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20191017 リスク研究センター・データサイエンス教育研究センター共催セミナーを開催いたしました

  • 日 時:令和元年10月17日(金)5 16:10-17:40

  • 会 場:セミナー室1(滋賀大学彦根キャンパス士魂商才館3F)

  • 表 題:情報技術の進展とファイナンス

  • 講演言語:日本語

  • 招聘担当:菊池健太郎 准教授

 【講演概要】

 慶応義塾大学大学院経営管理研究科の高橋大志先生を講師にお迎えし、「情報技術の進展とファイナンス」との題目でご講演頂きました。講演では、テキスト情報を用いて金融市場を分析する最近の幾つかのご研究が紹介されました。

 テキスト情報を用いた定量分析には、単語が持つポジティブ・ネガティブなニュアンスの程度を表す数値(極性値)を列挙した「極性辞書」が有用です。極性辞書を使うと、例えば、金融に関するニュース記事に使われている単語の極性値の集計値によって、市場のセンチメントを把握できる可能性があります。しかし、金融以外の分野の極性辞書を使って金融に関するニュース記事を評価すると、記事の評価値が市場のセンチメントを捉えられない可能性があることが指摘されています。そこで、高橋先生は、「金融のニュース記事を適切に評価できる高精度の極性辞書の作成」に取り組みました(五島・高橋[2017])。研究のアイデアは、投資家が持つ情報が反映される資産価格を極性辞書作成に活用するというものです。具体的には、日経QUICKニュース社が配信するニュース記事に付与されるキーワード(「続落」、「原油高」etc.)を基にニュース記事をベクトルに変換したものを説明変数、ニュース配信日当日の記事に関連する株式銘柄の株式リターンを目的変数とする「サポートベクター回帰」を実行し、単語の極性値を算出しました。作成した極性辞書を用いて検証用のニュース記事を評価したところ、高得点となるニュース記事が発信されると株価は上昇し、低得点となるニュース記事が発信されると株価は下落する傾向があることが分かりました。

 上述の研究は、記事に使われている単語にのみ注目し、文脈は無視したものです。高橋先生は、文脈を考慮した極性辞書作成の研究も行いました(片倉・高橋[2015])。「CBOW(Continuous Bag of Words)」と呼ばれる、前後の単語から中心となる単語を予測するという文脈を考慮する機械学習のモデルが知られております。このモデルを用いると、記事に使われている様々な単語をベクトルで表現できます。単語のベクトル表現が得られると、単語同士の類似性をベクトルの内積に基づく指標で計測できます。高橋先生らは、既存の極性辞書内の単語と類似性の高い単語を金融ニュース記事内から抽出し、既存辞書に追加するという方法で新たな極性辞書を作成しました。さらに、この新辞書を用いたニュース記事の評価値が、既存辞書を使用した場合と比べて、マーケットファクターと強い連動性を持つことを実証分析により明らかにしました。

 ニュース記事から深層学習のモデルを用いて株式リターンを予測する研究も紹介されました(菅・高橋[2018])。当該研究では、ニュース記事のヘッドラインをベクトルで表したものをモデルの入力値、ニュース記事発信前後3分間の株式リターンを「一定水準以上」、「一定水準以下」、「それ以外」に分類したものを教師データとする深層学習モデルの学習を行いました。その結果、学習データでの正答率は82%、検証用データでの正答率は66%となり、高い予測精度のモデルを構築することに成功しました。

 OpenAI(2015年12月に設立された人工知能を研究する非営利団体)が今年に入ってリリースした、文章自動生成AIモデル「GPT-2」を使って景気予測の精度向上を試みる、現在進行形の研究も紹介頂きました。GPT-2は、文章を入力すると、それに続く尤もらしい文章を自動的に生成するモデルです。内閣府の「景気ウォッチャー調査」の景気動向に対するコメント文をGPT-2の入力値として与えると、GPT-2は後続の文章を生成します。このようにして得られる新たな文章を同調査のデータに取り込むことで、景気予測の精度向上を図る斬新な研究です。

 高橋先生の様々な研究は、ニュースなどのテキスト情報を分析の俎上に乗せることによって、投資家がどのように情報を咀嚼し(もしくは咀嚼しないまま)、金融取引を行っているのかという、ファイナンス理論における核心的な問いに迫るものといえます。目覚ましい進展を見せる情報技術がファイナンス理論の新たな地平を切り拓きつつあることを実感する機会となりました。

文責・経済学部ファイナンス学科 准教授 菊池健太郎

講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子