経済学部・大学院経済学研究科

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先端研究セミナー(20250703)

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講演概要

生物の多様性を保全することは、文化の多様性を守ることにつながる。生物多様性と文化多様性の間にある密接な相互関係を指す概念である生物文化多様性は、自然や文化に即した里山での暮らしや生業のあり方にかかわっている。里山には、地域ごとに異なる地形や地質、植生などの自然環境があり、長い歴史の中で人が自然環境とかかわる中で伝統知・地域知が蓄積され、変化してきた。本報告では、京都と滋賀の里山の伝統文化を事例に、生物多様性と文化多様性の具体的なつながりについて読み解いていく。


講演報告

本研究所では、京都大学農学研究科所属の深町加津枝准教授を招き『生物多様性と文化多様性をつなぐ〜京都と滋賀の里山の事例から』と題する先端研究セミナーを実施した。本セミナーでは「内容は先端研究だけど、気軽に研究者に質問・意見交換ができる場」をテーマとし、講演会前後にコーヒーセッションとワインセッションを設けて参加者間の交流を促した。講演前のコーヒーセッションから多数の参加者があり、和やかな雰囲気の中で講演の時間を迎えた。

 京都と滋賀の里山生態系を対象として生物多様性と文化多様性の相互依存関係を実証的に解明することを目的とした研究が報告された。研究の理論的枠組みとして、ユネスコ‒生物多様性条約事務局共同プログラムが提示する7つの観点(言語・言葉の多様性、在来知・伝統的知識、生存の糧、信仰体系など)を採用し、人間の文化的営みが生態系に与える影響と、逆に生態系が文化形成に果たす役割を双方向的に分析している。

 講師の行った研究ではフィールドワークを通じ異なる生態系タイプにおける3つの事例を詳細に調査している。丹後半島では宮津市上世屋・五十河地区のブナ林生態系において、異なる管理形態が生態系に与える影響を定量的に分析し、伝統的管理が生物多様性維持に果たす役割を実証した。京都鞍馬では伝統的な火祭りにおけるアカマツ・コバノミツバツツジ等の利用実態を通じて、文化的行事が特定植物種の保全動機となることを明らかにした。滋賀県西の湖では、1992年のヨシ群落保全条例制定前後の生態系変化と地域社会の関わりを追跡し、地域住民の文化的実践が生態系保全に与える効果を検証している。これらの研究成果からは、生物文化多様性が単なる概念ではなく、具体的な生態学的・社会学的メカニズムを持つ現象であることが示された。

 講演後の質疑応答では、生物文化多様性と企業との関わりについてや、地域活動に参画を行う契機や個人としての動機に関する質問やコメントなどが寄せられ、講師とのさらなる議論が発展した。講演後のワインセッションでも、参加者間で活発な議論が交わされた。本セミナーには本学の学生・大学院生や学外からの参加者など26名が参加し、生物多様性と文化的活動の相互作用について深く考察する貴重な機会となった。

(経済学部講師 井上 俊克)


講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子


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