経済学部

TOP経済経営研究所(ebrisk)■客員研究員制度 ≫ 令和5年度研究報告書(令和5年4月1日~令和6年3月31日)

令和5年度研究報告書(令和5年4月1日~令和6年3月31日)

▷一覧に戻る

  1. 氏名及び所属 (所属名等の表示は、在籍当時のものとなります。)
  2. 調査・研究のテーマ 
  3. 研究成果の概要(中間報告も可)

※任期中に学会報告やDP・学術誌等で研究成果を報告した場合には、その大会名・誌名とタイトル等を記述することとし、そうした成果がない場合にのみ「研究成果や中間成果の概要」や「研究成果発表の計画」の記述を求める。


推薦型客員研究員

  1. 夏吾太(青海民族大学 経済経営学部 准教授)

  2. チベット高原における生態牧畜業の普及拡大に向けた経済分析(消費者向けのアンケート調査)

  3. 研究論文
    1. Preferences of herders for eco-friendly animal husbandry in the Three-River Headwaters Area of the Tibetan Plateau in the Qinghai Province, China
     現在、チベット高原では「生態牧畜業(有機で持続可能な牧畜経営法)」の普及にむけた取り組みが進められている。この生態牧畜業は国の生態農業政策と比較しても先端的な試みであり、生態系保全に資するだけでなく、牧畜業の競争力強化、持続可能な牧畜業、地域活性化に資することも期待される。
     本研究では、青海省が独自に進めている生態牧畜業「自然と生物多様性を重視し、最新の科学と技術革新をふまえた牧畜業(Eco-friendly Animal Husbandry)」を対象に、実施ステークホルダーである黄南州、生態牧畜業協同組合、牧畜局との対話を重ねることで、生態牧畜業が現在抱えている課題を明らかにした。その上で、黄南州、果洛州、玉樹州などでの遊牧民約600人を対象としたアンケート調査を2021年8月に実施し、約575人より回答を得た(回答率96%)。このアンケート調査は、生態牧畜業の認識を把握するとともに、ベスト・ワースト・スケーリング(BWS・case1)により、生態牧畜業に対して遊牧民が評価する属性を特定するものである。。また、一般牧畜業から生態牧畜業に切り替える遊牧民を金銭的に支援するために、必要な交付単価を仮想評価法(CVM)により定量化することも目的としている。


ABSTRACTS: With the rapid development of animal husbandry, the contradiction between animal husbandry production and ecological environmental protection is becoming more and more prominent. The development of ecological livestock production mode is the effective way to solve such problems. It is also an effective way to secure the demand for livestock products. This study analyzed the spread of eco-friendly animal husbandry in Three-River Headwaters area based on questionnaire survey data. Data from a choice experiment were analyzed with best-worst scaling (BWS) to study herders' preferences for eco-friendly animal husbandry. The estimation results of the conditional logit model showed that herders are most responsive to improve the quality of eco-friendly animal husbandry products. Other factors important for herders are improving recognition and rural revitalization through eco-friendly animal husbandry. The results of the mixed logit model estimation showed that there was a large diversity of preferences for improving recognition, Environmental conservation and Rural revitalization through eco-friendly animal husbandry. Moreover, safety and security of the eco-friendly animal husbandry products environmental factors were deemed to be less important for herders. Marketing implications with regard to improve the quality, recognition and rural revitalization are also discussed in this paper.
2.Evaluation of Fertilizer and Pesticide Application Efficiency in Chinese Agriculture and Study of Its Influencing Factors: -Based on DEA-SBM and Tobit Models-
ABSTRACTS:Every year, more and more chemical fertilizers are being used to increase agricultural productivity in China, which is also currently the world's largest consumer of fertilizers. However, whether the ever-increasing large amounts of chemical fertilizer inputs have consistently improved productivity. This paper analyzes the relationship between chemical fertilizer application and grain yield growth using provincial panel data from 30 provinces (cities and districts) from 2010 to 2020, and the results show the following. First, the fertilizer efficiency value of rice in the country has been decreasing year by year, while that of wheat has been increasing. Second, there is a tendency for fertilizer efficiency to decrease as income levels increase in rural areas. Third, the more fertilizer a province produces, the lower the fertilizer efficiency becomes. Third, the more fertilizer a province produces, the lower the fertilizer efficiency. Fourth, the fertilizer efficiency of rice and wheat is greatly affected by climatic conditions.


