- 講演日時:2024年12月3日(火)16:10-17:40 ※今回火曜日の開催となります。ご注意ください
- 表題:「教育が変えたエリートの形:歴史と経済学で探る社会の変化」
- 講師:高安 優太郎 先生(東京大学大学院経済学研究科 特任助教)
- 開催様式:対面
- 開催場所:セミナー室Ⅰ(士魂商才館3F)
参加をご希望の方は会場へ直接お越しください。
セミナー概要
明治時代、日本は身分制度を廃止し、近代的な教育制度を導入しました。
この転換期に、尋常中学校(現在の高等学校)の拡大がどのようにして人々の社会的地位や職業選択を変えたのでしょうか?
本研究では、元武士や商人といった異なる社会的背景を持つ人々が、新たに広がった教育の機会をどのように活用し、エリート層に加わったのかを解き明かします。
経済学の視点を通じて、教育が社会構造の変化に果たした役割を一緒に探ってみましょう!
セミナー報告
東京大学大学院経済学研究科の高安優太郎特任助教を迎えて開催された本セミナーでは、『教育が変えたエリートの形:歴史と経済学で探る社会の変化』というテーマのもと、明治初期の中等教育拡大がエリート形成に与えた影響に関する研究成果が発表された。
経済学にとどまらず社会科学の様々な分野において、教育が社会移動に与える影響は重要な研究テーマであるが、両者の関係は複雑で、単純な相関関係から因果関係を導き出すことは難しい。その中で報告者らの研究は、人事興信録という近代日本のエリートを網羅した書物をデジタル化及びデータ化し、明治時代における尋常中学校の大規模な拡大に焦点を当て、回帰不連続デザインを用いることによって、中等教育のエリート形成への因果関係を明らかにする、大きな意義を持つ研究である。
報告された研究成果によると、尋常中学校がエリート輩出に貢献したことが示唆された。特に興味深いのは、エリート輩出の効果が社会階層によって異なっていた点である。士族出身者においては政治家や高級官僚をより多く輩出し、平民出身者においてはビジネスや専門職で顕著な成果を上げる人材が増加し、また、非エリートの親からも子がエリートとなる数が増加することが報告された。この研究成果は、中等教育が社会移動に与える影響について明らかにしたとともに、日本近代の階層移動の変化を示す、重要な研究成果といえるだろう。
セミナーはメインの研究発表に加え気軽に交流する機会も設けられ、研究報告前から外部から招かれた研究者と意欲ある学生達が活発に対話している姿が見られた。報告においても、高度な統計学的手法や日本近代教育政策に関する専門的知識が求められる研究内容にもかかわらず、基礎的な説明から丁寧に解説され、学部生を含む参加者に研究の本質を理解させることに成功しているように感じられた。質疑応答の時間は終了時刻まで途切れることなく続き、セミナー後の交流セッションにおいても、参加者間で活発な意見交換が行われた。
本セミナーは現地およびオンラインから合計20名程度参加し、単なる学術的な報告にとどまらず、教育と社会移動の複雑な関係を深く探求する重要な機会となった。高安優太郎特任助教らの研究は、日本の近代化における教育の役割を新たな視点から明らかにし、今後の研究に大きな示唆を与えるものである。参加者たちは、歴史的データを用いた精緻な統計分析を通じて、社会の変容メカニズムについて貴重な洞察を得ただろう。本学の研究者や学生にとって学問への探究心を刺激する知的興奮に満ちたセミナーであった。
(経済学部講師 井上 俊克)




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