- 氏名及び所属 (所属名等の表示は、在籍当時のものとなります。)
- 調査・研究のテーマ
- 研究成果の概要(中間報告も可)
※任期中に学会報告やDP・学術誌等で研究成果を報告した場合には、その大会名・誌名とタイトル等を記述することとし、そうした成果がない場合にのみ「研究成果や中間成果の概要」や「研究成果発表の計画」の記述を求める。
推薦型客員研究員
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今井綾乃
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高等商業学校史実証研究
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官立彦根高等商業学校(以下、彦根高商、と略記)の実証研究をすすめるため、本年度は主に次の資料をデータ化し検討した。それらの資料とは、滋賀大学経済経営研究所のデジタルアーカイブで閲覧することができる『彦根高等商業学校一覧』と『陵水会員名簿』、滋賀大学経済学部附属史料館に所蔵されている『彦根高等商業学校図書課支那関係図書目録』と『支那科充実関係書類』である。資料にもとづいて、彦根高商が1939年に開設した3年制の東亜(支那)科全生徒の初職、彼らの卒業後から1946年までの動向、教官が同校図書課所蔵の著書を研究論文に活用したか否かを調査した。
現時点において指摘できる点は、次のとおりである。
・東亜科は設置目的にかなう人材を輩出した
・上記の動向には、彦根高商の本科とは異なる傾向がみられる
・教官が彦根高商の図書課所蔵の著書を活用し、同校研究紀要に論文を発表していた
これらの情報は、東亜科における就職動向、教育活動の実態を明らかにする一端となる
今後も、主に上記の資料を継続して整理し検討し、東亜科の就職動向ならびに教育活動の実態を明らかにしていく。とりわけ、1946年以降の生徒の就職動向を追跡する。戦時体制の社会に即した人材養成機関であった東亜科を卒業した生徒が、社会と企業組織が変化する過程でどういう人材になっていったのかをまとめる。
また、1927年に彦根高商に開設された1年制の別科における就職動向ならびに教育活動の実態についても考察を進める。彦根高商の本科、東亜科、別科のそれぞれの比較、また他校の様相とも比較していく予定である。
- 山本健人(熊本学園大学大学院会計専門職研究科 准教授)
- 株主による監査人の評価メカニズムの解明に関する研究
- 本研究の目的は、株主が監査人を評価する際、監査人のどのような属性を用いているのか実証的に明らかにすることである。ここで、当該目的を達成するためには、株主による監査人の評価を捉える代理変数を設定しなければならない。本研究では、株主総会に提出された監査人選任議案に対する議決権行使結果を、当該議案で後任の監査人候補となっている監査人に対する株主の評価の代理変数とし、決定要因分析を行った。
本研究で用いる監査人選任議案に対する議決権行使が行われるのは監査人交代時である。したがって、当該議案で後任の監査人候補となっている監査人について、株主が入手できる情報は監査法人名などの一般的な情報に限られ、どのような監査が提供されるかは不明である。このような環境下では、監査人に対するイメージや評判が重要な役割を果たすと考える。そこで、今年度は、評判の観点から実証分析を行った。具体的には、金融庁による監査人に対する行政処分を、評判毀損イベントとし、当該イベントを経験した監査人を選任する議案とそうでない議案で、議決権行使結果に統計的に有意な差が見られるか分析した。
分析の結果、金融庁による行政処分を受けた監査人を選任する議案はそうでない場合と比べ反対率が高いことがわかった。この結果は、株主は監査人を評価する際、当該監査人の評判を意識しており、評判に懸念がある監査人の評価を下げることを示唆する。ただし、反対率に差が見られるのは、行政処分から2年以内に処分対象となった監査人を選任する場合に限られており、行政処分により評判が毀損したとしても、その影響は2年程度で収まることもわかった。
以上の研究成果は、次の方法で発信した。
・ 日本会計研究学会第83回大会(2024年8月28日(水) 早稲田大学)
・ 『滋賀大学経済経営研究所 Discussion Paper Series J』No.9
- 井手一郎
- 大学とファイナンスに関する経済学的研究
- 主要な研究は進行中で、未発表です。
「道路の混雑Ⅱ:独学者のためのミクロ経済分析入門Ⅰ」mimeo.
