- 日 時:2025年5月29日(木)16:00〜17:00(セミナー40分、質疑応答20分)
- 表 題:近世インド洋におけるアルメニア人商人
- 発表者:嘉藤 慎作(滋賀大学 経済学部 総合経済学科准教授)
- 開催場所:士魂商才館セミナー室Ⅱ
- 開催様式:対面
参加をご希望の方は会場へ直接お越しください。
講演概要
古くからユーラシアを跨ぐネットワークを有し、長距離交易に従事していたアルメニア人商人は、17世紀初頭以降、インド洋へと本格的に進出を果たした。その集団の規模は小さく、また、同時期にインド洋へと進出したヨーロッパの諸東インド会社とは異なって軍事力を持たなかった。にもかかわらず、瞬く間にその活動を広げ、東アフリカから中国に至るまでのネットワークを形成し、同時期のインド洋交易の活性化に貢献した。本公演では、主としてインド亜大陸西北岸の港市スーラトを拠点として活動したアルメニア人商人の兄弟を事例として、アルメニア人商人の活動の特徴を分析し、彼らのネットワークの形成・拡大を可能にした要因を考察する。
講演報告
研究会「近世インド洋におけるアルメニア人商人」(報告者:嘉藤慎作)は、コロナ禍で休止状態にあった新任教員による研究会の復活第一弾として催された。
報告後の質問にも見られたように、アルメニア人はユダヤ人や華僑と同様に世界各地に広がり、その商才により経済的に重要な役割を果たした/す存在として知られているものの、日本ではその歴史がユダヤ人や華僑ほどは知られていない。そのことが踏まえられ、報告の前半はアルメニア人商人の歴史的概要、そのインド進出の過程が丁寧に説明された。後半は、史料の博捜・博覧によって生み出された歴史像の提示が、二人のアルメニア人商人兄弟という具体的な事例をもとにおこなわれた。
事例では、従前の研究において示された「家族・エスニシティに基づくネットワーク」やキリスト教という「宗教的同質性に基づく紐帯」に留まらない、エスニシティや宗教を超えた、在地商人や英蘭の東インド会社の人々と関係する姿、とりわけ協力者・仲介者・仲裁者としての姿が提示された。それはアルメニア人"diaspora"というよりも"cultural broker"としての存在であった。また驚くことは、インド亜大陸西北岸の港市スーラトに進出し、そこを拠点とした二人の活動範囲の広さである。中東・インド西岸に収まらず、東南アジア、それもタイやフィリピンにまで広がっている。こうした広範な地域において、二人はそれぞれに、構築した関係、人的ネットワークを活用し、自らの交易活動を展開する様子が示された。
アルメニア人商人という日本においては稀有な報告テーマであったこともあり、教員・院生・学生のみならず職員を含め20人もの参加者を得た。報告後は、参加者個々の関心や研究テーマに基づき、商人、ビジネス、エスニシティ継承など多岐にわたる観点からの質問が出て、活発な議論がなされた。
当該テーマは科学研究費・国際共同研究加速基金(海外連携研究)として今後も研究を続けられるとのことなので、研究成果を拝聴する機会が再び得られることを望む。
(文責:経済学部教授 坂野 鉄也)




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