経済学部

【報告】彦根ゴーストツアー「ゆーれーの第2章」を開催しました。

講演『彦根屏風』、絵解き  6月22日(土)14時から16時まで、講演とトーク「彦根屏風の幽霊」が、滋賀大学経済学部主催で行われました。これは、22日(土)~23日(日)、経済学部の協力で挙行された彦根市誘客ツアー催行事業「彦根ゴーストツアー『ゆーれーの第2章』幽霊の絵を巡る」のオープニングとなる、この事業の中心企画の一つで、本年度の彦根市の地域創造事業に採択されたものです。既に5回(番外編を含めば6回)行われている彦根ゴーストツアーは、2011年9月経済学部での、島根県立大学教授・小泉八雲記念館顧問小泉凡先生による講演「城下町で文化資源を生かす!:松江ゴーストツアーと造形美術展の取組から」に触発されて、経済学部、彦根市産業部観光振興課、彦根市民が協力して企画成立しているものです。企画の核となるべく「空(くう)の旅人舎」を、私が代表の形で、経済経営研究所の江竜美子さん、湖東湖北の文化資源を発掘されている北風冩真舘代表杉原正樹さんの三人で立ち上げました。私たちは五感を最大限に用い、想像力と創造力を駆使して、土地のもつ文化・歴史的資源から得ることのできる「見えないモノ」を「ゴースト」と位置づけ、それらを感じ取り、未評価の文化を紡ごうとしてきています。私たちは「幽霊」と「ゴースト」を必ずしも結びつけていませんが、今回は美学・芸術学の吉田富子先生による、国宝彦根屏風に潜む異界のものについての講演を旅の導にし「ゆーれー」を軸にして、彦根市、米原市、近江八幡市の方々の協力により巡りました。彦根城博物館にも、事前に学芸員の方にお話しを伺い、当日は彦根屏風のレプリカを借り、狂言会に赴かせていただくなど協力を得ました。

彦根屏風の前で異界についてトーク  22日(土)午後彦根駅集合。バスで滋賀大学へ。前日までは梅雨のじめじめした天候でしたが、幸い天候に恵まれ、湿気に弱い講堂ですが、適度な空気のなか、14時から講演とトーク「彦根屏風の幽霊」を始めることができました。一般公開の講座で、80人余りの聴衆を得ました。大正時代に彦根高等商業学校の講堂として建設され、今は国の登録文化財に指定されている講堂の壇上に屏風のレプリカを置き、その前で吉田富子先生の「『彦根屏風』、絵解き」の講演が14時45分まで行われ、大学という日常のなかに異空間が生み出されました。パワーポイントに屏風の細部や、『花下遊楽図』、『源氏物語絵巻』が示され、講演を聴きながら、講演に出てくる作品を目で追うことでより理解が深まりました。先生は既存研究を押さえながらも、特に屏風右側の4名を『源氏物語』の登場人物と「見立て」られ、特に右端の二人を異界のものとする独自の論を展開されました。休憩後15時から16時まで、講演で提起された問題をもとに、神話学の学習院大学名誉教授吉田敦彦先生、民俗学の小泉凡先生、そして文学の真鍋晶子に吉田先生も交えてトークを行いました。私が異界からのふたりについての能『芭蕉』や木の精との関連、また、画中画の「瀟湘八景」との関連をアイルランドとアメリカの文学と絡めてトークの導入をし、全体の司会を努めました。吉田先生が指摘された黄泉の国、特に『古事記』のイザナミ神話のことを、日本の神話や世界の神話を独自の視点で展開する比較神話学の一時代を築かれた吉田敦彦先生に詳しくかつ分かりやすく説明していただきました。吉田敦彦先生は吉田富子先生の、「紫の上説」をさらに強化する意見も述べられ、有機的に講演とトークが絡み合っていくなか、さらに、吉田敦彦先生の話をうけて、小泉先生が松江・出雲という神話、『古事記』が息づく地、黄泉の国への入り口も未だに存在する地を愛したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の『古事記』とギリシャの神話の黄泉の国への興味について、また、絵のなかの世界とこの世を行き来する話を扱ったハーンの作品、「衝立の少女」と「果心居士」について話して下さいました。聴衆からの意見質問も出て、彦根屏風を期に講堂に様々な世界が渦巻きました。トークの後は、聴衆のみなさんもレプリカを興味深そうに見に集まられ、なごやかな雰囲気で講堂が開かれた空間となっていました。