研究会報告「先端研究セミナー:20230525」『彦根論叢』439,p.64‐5、2024
研究会報告「先端研究セミナー:20230622」『彦根論叢』439,p.65‐6、2024
- 池村恵一(東洋大学経営学部会計ファイナンス学科・准教授)
- 企業会計における新株予約権の取扱いに関する研究
- 2024年度においては,地方銀行における株式報酬型ストック・オプション(新株予約権の付与)の決定要因に関する分析を実施し,論文執筆を行った。投稿・公表のための調整を継続して行っている。
IFRS適用企業の連結財務諸表における新株予約権の表示に関する研究については,データの更新を実施した。今後,論点の拡大を図っていく予定である。
さらに2024年度においては,IASBのFICEプロジェクトのコメントレターを分析し,資本の定義の重要な要素としてみなされるFixed-for-Fixed conditionについて検討を加えた。
- 薄井彰(早稲田大学商学学術院・教授)
- ディスクロージャー制度と資本市場の発展過程
- 本年度、経済経営研究所及び経済学部図書館所蔵の資料、並びに史料館所蔵の中井源左衛門家の古文書について、会計帳簿等の調査を行った。滋賀大学経済学附属史料館の『研究紀要』第58号において、近世商家の会計管理に関して、会計学およびファイナンス理論の観点から、「中井源左衛門家大田原店(中井源三郎)による上州小泉十一屋酒店の会計管理」と題する論文を公表した。
- 稲村由美(鹿児島国際大学 経済学部 経営学科・教授)
- 債務契約が経営者の利益調整行動に及ぼす影響に関する研究
- 日本の実証会計学、特に利益調整研究の分野では、古くから「負債仮説」の検証にあたり、企業の財務制限条項違反への接近度を捉える代理変数として「負債比率」を利用することが一般的になっている。しかしながら、我が国において、その妥当性を検証した先行研究は、概観する限り存在しない。そこで本研究では、米国で行われた先行研究を参考に、我が国において負債比率を代理変数として利用できるか否かを検討した。検討の結果、本稿では、日本においても①負債比率の高い企業ほど、より厳しい財務制限条項設定がなされ、②負債比率の高い企業ほど財務制限条項に記載の閾値に接近している、という2つの傾向が観察されていることを示した。本研究では、この2点を根拠に、代理変数としての負債比率は、我が国において利用可能であると結論付けた。なお、当該研究の遂行にあたり、共同研究者の笠井直樹先生(滋賀大学経済学部)からデータ取得や参考文献について、適切なアドバイスを頂いた。
- 夏吾太(青海民族大学 経済経営学部 准教授)
- チベット高原における生態牧畜業の普及拡大に向けた経済分析(生産者と消費者向けのアンケート調査)
- 研究論文
1. Preferences of herders for eco-friendly animal husbandry in the Three-River Headwaters Area of the Tibetan Plateau in the Qinghai Province, China
ABSTRACTS: With the rapid development of animal husbandry, the contradiction between animal husbandry production and ecological environmental protection is becoming more and more prominent. The development of ecological livestock production mode is the effective way to solve such problems. It is also an effective way to secure the demand for livestock products. This study analyzed the spread of eco-friendly animal husbandry in Three-River Headwaters area based on questionnaire survey data. Data from a choice experiment were analyzed with best-worst scaling (BWS) to study herders' preferences for eco-friendly animal husbandry. The estimation results of the conditional logit model showed that herders are most responsive to improve the quality of eco-friendly animal husbandry products. Other factors important for herders are improving recognition and rural revitalization through eco-friendly animal husbandry. The results of the mixed logit model estimation showed that there was a large diversity of preferences for improving recognition, Environmental conservation and Rural revitalization through eco-friendly animal husbandry. Moreover, safety and security of the eco-friendly animal husbandry products environmental factors were deemed to be less important for herders. Marketing implications with regard to improve the quality, recognition and rural revitalization are also discussed in this paper.
