経済学部

彦根ゴーストツアー「天女と菅原道真の章」を開催しました。

2015年3月28日(土)3月29日(日) 「彦根ゴーストツアー:天女と菅原道真の章」 が 滋賀大学経済学部、彦根市産業部観光振興課および彦根観光協会の協力で行われました。
これは2011年9月20日経済学部で行われた、島根県立大学短期大学部教授・小泉八雲記念館顧問小泉凡先生による講演 「城下町で文化資源を生かす!:松江ゴーストツアーと造形美術展の取組から」 の内容に触発され、産官学民が協力して成立したツアーの第11弾です。
企画・運営の核となるべく くう の旅人舎」 を経済学部教授真鍋晶子が代表の形で、経済経営研究所江竜美子、湖東湖北の文化資源を発掘する北風冩真舘代表杉原正樹さんの3人で立ち上げました。 私たちは五感を最大限に用い、想像力と創造力を駆使して、土地のもつ文化・歴史資源から得ることのできる「見えないモノ」を「ゴースト」と位置づけ、それを感じ取り、 未評価の文化を紡ごうとしています。

 今回は「天女と菅原道真」をテーマとし、梅の花に誘われ、湖東湖北に存在する天女と道真伝承の地を訪ね、 その場にちなむ話や講演を聞き、琵琶の演奏、講談、坐禅を体験し、また梅にちなんだ食べ物を頂きました。ナビゲーターには、湖東湖北の歴史・民俗に詳しい長浜曳山博物館長の中島誠一先生をお迎えしました。

伊香具神社で筑前琵琶による『羽衣』を聴く  3月29日(土)早春の陽ざしのなか、JR彦根駅東口に集合。貸切バスで、白鳳年間(約1350年ほど前)創立の伊香具神社(長浜市木之本町大音)に向かいました。 この神社には古代の天女(白鳥・羽衣)伝説が残り、また、菅原道真が信仰して自筆の法華経などを奉納しており、本ツアーのテーマにふさわしい幕開けとなりました。 『近江風土記』に伊香刀美(いかとみ)と天女との間に生まれた子どもが、滋賀県湖北地方の人たちの祖先になったと書かれていますが、伊香刀美と本神社の祭神である伊香津臣命(いかつおみのみこと)が同一のものと見なされます。
 伊香具神社では、伊香忠雄第66代宮司から神社の由緒を聞いたあと、伊香津臣命から連なる家系図を見せて頂きました。そのあと、拝殿で片山旭星師が筑前琵琶で『羽衣』を演奏されるのを地域のみなさんとともに聴きました。 真鍋晶子の作詞による『羽衣』の琵琶の音は、春がそろそろと目覚めつつある賤ヶ岳に、静かにけれども力強く響き渡りました。上質の邦楽器の糸の多くを生産する大音の自然に琵琶の音が帰りゆくようでした。 その後、宮司の説明を聞きながら、独特の伊香式鳥居や鶴亀灯籠をもち、樹齢を重ねた堂々たる杉が林立する山につながる境内を散策し、時の交錯にたゆとう私たちでした。

弘善館にある菅原道真幼少時の像  続いて、バスで余呉町坂口に移動、菅山寺の里坊、弘善館と積善館を訪れました。菅山寺は天平年間764 年建立、後9世紀末、道真が幼少期に過ごした御礼に再建したとされています。 本尊である不動明王や、道真幼少時の像、文化財である十一面観音や貴重な狛犬などの寺宝を、無住の寺を守る坂口の住民の説明を聞きながら見学。 帰り道では、道真が母なる天女なきあと、飴で育てられたという伝説の「菊水飴」の本店に立ち寄りました。

余呉湖畔、天女が衣を掛けた柳  さらに、もう一つの天女伝説の地である余呉湖に向かいました。『近江国輿地志略』にはこうあります。余呉に住む農民が、柳にかかっている美しい衣を見つけ、返してくれと嘆願する天女の言葉を聞き入れず衣を隠してしまう。 天女は仕方なく妻となり子供を産んだ。その子は天女が天に帰ったあと、菅山寺の僧に育てられた。後の菅原道真である。この伝説を心に抱きつつ、余呉湖畔でナビゲーター中島誠一先生の話を聞きながら、天女の衣が掛けられた柳を鑑賞。 道すがら目にして来た琵琶湖とは異なる様相を見せる、鏡湖とも呼ばれる静かな余呉湖が夕陽に輝くなか、思い思いに散策しました。

