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先端研究セミナー(20240718)

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・講演日時:2024年7月18日(木)16:10-17:40

・表題:両極物語:北極島嶼スバールバルと南極大陸のこと

・講師:林健太郎 先生(総合地球環境学研究所 教授)

・開催様式:対面

・参加対象:どなたでも(申し込み不要です)

・開催場所:士魂商才館3Fセミナー室1


セミナー概要

北極と南極の地は普段の生活圏からあまりにも遠く、雪と氷、きっと寒い、物好きがよう行くわ,といったイメージにとどまっているかも知れません。その実、両極地にはその環境に適応した素晴らしい生態系があります。しかし、人間活動の影響は両極地にも確実に及んでいて、温暖化によるかく乱は取り返しがつかないレベルになりつつあります。前回のセミナーでは、問題解決には距離が障害になるとのお話しがありました。なれば、物理的距離がとても大きな両極地については、その実態を伝えて心理的距離を小さくしていくことが有効と思われます。今回のセミナーでは、画像と動画を多数交え、スバールバルと南極はどのような場所で、話者は両極地に何をしに行ったのかをお話しいたします。


セミナー報告

 本セミナーでは、総合地球環境学研究所研究部の林健太郎教授を招き、『両極物語:北極島嶼スバールバルと南極大陸のこと』と題し、極地の概況や実際に現地調査に行かれた際の経験談について報告いただいた。

 まず北極及びスバールバル諸島の概況について説明された。多くの島々が点在する北極には、アメリカ、カナダ、欧州諸国、ロシアなどの国々が隣接し、地政学リスクを内包している。また、北極の海氷域は例年大きく減少する時期(特に9月~10月)があるが、地球温暖化によりその減少幅が年々拡大しており、特に越年氷(凍結から1年以上経過した海氷)の融解とそれに伴う生態系への影響等が懸念されている。この他、ノルウェー北方に位置するスバールバル諸島を巡り周辺国による領有権争いが行われており、当事国であるスウェーデンは1920年に「スバールバル条約」を各国と締結し、自国の領有権を認める代わりに、加盟国(46か国)に対しビザなしで自由に経済活動を行うことを認めていること等が紹介された。

 次に、南極大陸の概況について説明された。南極大陸はオーストラリアの約2倍、日本の約40倍の面積(約1,400万㎢)を有し、ほとんどが氷で覆われている。また、北極と同様に南極の海氷域にも例年大きく減少する時期(特に2月~3月)があるが、地球温暖化によりその減少幅が年々拡大し、同様の問題に直面している。特に西南極に位置する海氷域の減少が大きく、岐阜県に相当する大きさの氷が流出することもある。この他、南極には手付かずの資源(石油、石炭、宝石、レアメタル、隕石など)が豊富に存在するため、オーストラリア、ニュージーランド、ノルウェー、イギリス、フランス、ブラジル、チリ、アルゼンチンによる領有権争いが行われており、1959年に南極条約が締結され、各国の領有権が凍結されていること等が紹介された。

 続いて、林教授が北極島嶼スバールバル諸島に実際に現地調査に行かれた際の体験談について報告された。北極圏に位置するスバールバル諸島では、4月~8月に一日中太陽が昇る「白夜」、11月~1月に一日中太陽が出ない「極夜」になる。スバールバル諸島の面積は6万㎢にも及び、九州と四国を合わせた大きさに相当する。スバールバル諸島には、世界最北の大学「UNIS」や北極観測拠点である「ニーオルスン基地」があることなどが紹介された。
また、スバールバル諸島を含む北極域では、温暖化により平均気温が上昇しており、特に1990年代以降の気温上昇が顕著になっている。このため、海氷域が減少し、各所で地面がむき出しになり、更にはその地面の砂が氷の融解を加速させるという悪循環に陥っている。現代版の「ノアの箱舟」とも称され、世界中の種子を冷凍保存する目的で設置された「スバールバル世界種子貯蔵庫」も氷の融解により沈没するのではないかといった懸念も生じている。氷の融解により、各所で大きなクレバスが発生し、かつての半島が島化し、東ブレッガー氷河では2015年から2016年にかけて約10mから30m後退するなど、深刻な状況に陥っていること等が報告された。
この他、ホッキョクグマ、スバールバルライチョウ、スバールバルトナカイなど、スバールバル諸島に生存する様々な生態系について紹介された。中でも、ヒマラヤ山脈のエベレストに存在する「アンモニア酸化細菌」と同じ種が北極と南極にも存在している点は印象的であった。

 最後に、林教授が南極大陸に実際に現地調査に行かれた際の体験談について報告された。林教授は2016年に第58次南極地域観測隊の一員として南極大陸の現地調査を実施された。実際に乗船された南極観測船「しらせ」の船内の様子、食事の内容、日本から昭和基地への航路、昭和基地までの航海の様子、昭和基地での生活の様子、昭和基地周辺における調査の様子、アデリーペンギンやユキドリなどの生態系の様子などについて詳細に報告された。現地調査では、例えば、露岩域(氷床から岩が露出している地域)には多くの湖沼があり一面コケで覆われていること、ブリザードなどの強風や砂によって表面が削られ無数の穴ができた「蜂の巣岩」があること、長池には「コケボウズ」と呼ばれる510cm程度の三角錐の形状をし、中が空洞になっているコケの一種が湖底一面に広がるなど、南極特有の光景について紹介された。

 講演後の質疑応答では、特に学生から多くの質問が寄せられ、多様な意見を交換する有意義な時間となった。

林 教授による先端研究セミナーでの講演は今年2回目になる。今回は、教職員、学生、外部の方を含め、対面で42名、オンラインで4名、合計46名が参加するなど、前回に引き続き非常に盛況な会となった。セミナー前後のコーヒー・ワイン各セッションでも、講演者の周囲を学生や教職員で囲みつつ、講演者の研究領域や講演内容等について参加者同士で自由に語り合うなど、一層の交流が深められた。

今回は「先端研究」という従来の枠組みに囚われずに、林健太郎教授による活きた経験談を通して、極地の世界や温暖化による影響の実情について、写真や動画も多数織り交ぜながら、非常に明快な報告をいただいた。極地調査は一般人には経験し難いものであり、聴講者は皆講演者の話に釘付けであった。セミナーを通じ、極地の壮大さとともに、地球温暖化による影響の脅威と深刻さを肌感覚で考えさせられた。


(文責:滋賀大学経済学部 特別招聘准教授 室 徳圭)

講演会の様子
講演会の様子
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