2.Evaluation of Fertilizer and Pesticide Application Efficiency in Chinese Agriculture and Study of Its Influencing Factors: -Based on DEA-SBM and Tobit Models-
ABSTRACTS:Every year, more and more chemical fertilizers are
being used to increase agricultural productivity in China, which is also currently the world's largest consumer of fertilizers. However, whether the ever-increasing large amounts of chemical fertilizer inputs have consistently improved productivity. This paper analyzes the relationship between chemical fertilizer application and grain yield growth using provincial panel data from 30 provinces (cities and districts) from 2010 to 2020, and the results show the following. First, the fertilizer efficiency value of rice in the country has been decreasing year by year, while that of wheat has been increasing. Second, there is a tendency for fertilizer efficiency to decrease as income levels increase in rural areas. Third, the more fertilizer a province produces, the lower the fertilizer efficiency becomes. Third, the more fertilizer a province produces, the lower the fertilizer efficiency. Fourth, the fertilizer efficiency of rice and wheat is greatly affected by climatic conditions.
- 海老原崇(武蔵大学経済学部金融学科 教授)
- 包括利益の価値関連性に関する実証方法の再検証
- 制度研究において重要性が極めて高い論点である包括利益情報の有用性について、今後エビデンスに基づく政策提言を行うために、包括利益情報を細分化して価値関連性研究を行う。具体的には、包括利益を(1)当期純利益と(2)その他包括利益に区分するとともに、②その他包括利益を①当期発生額、②組換調整額、③税効果額に区分し、それぞれの価値関連性を計測する。また、疑似的にリサイクリングを行わなかった場合の分析も行う。
目下、その他包括利益のうち、その他有価証券評価差額金の増減額に限定したパイロットテストを行うべく、データセットの構築を行っている。データセット構築に利用する日経NEEDS「FinancialQuest」では、③税効果額が収録されていない観測値が存在するため、各企業の包括利益計算書における注記情報を調査してデータを補完する作業を継続している。
- 伊藤宏之(米国ポートランド州立大学経済学部教授)
- インボイス通貨シェアに基づく二国間・産業別実効為替レートの研究
- 研究成果については、客員研究員としての任命が前年11月25日であったために大きな進展まではたどり着いていない。この4カ月間は日本を訪れる機会が無かったために、Zoomによる研究打ち合わせを推薦者の吉田裕司氏と行ってきた。この研究テーマ実施のためには、日本財務省が管理している輸出入申告書のデータベースへのアクセスが必要であり、第四期共同研究応募に佐藤清隆氏(横浜国立大学)を研究代表者として申請した。具体的には、日本と個別相手国の貿易産業分類(HS2桁、もしくはHS4桁)別のインボイス通貨比率を計算して、実効為替レートを構築する計画である。研究チームには、推薦者の吉田裕司氏(滋賀大学)に加えて、伊藤隆俊氏(コロンビア大学)、清水順子氏(学習院大学)、塩路悦郎氏(中央大学)、吉見太洋氏(中央大学)が参画している。
