経済学部

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20190725経営学セミナーを開催いたしました。

【講演概要】

 本セミナーでは,國部克彦氏から企業の社会的責任(CSR)をめぐる現状と内在する問題に依拠した新しい経営モデルの紹介があった。周知のように,日本においては「CSR元年」と呼ばれた2003年を境にCSR活動は急速に拡大し,爾来20年近くを経て, その取組の経験が多くの企業間で蓄積されるに至っている。しかし,他方で,CSRの概念については明確なコンセンサスがなく,各企業によって異なった位置づけから実践されているという問題が指摘されている。氏の講演は,CSRの定義に焦点を当て,CSRにおける「責任(responsibility)」概念を現代哲学の論考(レヴィナスとデリダ)に依拠して明らかにしながら,責任概念にもとづく経営モデル「創発型責任経営」を提示することを目的としていた。

 國部氏によれば,CSRにおける「責任(responsibility)」とは個々の組織構成員が,他者からの欲求(呼びかけ)を知覚することを契機として生じ,その欲求に応答することによって価値を生じるものをいう。この責任概念は,履行を通じて結果的に新しい個人のネットワークを生み出し,ネットワークを通じて個人がさらにより多くの他者からの欲求を知覚することによって「責任」が拡大することを主張する。したがって,責任は個人をめぐって無限に存在する他者からの呼びかけを根拠として存在するものとして無限責任の特徴をもつという。この視点は,企業組織を「契約の束」として理解するときの受託・委託関係における有限責任(accountability)とは異なり,CSRにおける「責任」は受託責任の履行によって解除されるものと理解することはできないというのが氏の主張である。

 氏は,この無限責任概念にもとづいて,組織構成員による主体的な活動を奨励し,創発的な実践を生み出す経営を「創発型責任経営」とよび,「新しいつながりの経営モデル」として提唱する。創発型責任経営にあっては,企業理念を共有する個々の構成員が社会的課題を知覚し,その解決のために働きかけるためのプラットフォームづくりが重視される。ケーススタディとしてオムロンほか4社の事例に言及しながら,創発型責任経営が,プラットフォームへの参加者による自主的な社会的課題の解決取組を全社的にサポートする体制を設定していることが報告された。創発的責任経営の視点は,CSR導入期を過ぎて,将来の展開を模索する企業においてCSR活動に取り組む実務者担当者へ多くの示唆を与えるものであった。

 なお,本セミナーは氏の新刊『創発的責任経営―新しいつながりの経営モデル―』(日本経済新聞社)に基づいている。本セミナー直後に,東京と大阪で開催された出版記念シンポジウムは,両会場とも直ちに予約申し込みが埋まる盛況であったときく。CSR経営に関する最新研究を,他の会場に先立って彦根において接することができたのは貴重な機会であった。

文責 野田昭宏 教授(会計情報学科)

講演会の様子
講演会の様子