 その後、ツアー参加者は、夢京橋・キャッスルロード、たねや分福茶屋に移動。午後の明るい日差しのなか、和田恭幸店長の工夫による季節の和菓子の盛り合わせをいただきながら、講堂での講演とトークについて語り合い、参加者それぞれのものにしていきました。18時頃、屏風が収められている彦根城博物館に移動、寛政年間に造られた能舞台での「彦根城表御殿 水無月狂言の集い」にて、大蔵流狂言茂山千五郎家による『鶏聟』、『太刀奪』『六地蔵』を18時半から鑑賞しました。講演、トークで能や間狂言との関連も扱われ、また、狂言足袋が黄色いのは鹿皮の足袋を示しており、屏風の女性が過去の存在であることを暗示する指標になっていた足袋を実際に見る機会を得、講演・トークが実体化していく機会を得ました。狂言で心がゆるやかになったまま、20時半から花しょうぶ通りの「魚浩」で夕食。毎回、主人の長田修二さんが、ツアーのテーマに即した食事を工夫して下さいますが、今回も鯨の「おばけ」を出され、また、食材はもちろんのこと季節の花や葉を用いられた盛りつけに季節感がいっぱいで、そこにも私たちが感じたい「ゴースト」が満ちていました。22時過ぎ彦根を出発、米原市清龍寺徳源院に移動。漆黒のなか、山口光秀住職手作りの行灯の光をたよりに建物のなかへ。ここは佐々木・京極氏の菩提寺なのですが、山口住職夫人手作りの、佐々木家家紋を形取った落雁で、深夜のお茶会となりました。落雁のほんのりした甘さと抹茶のお手前で、気持ちがしっかりしたなか、住職が佐々木・京極氏について、特に佐々木家のなかでも「蛍大名」と言われていた高次の話などを、私たちのツアーと結びつけて、話して下さいました。江戸時代初期の見事な庭園を住職がライトアップ、様々な趣向を工夫して下さったことに、感謝の念に堪えません。その後、今回のテーマとの繋がる、清水節堂による『絹本淡彩 幽霊図』「幽霊画」を見学しました。供養のためにこの寺に持ちこまれたものですが、表具自体も描き込まれた「描表装(かきびょうそう)」という特殊な手法で、上半身が絵から出てきていて、下半身が抜け出んとしているところがとらえられ、三次元的にリアルさが生み出された作品です。住職の計らいで、蝋燭の灯が下から照らされ、また、横に配置されている不動明王の燃えさかる火で、以前昼間に拝見したのとはまた違う味わいがありました。23時頃、徳源院を後に、天の川沿いで蛍狩り。魂の化身ともされる蛍が川面に、草の間にほのかに、でもはっきりと光るのを見つめた後、24時頃、彦根市内のホテルサンルートに戻りました。

西福寺で幽霊画を拝見  23日(日)朝、田や木々が緑濃い湖岸をバスで南下、堀切港から乗船し近江八幡市沖島に向かいました。まず、資料館で、発掘されたものや、明治・大正・昭和に用いられていた「もの」に沖島の生活や歴史を体感。その後、実際の沖島を自由に散策。車が一切ない沖島の漁師の家々の並ぶ細い路に迷い込み人々の生活が満ちる空気を感じ、猫と戯れ、湖を様々な方向から感じ、神社の丘に登り...とそれぞれに島を体験した後、浄土真宗本願寺派掛蔦山西福寺で、朝水揚げされたばかりの魚と畑で取られたばかりの野菜を使って沖島漁連の女性たちが作られた弁当をいただきました。昨夕の魚浩の海の魚と今日の琵琶湖の魚に、食に文化と歴史を感じながら、お互いに交歓。その後、茶谷文雄落住職が沖島および西福寺の歴史や生活を語られた上で、寺所有の幽霊画にまつわる、赤子を残して亡くなったために幽霊として現れた母親の愛情と蓮如による救済の話を、幽霊画、その救済をした蓮如の書、その一連の話を絵で展開した『蓮如上人幽霊済度の虎班之御名号御絵伝』を目の前に説明下さいました。浄土真宗の教義で幽霊はあってはならないにも拘わらずこの話は認められているとのことです。(この幽霊譚は茶谷住職の先祖の話です。)掛け軸にかけられている幽霊画だけではなく、新たに発見された幽霊画を表装されたもの(昨年訪れた時は絵のみでした)も出して下さいました。さらに『御絵伝』の貴重な原画も、昨秋の我々の訪問後、専門家により調整されたものを、出して下さいました。この貴重な『御絵伝』にみな感動し、調査されて価値が評価され、失われてしまわないようにとの思いをもちました。茶谷住職も山口住職も貴重な資料を我々に気軽に提示して下さって、おふたりともその気さくな人柄で話しを下さり、ありがたいことです。寺を出て、再び散策。島独特の町並みを歩いて廃校になりそうな幼稚園と小学校まで散策するグループ、けんけん山に登り、弁才天の神社に向かったグループ、漁港の女性に鮒寿司などの伝統的な湖魚料理や外来魚を利用した食べ物を説明してもらい買い求める人々、島唯一の手作り喫茶店でくつろぐ人たち、それぞれに分かれて沖島を感じました。離島振興法が湖島にも適用されることになり、日本で唯一淡水湖に住民のいる沖島の人々の生活が便利になるのは望ましいけれど、今の穏やかでゆったりした時と空気は何時まで続いて欲しいと生活感を持たない余所者のわがままな想いが、ふたたびよぎりました。夕刻船で堀切に戻り、バスで彦根駅へ、そして解散しました。

沖島漁港にてツアー参加のみなさまと  「妖怪」「ゴースト」「聖なるもの」「自然」「文化」「歴史」。そして「人間」さまざまなことがうずまく体験ができました。滋賀大学関係者、彦根市、米原市、近江八幡市、のみなさんの協力のもと、滋賀県内だけではなく他の都府県からの方々と意見交換を行い、学ぶ、生きた学びの場となりました。毎回、協力頂いている皆さん、今回新しく協力して下さった皆さんの特別なお心づくしのおかげで、ますます、ゆたかなツアーになってきていること、心から感謝しております。

経済学部教授 真鍋晶子