公募型客員研究員
- 河合政利(大阪大学大学院経済学研究科博士後期課程)
- 甲賀・日野の薬業
- 令和6年度は、近世に形成された日本四大売薬の1つ田代売薬の調査のため、佐賀県鳥栖市に行き、中富記念くすり博物館の前田学芸員より、田代売薬および久光製薬の発展等の説明を受けた。その時の説明を基に、佐賀大学で資料調査を行った。
田代売薬は、1918年(大正7年)のスペインかぜの流行により、主力製品は朝鮮奇用丸から軟膏薬・湿布薬へと変化し、全国の地場製薬産業の中でも、早い段階で製造工程の自動化が進んだ。そのため、久光製薬や阿蘇製薬などの軟膏薬メーカーが発展していった。
また、消滅した地場製薬産業として、「越後の毒消し」の調査のため、新潟県新潟市に行き、巻町郷土資料館と新潟大学で衰退した要因等の資料調査を行った。「越後の毒消し」は、全盛期には1,500人の女性が行商を行い、地域を支えた大きな産業へと発展した。しかし、戦後の薬事法改正(1948年)により、薬の訪問販売が出来なくなり、配置売薬へと移行したが、1980年代にはほぼ消滅している。
令和7年度は、現在も発展している滋賀県の地場製薬産業と全国の地場製薬産業、および消滅した地場製薬産業を比較検討しながら滋賀県内の地場製薬企業の発展要因と特色を明確化したい。
- 京井 尋佑(山形大学人文社会科学部 講師)
- 社会的相互作用による環境配慮行動の増加:社会ネットワークにおける効果的介入の検討
- 本研究では、社会ネットワークにおける個人の環境配慮度が、ネットワーク上での他の個人や企業などのアクターや、環境との相互作用の中でどのように変化するのかを分析する。具体的には、Pythonを用いたダイナミック・シミュレーションモデルを構築し、代表的な6か国(日本、中国、インド、アメリカ、ドイツ、ブラジル)において環境配慮行動が社会ネットワーク上でどのように伝播するかを分析した。6か国の間では、個人の学習態度の分布が異なり、また初期状態における環境配慮行動の強度が異なる。この下で、6か国それぞれにおける環境配慮行動がどのように変化するかを明らかにした。さらに、社会ネットワーク上で機能する3種類の政策(環境配慮的な個人をランダムに増加させる政策、フリーライダー的個人をランダムに減少させる政策、社会ネットワークの中心に環境配慮的個人を増加させる政策)をシミュレーション上で実施し、その効果を評価した。結果として、社会にフリーライダー的個人が多い場合、その数を減少させる政策の効果は限定的である可能性が示唆された。社会の状況において、政策を適切に選択する必要があるといえる。
- 小林伸幸(京都府庁)
- 深刻な労働力不足の到来を見据えた、望ましい地方税制度
- 「土地地積更正登記を契機とする固定資産税に係る価格等の遡及的修正義務の肯否-地方税法417条1項にいう『重大な錯誤』の意義の解釈を踏まえて-」地方自治研究第39巻第2号(令和6年11月30日発行)58-70頁
「感染症パンデミック時における地方税の期限延長規定の運用の在り方-法人事業税に係る申告納付期限の延長を素材として-」日本地方自治研究学会編『コロナ後の地方自治』(清文社、令和7年1月30日発行)33-47頁
- 清水一徳(東北大学 産学連携機構特任准教授)
- サステナビリティ情報開示と企業価値評価の関係
- サステナビリティ情報関連の現状と課題について、有価証券報告書の開示状況をもとに考察を行うことで、法令義務の開示項目、努力目標の開示項目等の取り組みが企業や業種ごとに異なり、十分に実施されていない点が明らかになった。その上で、サステナビリティ情報関連の開示がサステナビリティを重視した経営の実践として企業価値の向上につながるものと想定し、外部評価機関が公表するESG評価スコアでの総合スコア、及び各該当項目(サスティナビリティ情報と適合する項目データ)における影響や関係性について重回帰分析により相関関係を分析した。分析の結果、サステナビリティ情報関連の開示情報は、各スコアに与える影響が限定的であり、活動に応じた企業価値の差異などデータ特性を明確に検証できなかった。引き続き経年的にデータを検証し、開示情報と企業価値の関係性をについて研究を継続する予定である。