  1. 池村恵一(東洋大学経営学部会計ファイナンス学科・准教授)
  2. 企業会計における新株予約権の取扱いに関する研究
  3. 2022年度においては,IFRS適用企業の連結財務諸表における新株予約権の表示に関するデータを収集し,拙稿「IFRS適用財務諸表における新株予約権の表示 : 事例分析からみた表示や失効の会計処理のばらつきの様相」経済科学 70 (3), 11-23, 2023-03, 名古屋大学大学院経済学研究科 を公表しました。2023年度においては,この収集データセットを用いて新株予約権の表示に関する決定要因について検討を行う予定でしたが,学会発表および論文公表に至らず引き続き,2024年度にそれを実施していきたく思います。

     なお,2023年度において経済経営研究所の施設を利用して取得したデータにもとづいて,地方銀行における株式報酬型ストック・オプション(新株予約権の付与)の決定要因に関する分析を実施し,いくつかの研究会で発表を実施してきました。

  1. 山本健人(熊本学園大学大学院会計専門職研究科 准教授)
  2. 株主による監査人の評価メカニズムの解明に関する研究
  3.  本研究の目的は、株主総会に提出された監査人選任議案に対する議決権行使結果を、監査人に対する株主の評価の代理変数とし、監査人のどのような属性が株主の評価に影響を与えているのか実証的に明らかにすることであった。
    昨年度、議決権行使結果を用いた先行研究のレビューを行ったところ、株主の評価に影響を及ぼす監査人の属性として、①監査人の規模、②監査報酬、③継続監査期間、④監査監督機関による検査や行政処分があることが分かった。
    上記レビューの結果を踏まえ、本年度は④に着目し、研究を行った。なお、他の属性についても検討したが、①に関する研究成果は申請者がすでに論文として公表している。また、日本の場合、監査人選任議案に対する議決権行使が行われるのは監査人交代時であり、後任候補となる監査人の監査報酬や継続監査期間に関する情報はそもそも存在しない。したがって、②と③は分析の主眼から除くこととした。
     以上の理由に加え、監査人の評判研究への貢献が期待できることから④に着目した。監査は信用材(credence goods)であり、サービス提供者の評判や信頼が、利用者が当該サービスの品質を評価する上で重要とされる。そのため、評判毀損が起きると監査人には負の影響が出ると予想され、クライアント喪失や監査報酬の減少などの帰結が評判を毀損した監査人には待っていることが先行研究で明らかにされている。本研究で注目する④は監査人の評判毀損イベントであり、当該イベントが監査人に対する株主の評価にどのような影響を与えるのか明らかにするものである。ゆえに、本研究は監査人の評判研究に対する貢献が期待できる。
     本年度は、④が監査人へもたらす帰結を扱った先行研究をレビューするとともに、滋賀大学所有の「日経NEEDS Financial-QUEST」「NEEDS-CD-ROM 企業基本データ 株主総会関連データ」から分析に必要なデータの取得と手作業によるデータ補完を行った。データベース構築は完了しており、これから実証分析を行う。分析結果が揃い次第、学会報告を行う予定である。

  1. 薄井 彰 (早稲田大学商学学術院 教授)
  2. ディスクロージャー制度と資本市場の発展過程 
  3.  滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センター・経済経営研究所ジョイントセミナー(2023年6月29日)において、社会・経済の根底を支える最適化の数理に関して、Dynamic Portfolio Choice with Predictability and Transaction Costs Using an Ising Modelと題する講演を行った。さらに、滋賀大学経済学附属史料館の『研究紀要』第57号において、近世商家の経営管理に関して、会計学およびファイナンス理論の観点から、「中井源左衛門家による上州小泉十一屋酒店の経営管理」と題する論文を公表した。

公募型客員研究員

  1. 京井 尋佑(総合地球環境学研究所 研究員)
  2. 社会的相互作用による環境配慮行動の増加:社会ネットワークにおける効果的介入の検討
  3.  本研究では、社会ネットワークにおける個人の環境配慮度が、ネットワーク上での他の個人や企業などのアクターや、環境との相互作用の中でどのように変化するのかを分析する。具体的には、Pythonを用いたダイナミック・シミュレーションモデルを構築し、代表的な6か国(日本、中国、インド、アメリカ、ドイツ、ブラジル)において環境配慮行動が社会ネットワーク上でどのように伝播するかを分析した。6か国の間では、個人の学習態度の分布が異なり、また初期状態における環境配慮行動の強度が異なる。この下で、6か国それぞれにおける環境配慮行動がどのように変化するかを明らかにした。さらに、社会ネットワーク上で機能する3種類の政策(環境配慮的な個人をランダムに増加させる政策、フリーライダー的個人をランダムに減少させる政策、社会ネットワークの中心に環境配慮的個人を増加させる政策)をシミュレーション上で実施し、その効果を評価した。結果として、社会にフリーライダー的個人が多い場合、その数を減少させる政策の効果は限定的である可能性が示唆された。社会の状況において、政策を適切に選択する必要があるといえる。