多賀里の駅一圓屋敷にて講談を聞く  次に、バスで多賀里の駅一圓屋敷(多賀町一円)に移動。旭堂南海師による講談「『菅原天神記』~死して都に祟りなす~」を聞きました。一日その縁の地を巡り、伝承を学んで来た道真の生涯と死後について、 南海師の独特の語り芸のおかげで、時に面白く、時に恐ろしく、時に哀しい思いをしつつ、実感することが出来ました。 夕食は同「レストラン多賀里の駅」で、梅の三種盛からはじまる「春の御膳」を頂きました。 それから、当夜の宿、ホテルルートイン彦根へバスで移動、一日の体験をそれぞれの内に暖めながら2日目にそなえました。

清凉寺で樹齢400年の紅梅を鑑賞  2日目は前日の陽光とは打って変わり、今にも雨が降りそうな曇り空の中、清凉寺(彦根市古沢町)へバスで向かいました。到着後、村瀬行寛師より清凉寺についての説明の後、 坐禅の作法や真理を教わり、道場に移動し、一同、坐禅に入りました。内は静寂、外には雨音、45分の坐禅でした。

ゴーストツアー生みの親、小泉凡先生の講演  坐禅のあと、小泉凡先生による「ハーンと天女、そして天神」の講演を聞きました。小泉先生は、本稿冒頭にも述べた通り、松江でゴーストツアーを企画立案し、それを定着。 その経験に基づく講演が、彦根ゴーストツアー成立のきっかけとなるという、本ツアーの生みの親的存在です。さて、天女が羽衣を奪われたため、男の妻となる天人女房の異類婚姻譚は、 羽衣説話として全国に130話(離別型30話、天上訪問型60話、七夕結合型35話)報告があるそうです。ハーンの伝説観として紹介された「とにかく千年という長い年月日を生き続けてきた伝説だ。 しかも、その伝説が、むかしからそれぞれ世につれて、ますます新しい魅力を加えてきた説話であってみれば、なにかしらそのなかに真理を含んでいればこそ、長く生命を保ってこられたわけなのではないか、と。」という一節は、私たち「空の旅人舎」が求めるゴーストツアーのあり方でもあると感じました。
 講演後、開け放った障子から、樹齢400年の紅梅の雨にうたれてみずみずしく満開するあでやかな姿を鑑賞しながら、片山旭星師による『菅公』の琵琶演奏を楽しみました。 内容は昨晩の講談と重なるところも多かったのですが、全く異なる芸で、全く異なる世界が展開されました。琵琶曲の場合には、一同、流罪先の太宰府で梅を見て都を想う道真の気持ちに強く共感させられたのではないでしょうか。

清凉寺で精進料理を頂く  昼食は、清凉寺の庫裏で、季節の精進料理を頂きました。食事後、雨降る中、行寛師に見送られて、バスで知善院(長浜市元浜町)に向かい、道真にまつわる丑(木彫)、運慶作の本尊十一面観音像(重要文化財)などを見学、寺を守る地元の方々からお話を聞きました。 さらに、歩いて、長浜曳山博物館に移動し、本ツアーのナビゲーター中島誠一館長の説明による曳山の鑑賞。伝承スタジオでの「天女と道真」の講演で、今回のツアーの総まとめとなりました。 さらに、片山旭星師による琵琶演奏『賤ヶ岳』で、締めくくられました。片山師は、今回のツアーで訪れた場所が多々出るこの曲に、独自に作曲。今回のツアーでは、各所で情景に見合った琵琶演奏(うち二曲はオリジナル)を楽しめました。

長浜曳山博物館でオリジナル曲の琵琶演奏  今回も2日間、ゴーストを探して各地を歩き周りました。今回の「ゴースト」は天女と道真を中心にでしたが、参加者がそれぞれに他のゴーストにも出逢えたと思います。 五感をもちいて想像力・創造力を研ぎすますと、何かに出逢える、何かが生まれて来るということを実感し、自然と文化、そのなかにおける人間の役割や位置について深く考察することのできる2日間となりました。 ゲストのみなさん、参加されたみなさん、関わっていただいた全ての方々、ありがとうございました。

経済学部教授 真鍋晶子
経済経営研究所 江竜美子