経済学部

リスク研究センター

TOPリスク研究センター経済学部附属リスク研究センターリスク研開催イベント情報 ≫ 令和元年度リスク研究センター客員研究員ワークショップ開催報告

令和元年度リスク研究センター客員研究員ワークショップ開催報告

令和元年度 客員研究員ワークショップ開催概要

日 時:令和2年1月16日(木)13:00-16:25 会 場:545共同研究室

研究テーマ:社会科学分野におけるリスク研究 参加資格:不問 P1050084.JPG

 文責:井澤龍(経済学部准教授)

得田雅章(経済学部教授)

今回のワークショップは、「社会科学分野におけるリスク研究」を目的とした、客員研究員による学会報告型のワークショップでございました。各報告の講評に先立ちまして、改めてではございますが、本センター設立の趣旨を確認させていただければと存じます。

 それは、

■リスクと不確実性に関連する研究

■リスク研究普及と深化のための研究成果蓄積

■リスク研究蓄積と教育を通じた社会生活に潜む諸々のリスクの理解と普及であります。

 

これらの遂行のために主な活動領域を①国際リスク、②金融リスク、③経済・社会リスクの3領域とし、セミナー、シンポジウム、それと今回のワークショップを通じて取り組んでいます。

 今回はそのうち、①国際リスクにつきまして徐氏、②金融リスクにつきまして、久田氏、橋本氏、徐氏、③経済・社会リスクにつきまして田島氏、島田氏、三輪氏にカバーしていただけたのではないかと考えています。


〇リスク認知とバイアスの合理性       

田島正士氏 京都外国語大学・滋賀大学非常勤講師

第1報告の田島氏は、不確実性下における意思決定モデルの一つであるプロスペクト理論を用いて、リスク認知とバイアスにかかる合理性の問題を指摘されました。初学者にも分かりやすく簡潔な図示を心掛けていただきました。そのうえで、価値関数と確率加重関数に関する"気付き"を開陳いただき、ギャンブと保険の領域が明示されることを説明してくれました。


○預金に対する心理的要因(影響)― 銀行の資金調達 ―     

久田貴紀氏 関西大学非常勤講師

第2報告の久田氏は、普段あたりまえのように利用している銀行預金というものが、視点を変えれば銀行への「貸付」とみなせる氏の着想から、心理的要因で金利に差が生じるかどうか検証したという報告でした。本質的に同じ行為である両者に差が生じるのは、金融リテラシーに依存するがゆえに、広く金融的な教育の必要性が求められている。ひいては当センターのような研究機関の更なる活動が必要なのだと感じました。


〇アムステルダム銀行における決済リスクとその対応 

橋本理博氏 神戸大学経済経営研究所非常勤講師

第3報告の橋本氏には、アムステルダム銀行の発行した預金受領証について、アーカイブス史料を用いながら、その性質についての論究をご報告いただきました。これまでの氏の研究から、その性質が銀行券と呼べるものであったこと、さらに既存研究で注目されてきた1683年を遡り、1856年の受領証実験についての研究進捗報告をいただいたことで、「銀行券」史の着実な発展と奥行きを体感することができました。


〇農薬使用と共有資源の維持     

島田悦作 神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中

 第4報告の島田氏には、近年、科学誌「サイエンス」等でも生態系への有毒性が実証され、使用禁止の措置を講じる国も現れてきたネオニコチノイド系農薬について、日本における平成14年から平成25年までの需要増加の要因を分析する報告をしていただきました。パネルデータ分析によって得られた、農家のタイプによって農薬選択が異なるという実証結果は一般化可能な命題として、新たな研究の基礎あるいは既存研究の増強につながると理解します。


〇従業員のランクがサービスの知覚品質と顧客の選択行動に与える影響 

三輪幸大氏 大阪大学経済学研究科・博士後期課程在学中

 第5報告の三輪氏には、サービス品質の知覚に関する先行研究をよく整理していただいた上で、従業員のランクがサービスの知覚品質と顧客の選択行動に与える影響について、氏が収集した美容院データを用いた実証研究を報告していただきました。従業員のランクがサービス購入の要因になり、過去のサービス体験が次回のサービス購入に影響を及ぼすという分析結果は、生活者としての我々の感覚としても整合的であり、また、長期的には顧客体験の充実こそ重要であるとの研究結果は実践上の含意を多分に含むものとして貴重な成果であると確信します。


○Continuous Wavelet Analysis of the Interdependence between Onshore and Offshore Chinese Renminbi Exchange Rates 

徐磊氏 神戸大学大学院経済学研究科博士後期課程在学中

2015年に元の対ドル基準レートの決定方法が改定され、以降、主要国際通貨の変動の影響を大きく受けるようになりました。第6報告の徐氏には、その前後のオン・オフショア市場間の相互依存性についてご報告いただきました。研究手法であるウェーブレット解析は周波数解析の手法の一つです。周波数というと電波や音声、地震波といった理工系のトピックかと思いがちですが、近年ではファイナンス分野や為替相場の分析にも応用例が広がっているとのことでした。フーリエ変換の改良型といえるウェーブレット変換の仕組みを平易に解説いただき、興味深い図を何枚も提示してくれました。


以上の6報告は、どれも本研究センターの設立趣旨に添う報告内容であり、関心のある皆様の脳裏に刻まれると同時に、本センターの貴重な研究資源として、蓄積されたものと確信いたします。貴重な場を作っていただいた皆様には、改めて御礼申し上げます。

リスク研究センターでは令和2年度公募型客員研究員の募集を開始いたします。募集要項は、こちらをご覧ください。

講演会の様子 【開会の挨拶】得田センター長
講演会の様子【総評】井澤准教授