  1. 田中 あや
  2. 企業経営の発展プロセスに関する研究
  3. ヘンリー・ヴァーナム・プアー(Henry Varnum Poor:1812-1905)は、1849年から1862年にかけてAmerican Railroad Journal(ARJ)の編集長として活躍した。そこで、本研究では、1850年代におけるアメリカ鉄道会社がどのように発展したのか、についてARJを中心に検証を行っている。
    令和5年度については、以下の2点が明らかになった。
    (1)1850年代においては、アメリカ鉄道会社の経営状態に加え、アメリカ国内の銀行などの経営状態に関する情報を掲載していた。
    (2)プアーは、ARJの中において、アメリカ国内外の経済状態を分析し記載していた。
    今後もARJの内容構成等について分析を進めるとともに、他の文献調査も行っていく。

  1. 清水 一徳(東北大学 産学連携機構 特任准教授)
  2. ESGデータと事業戦略の統合に向けたリスク評価軸と企業価値の影響の関係性
  3. ESGと企業価値(PBR)の価値として、環境スコアと時価総額やR O Eとの影響について相関関係を分析するとともに、全体の寄与度を分析することで、企業価値に正の影響を及ぼす効果の高い事業活動が一定程度あることが中間成果として明らかとなった。特に、環境スコアの重みづけとして、スコアを構成する項目別のスコア影響度、重要課題のスコアインパクトについてはまだ明確になっておらず、企業価値を評価するという点ではまだ十分な検証ができていない。
    そのため、引き続き業績へ直結しやすい環境関連活動のあり方、事業戦略の評価軸のモデルを明らかにするために、項目別のスコア影響度とともに他の評価スコアとの比較、寄与度の傾向も参考にして検証したい。

  1. 脇屋 勝(日本取引所自主規制法人 売買審査部)
  2. 証券市場におけるテールリスク指標について
  3. 本研究においては、大阪取引所のJ-GATEの日経平均株価指数オプションの注文・約定データを用いて算出した日経平均のSKEWの基本的な挙動の確認を行った。日経平均のSKEWは、日経平均VIとは異なる側面の情報を有しており、マーケットのテールリスクを捉える指標として有益である可能性が高いことを明らかにした。

  1. 小林 伸幸(京都府庁(京都地方税機構 法人税務課 主幹))
  2. 深刻な労働力不足の到来を見据えた、望ましい地方税制度
  3. 令和5年11月19日に第154回関大租税法研究会において「感染症パンデミック時における地方税の期限延長規定の運用の在り方」についての中間報告を行いました。

  1. 張東林(南山大学社会科学研究科経済学専攻博士後期課程)
  2. 企業の社会的責任と環境研究開発
  3.  近年、企業の社会的責任(CSR)活動に取り組む企業が世界的に増加してきた。CSRは企業側の関心事から、社会がより強く意識し、関与する課題へと拡大している。その理由としては、企業の事業活動が社会に与える影響、特に負の影響に対応する声が社会的に高まっていることが考えられる。多くの学者はCSRが企業や社会に与える効果に大きな関心を寄せている。グリーン消費者はより環境負荷が低い財を好むので、それに応じて企業は環境研究開発(ER&D)活動を通じ、より環境質が良い財を生産するインセンティブがある。また、企業間のER&Dスピルオーバー効果が存在すると、自らのER&D投資活動がライバル企業に正の影響を与えるので、このような市場構造においてCSR活動は企業や社会厚生にどのような効果をもたらすか?ここでは企業がCSR活動及びER&D活動を取り組む不完全競争市場において、2段階ゲームモデルを構築しCSR効果について再検討してみることにした。本稿は以下の結論を明らかにしている。財の環境質で差別化された複占市場において、CSRは社会厚生を増加させる。また、ある程度のCSRは企業の利潤を増加させるが、高すぎるCSRは企業の利潤を減少させる。さらに、ER&Dのスピルオーバー効果が大きければ大きいほど、企業はより高いCSRを選好する。

