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ラオス国立大学の研究者との途上国の成長要因についての共同研究

経済学科 教授 金  秉基

 経済成長の要因分析に関する先行研究をまとめてみると、発展途上国の経済成長要因はさまざまである。インフラ整備が不足している国・地域においては、道路、ダムや電力、流通ルートなどの整備が必要である。また長期にわたって独裁体制が続いている国においては、開放政策にもとづいた輸出を成長のエンジンにするようなケースが多い。対外貿易が発展途上国の経済開発に与える影響は非常に大きいといえる。比較優位の高い製品の輸出による外貨獲得のみならず、資本財の輸入による技術移転や技術進歩、海外資金導入による投資の拡大などが国際貿易による経済的効果としてあげることができる。国際貿易の経済的効果を享受しながら経済開発を推進していくためには国内市場の開放や海外資本の導入が何より重要である。
 平成30年度の経済学部後援基金(B事業)による研究では、北朝鮮の経済成長に対外貿易がどのような影響を与えるかについて研究した。北朝鮮は度重なる自然災害や金一家による独裁体制が慢性的な供給不足といった経済問題に直面している。北朝鮮は、日本の植民地解放の当時から外国援助、特にソ連や中国などの社会主義国家からの援助に支えられてきた。自然災害により食糧不足が深刻であった1990年代は、韓国、日本、アメリカやUNなど国際機関からも食糧、医療品などの人道的的支援を受け入れた。長期間にわたって国際社会からの支援を受け入れているのにもかかわらず、北朝鮮の成長戦略は、国際社会との経済活動を拡大していくよりは軍事強化による体制維持や外国支援の導入を優先するような戦略に傾いている。北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイルの発射を強行すればするほど国際社会の経済制裁はますます厳しくなっていく。このような背景から北朝鮮の経済開発戦略を本研究で分析した。
 ラオス国立大学経済経営学部の研究者と共同で発展途上国の成長要因の分析を行っている。ラオス大学の研究者はデータ分析や統計分野の専門家なので時系列データを用いた実証分析を担当している。本研究は、2018年7月6日にタイのRajapark Instituteで開催されたThe 5th Greater Mekong Subregion International ConferenceにてExports, Imports, and Economic Growth in North Koreaと題した研究報告を行った。研究内容は以下の通りである。北朝鮮における経済体制の転換やそれによる国際貿易が経済開発に与える経済的効果は非常に大きいと予想できる。その理由としては、北朝鮮に存在する豊富な天然資源と地理的要因をあげることができる。北朝鮮には、鉄鉱石、亜鉛、マグネサイト、石炭などの鉱物資源が豊富に賦存しているが、資源開発は非常に遅れている。国際社会から資源開発技術や開発資金を導入することができれば、天然資源の輸出による外貨の獲得、資本財や原油および原材料の輸入が可能になり、持続可能な開発ができる。
 地理的な要因としては、世界最大の需要市場である中国や韓国に接しているだけでなく日本とも海を挟んでいるため成長の潜在力は非常に大きい。開放経済および移行経済による経済開発の効果は、中国をはじめ、東ヨーロッパ諸国、ベトナムなどの開発経験から伺うことができる。改革・開放政策を積極的に行ってきた中国とベトナムは外国資本の導入を通じて国内生産の拡大と輸出の拡大を可能にした。このような開発経験は北朝鮮にとっては後発性の利益である。
 本研究では、北朝鮮の1991~2015年の輸出と輸入、国内総生産(GDP)のデータを用いて国際貿易と経済成長の関係を分析した。北朝鮮の政府が正確な統計を公開していないため、韓国銀行や韓国の統計庁などからのデータを用いてJohansen cointegration testとGranger causality testを行った。分析の結果、輸出、輸入と経済成長の変数においては、長期的な相関関係があることが分かった。具体的には、輸出振興は経済成長にポジティブな影響を与えているが、経済成長が輸出を拡大させるような結果は得られなかった。また、輸入と経済成長の関係においては、相互がポジティブな影響を与えている。すなわち経済が成長すると輸入が拡大し、輸入が拡大すると経済成長にポジティブな影響を与えることが分かった。分析結果から、開放政策による貿易振興は北朝鮮の経済開発に大きな貢献が期待できるといえる。外国資本や技術の導入、それによる国内生産の拡大および輸出振興は北朝鮮を貧国から脱出できるようにすると思われる。そのためには開放政策や経済改革は不可欠であることが確認できた。


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