- 石川清英(滋賀大学経済学部非常勤講師・神戸学院大学法学部他非常勤講師)
- 近畿地区信用金庫の破綻処理終結後の被合併金庫の財務特性分析
- 1.目的:バブル崩壊以降25 金庫の信用金庫が破綻したが、2003 年頃に破綻処理が終結し、その後信用金庫の破綻は発生していない。この時点で信金業界の危機は収束したように思えるが、その後も信用金庫の合併が多数発生し信金数は減少している。
この現象を見ると、後に合併した信金も破綻処理は免れたが、この時期に財務内容の悪化していた信金が存在した可能性がある。すなわち、本来破綻処理すべき信金が存在していた可能性がある。
私は先の研究で、全国の破綻信用金庫と健全信用金庫の比率財務諸表の時系列分析を行い、破綻10 年前においても財務上の差異が見られることを確認した。
本研究は、同様の手法で、前研究時点では健全金庫に分類されていたがのちに合併された金庫とその後も単独で存続、あるいは合併を行った健全金庫との財務上の差異を分析する。また、同時に破綻処理された金庫と被合併信金との差異も分析する。
なお、前回の研究では同様の分析を5 年間のデータで行ったが、今回はさらに発展させ10 年間の分析とした。
2.分析手法
・サンプル選択 -破綻処理終了後、2001~2004 年度の4年間に合併された近畿地区の信金を選択(12 金庫)
-正常金庫は被合併金庫と同一地区の金庫を選定(滋賀県、京都府、大阪府)
-同一地区にサンプル候補が多数ある場合は関連のある金庫をサンプルとする。例えば、のちにこの合併金庫と合併した金庫を選択する。
-サンプル数に偏りがないように両者を同数とすることとし、その結果、被合併金庫12 金庫、健全金庫(存続金庫)12 金庫が選択された。
・分析手続
-サンプルとした信金の10 年度分の総勘定科目を対象とした比率財務諸表を作成。
-健全金庫と被合併金庫の2 グループに分け、算出した比率財務の勘定科目ごとのマハラノビス距離(MD)を算出。
-MD の大きい比率の絞り込みを行い詳細な分析を加える。
3.分析結果と結論
以上10 年間の正常金庫、被合併金庫の比率財務諸表の差異分析を行ったが、両者間には1991 年度からすでに財務内容の健全性に差が認められた。また、年度が経過するにしたがって差異が顕著となった。特に、不良債権関連の指標には明らかな差があった。また、自己資本比率にも差があり被合併金庫は自己資本が脆弱で、単体では、将来存続の危機を抱えていたといえる。
なお、破綻金庫にみられた顕著な特徴であった債務保証や預貸率の高さは、被合併金庫には特に見られなかった。ただし、出資金については年毎に増加傾向を示しており、破綻金庫同様自己資本比率を意識して増加を図った可能性がある。また、破綻金庫と被合併金庫についても同様の分析を行ったが、破綻金庫と正常金庫との分析結果と大差なかった。
以上より、今回分析対象とした近畿地区の被合併金庫は財務内容に問題を抱えているものの、当時破綻処理された信用金庫とはそのレベルが異なることも明らかとなった。
4.課題
今後全国ベースで同様の分析を行いたい。また、個別信用金庫のケーススタディも行いたい。
- 中井誠(四天王寺大学 非常勤講師・関西大学・阪南大学非常勤講師)
- コーポレート・ガバナンス 日本企業の指名・報酬委員会はどの程度機能しているか
- 我が国において、コーポレート・ガバナンスにおける機関設計として、3つの設置会社の形態が認められている。その中で最も透明性が高いと考えられている指名委員会等設置会社を採用している会社は2007年の59社か2024年には95社となった(日本取締役協会の報告による)。しかし、その伸びは決して高くはない。
我が国の上場企業の多くはまだ指名委員会等設置会社に移行していないのが現状である。
本研究報告では、指名委員会等設置会社を採用していない代表的な大会社と採用している大会社とを比較し、どの程度、コーポレート・ガバナンス体制が進展しているかを考察した。とりわけ、三菱商事、味の素、日立製作所について考察した。
三菱商事は、2024年6月21日開催の定時株主総会において、監査等委員会設置会社への移行を内容とする定款の変更が決議され、同日をもって監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行した。