  1. 鐘  鑫(Zhong Xin)(Zhejiang Lab ポストドクター)
  2. 情報非対称性と流動性の関係に関する多重フラクタル分析
  3.  本研究は、過去数年間にわたる取引システムのアップグレードに伴い、中国の株式市場における情報非対称性と流動性の動的な関係を検討することを目的としています。取引環境の変化に伴う情報非対称性、取引コスト、及び価格影響の進化と相互関係を分析することにより、情報非対称性と流動性の動的な関係についての理解を深めることを目指します。本研究では、流動性に対する異なる焦点を推定するための2 つの代理変数と、情報非対称性を推定するためのVPIN を使用します。多重フラクタル脱トレンド相互相関分析(MF-DCCA)モデルを実装し、これらの代理変数間の多重フラクタル関係を測定します。
     本研究は、2009 年の上海証券取引所の取引システムアップグレードに続いて、情報非対称性と流動性リスクの相互相関の多重フラクタル強度が大幅に低下したことを明らかにしています。さらに、2009 年の上海証券取引所の処理能力のアップグレード前には、市場価格影響の顕著な変動は主に情報非対称性との相互相関によるものでした。システムアップグレード後の2009 年以降は、個々の行動が変動に与える影響がより顕著になりました。取引コストに関しては、サンプル期間を通じて、情報非対称性との相互相関が顕著な変動の主要な原因として中心的な役割を果たし、取引システムのアップグレード後は自己相関と相互相関による影響の差が縮小したことが分析から示されています。要約すると、検出された変化は、2 つの期間にわたる市場行動の変化を示しています。これには、時間の経過とともに個々の効果からの影響が増加し、相互相関からの持続的な影響、および市場効率の変化が含まれます。
     本研究は、情報非対称性と流動性の動的な相互相関を探求するための多重フラクタル理論の適用を先駆けて行い、市場ミクロ構造分析の文脈における多重フラクタル理論の有効性を実証しています。さらに、本研究は、情報非対称性と取引量の関係のみに焦点を当てた以前の研究のギャップを埋めるために、流動性リスクの異なる形態を包含しています。

  1. 中井 誠(四天王寺大学 非常勤講師)
  2. 我が国のコーポレート・ガバナンスについての一考察~指名・報酬委員会はどの程度機能しているか~
  3.  2024年2月19日の令和5年度客員研究員ワークショップにおいて、「コーポレート・ガバナンス ~日本企業の指名・報酬委員会はどの程度機能しているか~ 」について、報告を行った。
     我が国企業のコーポレート・ガバナンスについては、その運営面において、諸外国や機関投資家等から様々な問題点が指摘されているが、その中でも本報告では機関設計に焦点を当て、それがどの程度機能しているかを考察した。
    機関設計としては、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社の3つの形態が認められている。その中でもコーポレート・ガバナンス上、最も相応しいと指摘されているのが、指名委員会等設置会社である。しかし、2023年現在、指名委員会等設置会社の形態を採用している上場企業は、構成員の過半数を占める社外取締役によって後継者が指名されることで、社内の抵抗感が相当程度大きいこともあり、僅か91社に留まっている。
     本報告では、指名委員会等設置会社を採用していない企業において、後継者の交代や役員報酬等が、株主が納得できるような形で運営されているかを検討した。
     まず、証券アナリストジャーナルで、2023年度のディスクロージャー優良企業として表彰された企業の中で、表彰回数が比較的多い企業3社を例にとり、指名委員会や報酬委員会が第三者に対して説得力のある形で運営されているかを考察した。
     本報告で取り上げた企業は、①アサヒグループ・ホールディングス(表彰回数18回)、②三井物産(同8回)、➂アステラス製薬(同7回)の3社である。これら3社はいずれも指名委員会等設置会社を機関設計として採用していない。
     上記3社について、有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況や株主通信等の開示情報を基に、分析を行った。
     分析方法の詳細は割愛するが、上記3社においては、報酬委員会や指名委員会が数回以上開催されており、構成員も社外取締役が過半数を占めていることが確認された。さらに、株主還元の側面においても、一貫して増配しており、株主や債権者に対して、説得力のある取り組みがなされている点が確認できた。
     今後の課題としては、分析の対象を広げ、より精緻な分析を行う必要があると考えている。また、データ等の収集に制約があるものの、定性的な分析をも試みたいと考えている。
     ワークショップでは、コメンテーターの先生から、①コーポレート・ガバナンスについて、報告者の見解をもう少し明確にする必要がある点、②株主を重視することで、コーポレート・ガバナンスがより機能していると言及することが出来る点をもう少し具体的に明示する必要がある点、➂コーポレート・ガバナンスの良し悪しを評価する何らかの指標を使って実証的に報告する必要があるとのご指摘をいただいた。ご指摘いただいた点については、今後の研究課題として、取り組む予定である。

 本ページに関するお問い合わせは

滋賀大学経済経営研究所
TEL : 0749-27-1047/E-mail:ebr(at)biwako.shiga-u.ac.jp までお願いします。

★(at)を@に変更して送信してください