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リスク状況下での利益管理に関する研究

会計情報学科 准教授 山田康裕
本研究は,企業を取り巻く経営環境が激しく変化しているなかで,企業がどのような業績を報告するのか,換言すればどのように利益を管理するのかについて考察したものである。具体的には,企業価値を創造する経営ツールとして近年注目を集めているスカンディア・ナビゲータを取り上げ,その有効性について考察を試みた。
その際,膨大な数の先行研究から共通の枠組みを体系化して,スカンディア・ナビゲータで示された指標が企業価値創造に対してもつ意味を明らかにしようとしたAshton, R. H., “Intellectual Capital and Value Creation: A Review,” Journal of Accounting Literature, Vol.24, 2005, pp.53-134を手がかりとして,バランスト・スコアカードの有効性に関する先行研究をもとにスカンディア・ナビゲータの有効性を類推した。
本研究で得られた知見は,以下の2本の研究ノートとしてまとめられた。
・ 拙稿「知的資産をめぐる管理会計手法の発展―スカンディア・ナビゲータを題材として―」『彦根論叢』第363号,2006年11月,85-104頁
・ 拙稿「企業価値創造にとってのスカンディア・ナビゲータの有効性―バランスト・スコアカードに関する先行研究を手がかりとして―」『彦根論叢』第365号,2007年3月,89-104頁
これまで積み重ねられてきたさまざまな領域における先行研究から,スカンディア・ナビゲータの4つの非財務的領域は,財務的成果と正の相関をもっていると考えられる。ここでスカンディア・ナビゲータの4つの指標とは,「顧客の視点」,「プロセスの視点」,「革新・開発の視点」および「人材の視点」をいう。
顧客の視点の領域の研究は,顧客満足(成果の変数)や,ブランド資産価値などの満足のドライバーを検討したものであり,顧客満足は顧客の定着率の向上にも収益の増大にも関係していることが明らかとされた。プロセスの視点の領域の研究は,ブランドや顧客満足といった方法による製品/サービスの品質志向が業績にどのような影響をもっているのかを検討したものであり,品質志向に関する研究およびIT投資に関する研究のいずれからも業績と正の相関があることが明らかとされた。革新・開発の視点の領域の研究は,R&D投資および特許を検討したものであり,R&D支出や特許数も,売上拡大・株価収益・時価簿価比率などの財務的成果と正の相関をもっていることが明らかとされた。人材の視点の領域の研究は,個々の経営者の特徴(能力,経験,何らかの個人的な特性など)と人的資源活用のシステムの両者による業績への影響を検討したものであり,これまでの諸研究から人的資本は業績と正の相関をもっていることが明らかとされた。
以上の先行研究から得られた知見をもとに,次にスカンディア・ナビゲータと多くの共通点をもっているバランスト・スコアカードの有効性に関する先行研究から スカンディア・ナビゲータの有効性を類推しようと試みた。その結果,バランスト・スコアカードの有効性に関する先行研究から類推する限りでは,有効性に肯定的なものと否定的なものとが拮抗しており,スカンディア・ナビゲータが有効であると即断することには慎重でなければならないことが明らかとなった。
このような知見をふまえ,スカンディア・ナビゲータの有効性を高めるためには,その設計や実践において,以下のことに配慮する必要があることが明らかとなった。まず第1には,スカンディア・ナビゲータ特有の特徴である人材の視点についてである。スカンディア・ナビゲータを実務において設計する際には,戦略的マネジメント・コントロールの支援を促進するようにコミュニケーションの円滑化が必要であると思われる。さらには人的資源の実践における技術的側面には個人の業績評価や報酬などが含まれるが,報酬制度にバランスト・スコアカードを組み込んだ先行研究から類推すると,スカンディア・ナビゲータの要因がお互いに因果関係をもっており,有意義な報酬と結びついているとみなされているならば,その有効性が期待できる。ただし主観性が介在する余地が大きい場合にはスカンディア・ナビゲータは有効ではなくなる可能性があると考えられる。第2には,スカンディア・ナビゲータの実践にあたっての主観性の介在についてである。スカンディア・ナビゲータの実践においては,主観性ができる限り入らないようにすることが求められる。例えば,その対策として,複数の管理者による評価などが考えられる。第3には,スカンディア・ナビゲータの設計にあたっての指標の多様性についてである。一部の先行研究によれば,業績尺度の多様性はバランスト・スコアカードの有効性にマイナスの影響を及ぼすといわれているが,多様性はスカンディア・ナビゲータの利点の1つであるため,業績指標の適正な数については慎重に判断しなければならないことが明らかとなった。
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