滋賀大学経済経営研究所は客員研究員制度を設けており、毎年客員研究員を任命し、滋賀大学における研究活動にご参加頂いております。客員研究員ワークショップは、客員研究員の成果報告の場として毎年度開催しているものです。
今年度は2月19日(木)に午前中はオンライン開催、午後からは対面開催のハイブリッド方式で公募型客員研究員8名に研究発表を頂き開催しました。
開催日:令和6年2月19日(月)10:00-16:00
開催形式:午前の部はオンライン開催、午後の部はハイブリッド開催
講演報告
- 張東林氏(南山大学社会科学研究科博士後期課程)
- 「企業の社会的責任と環境研究開発」
企業の社会的責任(CSR)が企業や社会厚生にどのような影響を与えるか、企業の環境研究開発を含んだ複占市場モデルによって考察した。CSRが企業の利潤を増加させる範囲について先行研究よりも詳細な分析結果を得るとともに、環境研究開発のスピルオーバー効果についても数値例を用いて、その増加が企業が許容できるCSRの程度を高めることが明らかとなった。
- 鐘鑫氏(Fintech Research Center Zhejiang Lab)
- 「Multifractal Analysis of the Relationship Between Information Asymmetry and Liquidity in China」
フラクタル分析を用いて、中国の証券市場における情報の非対称性と流動性の関係を考察した。上海証券取引所のすべての非金融上場企業を対象に2003年~2019年の市場情報の非対称性と流動性を日次で算出したデータを基に、マルチフラクタル分析によって情報の非対称性の上昇が市場流動性に与える影響や、その間の2009年に実施された上海証券取引所の取引システムの改善(注文処理能力の強化)の効果が示された。
- 小林伸幸氏(京都府庁 京都地方税機構法人税務課 主幹)
- 「深刻な労働力不足の到来を見据えた、望ましい地方税制度」
感染症パンデミック時に、法人事業税の申告納付期限に対して「災害延長規定」が緊急避難的に運用された際の効果や問題点を明らかにし、望ましい災害延長規定の運用のあり方を考察した。都道府県における「個別指定方式」と「簡易申請」による対応は効率的な運用であったと評価しうる反面、条項や規則に抵触するという問題を抱えており、国税の「対象者指定方式」を地方税法の災害延長規定に追加すること等を提案している。
- 清⽔⼀徳氏(東北大学産学連携機構 特任准教授)
- 「ESGスコア評価の企業価値への影響度に関する研究」
日本のESGスコアは、企業の実際の取組実態と乖離していないか、その評価-とりわけ環境スコアが投資情報として十分に評価されているか。こうした研究課題の解明のため、今回は東洋経済の「SDGs企業ランキング」における総合スコア、環境スコアと製造業企業の経営指標との関係性を考察し、企業の環境活動の実践が、企業価値の向上と投資機会の増大に一定程度貢献していることなどが示された。
- 中井誠氏(四天王寺大学 人文社会学部 教授)
- 「コーポレートガバナンス~日本企業の指名・報酬委員会はどの程度機能しているか~」
在任期間の長期化・高齢化したトップが高額報酬を受け取っているという日本企業の状況に対し、指名委員会等設置会社の普及は進んでいない。ここでは、ディスクロージャー優良企業とされるアサヒグループHD、三井物産、アステラス製薬のガバナンス体制を検討し、収益性や株主還元の面でも好調なこの3社は、経営者の指名や役員報酬に対する説得力ある取組が行われていることが示された。
- 脇屋勝氏(日本取引所自主規制法人売買審査部)
- 「日経平均株価指数オプションをもとに算出したテールリスク指標について」
わが国ではテールリスクを捉える指標(SKEW)が算出・公表されていないことで、投資家や投資資金の流入を妨げている可能性がある。本研究は初めて日本の市場データから15秒間隔でSKEWを算出したものであり、2022年8月や23年2月の日経平均のSKEWの上昇時の平均株価や日経平均VIとの比較等を通じて、その基本的な性質や特徴、指標としての有用性を検証した。
- 田中あや氏
- 「1850年代におけるAmerican Railroad Journalの分析 Ⅱ」
昨年の報告に引き続き、プアーが編集長を務めた1850年代のAmerican Railroad Journal(ARJ)の分析を通して、アメリカの鉄道会社と経済発展との関係を考察した。当時は鉄道建設のピークであり、ARJは鉄道運行距離、会社数そして鉄道株と社債の発行量の増加を伝えている。プアーの活躍でARJは投資家等に読者層を広げて三大ビジネス誌の一角となるとともに、鉄道建設の過剰化と運営体制の見直しの必要性を説いていた。
- 京井尋佑氏(総合地球環境学研究所 研究員)
- 「社会的相互作用による環境配慮行動の増加:社会ネットワークにおける効果的介入の検討」
環境配慮行動を促す政策介入の効果は社会ネットワークの影響を受ける。そこで、カーボンフットプリントのデータや世界価値観調査の結果を用い、ブラジル・アメリカ・日本・ドイツ・中国・インドの環境配慮行動の強度と学習態度の分布を推定し、政策介入の効果をシミュレーションによって分析した。その結果、国ごとの有効な政策の相違とともに、フリーライダーの比率の低下や、ネットワークの中心の特定が課題として明確となった。
(文責:経済経営研究所所長 田中英明)












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