三菱商事については、役員報酬や後継経営者の指名について、株主が納得するようなガバナンス体制になっていない点もあり、海外の投資家からの失望売りによって株価が低迷した。また、業績に連動する形で役員の報酬が決定されていない点も観察された。
これに対して、一早くから望ましい形のコーポレート・ガバナンス体制に向けて改革を行ってきた味の素では、ステークホルダーの意見を反映させる適切な執行の監督、スピード感のある業務執行を両立するため、監督と執行が明確に分離している会社機関設計である指名委員会等設置会社を採用している。さらに、株主からの信頼も高い点が確認できた。
コーポレート・ガバナンスの優等生と言われている日立製作所についても、もちろん指名委員会等設置会社採用企業である。優良企業らしく経営の監督と執行を分離することで、監督機能を十分に発揮できる体制となっている。ただ、役員報酬が業績や株価に連動する形になっている点は評価できるものの、その結果として、株価(時価総額)
の急騰によって、2024年3月期に1億円以上の報酬を得た役員が前の期から7割増えて34人となった。これは1億円以上の報酬開示が義務づけられた2010年3月期以降、国内企業では最多であり、日本経済新聞でも取り上げられた。
我が国において、コーポレート・ガバナンス改革は、着実に進んでおり、上場会社の殆どが積極的に取り組んでいるものと思われる。しかしながら、取締役会において代表取締役に権限が集中している会社も散見され、それらの会社の中には、不祥事が発覚した時に、ガバナンスが機能していない点が指摘されることも多い。昨今においても、取締役会のメンバーではない、相談役が人事権を掌握しているケースも見られることから、真の意味でのコーポレート・ガバナンス改革が進んでいるとは言えない会社もみられる。今後も企業価値向上に向けて、更なる改革が求められる。
- 張東林(南山大学社会科学研究科経済学専攻博士後期課程)
- スピルオーバーを伴う寡占市場における協調型・非協調型R&Dへの補助金の再考
- イノベーションの不確実性や資源制約といった要因によって、多くの国では企業の競争力強化を目的として、共同で研究開発(Research and Development, 以下R&D)活動を行うことを認めている。同時に、多くの国が企業のR&D活動に対する補助金を導入している。しかしながら、政府はどのような企業のR&D活動に対して補助金を実施すべきなのか。また、R&Dのスピルオーバーが存在する中で、最適なR&D補助金率はどのように決定されるのか。この問題意識に基づき、指導教員である蔡 大鵬教授、副指導教員である太田代 幸雄教授、及びCheng-hau Peng教授のご指導・ご助言の下で、スピルオーバーを伴う寡占市場における企業のR&D活動への補助金政策を再検討した。研究の結果、企業R&D活動に対する最適な政策はにスピルオーバーの程度の程度に依存し、R&D補助金を実施する場合には、産業におけるスピルオーバーを慎重に分析することが極めて重要であることが示された。特に、企業のリサーチ・ジョイント・ベンチャーに対するR&D補助金の実施については、さらなる検討が必要であることが明らかとなった。
- 田中あや
- 企業経営の発展プロセスに関する研究
- 令和6年度において、調査・研究テーマに関連する学会報告を2件行った。
【学会報告】
①2024年9月29日,単独,U.S. and Japanese Railroad Companies Change Business Strategy Special International Research Session Hosted by Hosei University at AAOS Annual Meeting 2025 in Tokyo.
②2024年11月29日,単独,Role of Australian and American railroad companies' business systems in the 1850s, Academic Association of Historians in Australian and New Zealand Business Schools 15th Annual Conference AAHANZBS 2024,The University of Sydney,Australia.
