|
講師:竹内淳一郎氏 (日本経済研究センター主任研究員)
演題:『わが国の今後の景気展望と政策課題』
日時: 平成22年6月25日(金)16:10~17:40
会場: 講堂
司会: 楠田浩二教授(本学経済学部)
最初に導入として、リーマン・ショック以降の景気の急降下について説明がなされた。すなわち、我が国の実質GDPが金融危機を惹起した欧米よりも著しく落ち込み、2010年第1四半期時点でも回復度合いが小さいが、その理由として、(1)輸出主導・加工製造業偏重の経済構造、(2)円キャリートレードの巻き戻しによる円高、(3)世界同時株安により株式を大量に保有する邦銀が資本不足に陥ったことが指摘出来る。特に、(1)については、小泉政権下の「いざなぎ」超え景気拡大過程で我が国経済が著しく外需依存度を強めてきたこと、それゆえ、同景気拡大は「出島景気」とでも称されるべき。次に、景気の現状として、景気は持ち直しから回復局面へ移行してきていることが示された。景気回復の要因は、内需主導の力強い景気回復を遂げている中国向けを中心に輸出が増大したこと、減税等により耐久消費財消費が増大したこと、短期精力的な生産調整・経費削減等により生産・収益が急速に持ち直したことが挙げられる。先行きについては、設備投資回復に伴う景気回復が期待されるが、幾つかの懸念材料があり、不透明感は払拭されていない。すなわち、我が国企業に後ろ向きの「脱出」を余儀なくさせ、産業空洞化を惹起する種々の政策(派遣労働の規制強化、高止まりする法人税、最低賃金の引き上げ、自由貿易協定締結の遅れ)、ギリシャ問題の波及に伴う欧州経済の失速と円高、中国経済のバブル懸念等が指摘された。
最後に、我が国の政策課題が検討された。まず、出島景気下では、(1)我が国企業は利益を有利子負債の返済と株主還元(配当、自社株買い)優先的に分配し、従業員には十分に分配しなかったほか、(2)政府は構造改革・財政再建を目的に公共投資を削減したが、その結果、地方経済が疲弊したとの批判がマスコミを中心に生じた。こうした状況下、世論の関心が「成長」から「分配」へ移行し、自民・民主両党とも構造改革路線に代わる「第三の道」を模索し始めた。政権奪取後の民主党・鳩山政権は(1)に着目し、直接、家計部門に分配する施策として、子ども手当ての創設、農家個別所得保障、高速道路無料化、暫定税率廃止等の「コンクリートから人へ」の諸政策をマニフェストとして掲げた。これは、個人消費・住宅投資増を通じて、企業部門の売上増に繋がり景気拡大を齎すという政策であったと解釈される。しかし、同政策は鳩山政権が無駄減らしを実現できず財源を確保できなかったことから実現不可能となったが、(1)を是正する政策として一応の評価は出来る。鳩山政権に代わる菅新政権の「新成長戦略」は経済・財政・社会保障の一体的建て直しであるが、現時点では詳細は不明である。ただ、我が国は財政状況が先進諸国の中でも突出して悪化していること、高齢化社会では殆どの先進諸国が増大する社会保障費の財源を消費税の高率化に求めていることを考慮すると、我が国においても消費税の引き上げは不可避と考えられる。経済成長戦略としては、産業空洞化を惹起する種々の政策(派遣労働の規制強化、高止まりする法人税、最低賃金の引き上げ、自由貿易協定締結の遅れ)の見直しが挙げられる。特に、法人税率については、引き下げる代わりに課税ベースを拡大すべきである。最後になったが、前述した(2)の地域間格差の問題は、データでは全く確認されず、寧ろ現時点の地域間格差は高度経済成長期に比べはるかに小さい。こうした虚妄に惑わされてはいけない。
セミナーの出席者に感想を伺ったところ、マスコミ報道では流れてこないか、或いはむしろ逆の意味合いで流れてくる現代日本経済の基礎的事実と政策課題が、非常に良く整理された資料とプレゼンテーションのおかげで良く理解できた、と大好評であった。(文責 楠田浩二)
【講師紹介】
竹内 淳一郎(たけうち・じゅんいちろう)氏
日本経済研究センター研究本部主任研究員(短期経済予測主査)
専門:景気分析、物価指数論、地域経済
略歴:1989年 日本銀行入行 国庫局 1991年金融研究所 1994年フランス政府給費留学(フランス銀行、市中銀行等で実務研修) 1995年国際局 1998年香港事務所 2000年調査統計局副調査役 2001年調査統計局調査役 2002年人事局調査役 2004年総務人事局企画役 2005年調査統計局企画役 2008年7月から現職
滋賀大学経済学部リスク研究センター
E-mail: までお願いします。