございました。


経済学部教授 真鍋晶子
経済経営研究所 江竜美子