現在、①と②においては学会誌に投稿出来るよう論文の再構成を行っている。
- 田中 孝憲(関西大学商学部・教授)
- 日本銀行の金融政策の政策変更が企業の資産価格に与える影響
- 本研究の目的は、日本銀行の金融政策の政策変更のアナウンスが日本企業の株価に与えた影響について分析を行うことである。着目する政策変更は、イールドカーブ・コントロールの修正のための長期金利の変動幅の上限拡大である。2016 年9 月にイールドカーブ・コントロールが導入され人為的に長期金利の水準がコントロールされてきたが、2018 年7 月から2024年3 月にかけて長期金利の変動幅の上限拡大を許容することによって長期金利が上昇し続けた。これらの変動幅の上限拡大は、市場参加者にとっては実質「利上げ」と判断され、市場参加者の行動に影響を与えたことが知られている。
実証分析の結果、長期金利の変動幅の上限拡大のアナウンスは企業の株価に影響を及ぼしていたことがわかった。また、変動幅の上限によって株価に与えた影響が異なることもわかった。
本研究の成果の一部は、2024 年11 月9 日に南山大学で開催された日本金融学会中部部会で報告を行っている。
- 湯川真樹江(漢師徳萃学校(香港)非常勤講師)
- 財団法人満蒙同胞援護会による歴史編纂、慰霊事業に関する実態調査
- 本研究は、満洲の日本人の引揚げを促進した団体、満蒙同胞援護会に着目し、彼等が如何に満洲の歴史を編纂し、どのように犠牲者を追悼していったのかを明らかにした。その結果、明らかとなったのは主に以下の3点である。
(1)満蒙同胞援護会の第1代会長は小日山直登(前・満鉄総裁、運輸大臣)、第2代会長は平島敏夫(前・満鉄副総裁および東北日僑善後連絡総処主任、衆参議員)であり、理事もまた満洲大企業の重役で占められていた。
(2)満蒙同胞援護会による『満洲開発40年史』『満洲国史』『満蒙終戦史』の編集方針では「三篇を通じて初めて日本民族の 大陸発展に於ける全貌とも言へよう」と述べられ、満洲に渡った日本人の活動を称賛する目的を示していた。
(3)平島敏夫は1952年の慰霊祭にて、満洲国の「民族協和」の理念が正しかったことを表明した。
今後の研究課題としては、これらの特徴をふまえて、満蒙同胞援護会の活動が日本社会にどのような影響を与えたのかを具体的に示すことである。またワークショップでの阿部安成先生のご指摘を踏まえ、当事者の語り(ナラティブ)を重視しながら、更なる資料を読み込んでいきたい。
その他、関連する研究の成果としては、湯川真樹江「『語らない』から『語りだす』へ――満洲引揚者・土屋洸子の戦後経験に着目して」『パブリック・ヒストリーの実践――オルタナティブで多声的な歴史を紡ぐ』(慶應義塾大学出版会、2025年)が挙げられる。この研究では、公主嶺会の幹部・土屋氏が父母の日記や『満蒙終戦史』関連資料(日本人会会長小松光治のが記した引揚概況)等を参考に、当時の記憶を構築していった様子を明らかにした。公主嶺会が「地方型」の引揚団体の活動とみるならば、満蒙同胞援護会は「全国型」の活動とみることができる。引き続き、各引揚げ団体・引揚者の活動にも留意しながら、満蒙同胞援護会の特徴を追っていく予定である。
- 脇屋 勝(日本取引所自主規制法人 売買審査部)
- 地方議会におけるダイバーシティの推進
- 日経225オプションの注文・約定データからわが国で初めてCboeの算出方法に基づく日経平均のSKEW を日経平均VIと同様の頻度の15秒間隔で算出し、その基本的な性質や特徴について検討を行った。日経平均のSKEWは、日経平均VIとは異なる情報を持ち、日経平均株価の将来のリターンに対しても、市場参加者のコンセンサスを把握する上で有用であることが確認できた。今後、日経平均VIに加えて、投資家が市場を多面的に捉える指標の1つとして日経平均のSKEWも利用可能になれば、より多くの投資家のマーケットへの参加が促進され、効率的な価格形成が可能になると思われる。本研究の成果が、今後、わが国において日経平均のSKEWに関する研究の蓄積や日経平均のSKEWの算出・公表の検討につながることが期待される。
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