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先端研究セミナー(20240509)

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・講演日時:2024年5月9日(木)16:10-17:40

・表題:窒素利用が窒素汚染をもたらすトレードオフ

・講師:林健太郎 先生(総合地球環境学研究所 教授)

・開催様式:対面

・参加対象:どなたでも(申し込み不要です)

・開催場所:士魂商才館3Fセミナー室1


セミナー概要

20世紀初期に大気を満たす安定な窒素ガス(N2)から反応性窒素(NrN2を除く窒素化合物)を合成する技術を獲得した人類は、食料生産力を大きく向上させて世界人口の増加を支えてきた。ところが、人間活動に伴い大量のNrが環境に排出され、地球温暖化、成層圏オゾン破壊、大気汚染、水質汚染、富栄養化、酸性化といった多様な窒素汚染をもたらしている。このセミナーでは、食料・製品・エネルギーという便益を得る窒素利用が、人の健康や生態系の健全性への被害という脅威をもたらすトレードオフ、「窒素問題」について紹介し、持続可能な窒素利用の在り様について議論する。


セミナー報告

総合地球環境学研究所所属の林健太郎教授を招き「窒素利用が窒素汚染をもたらすトレードオフ」と題するセミナーを開催した。

セミナーでは、歴史的観点からみた窒素の利用がもたらした便益を紹介するとともに、その窒素利用の副作用として生み出された現代における窒素汚染の問題、そしてその窒素汚染への対策について、最新の研究結果を踏まえつつ報告された。

報告では、まず窒素に関する基礎知識の解説から始まり、生物が利用する反応性窒素の化学的特徴の説明がされた。窒素は大気中では安定した形で存在しているが、生物が利用するためには反応性の高いアンモニアや硝酸などの反応性窒素への変換が必要であることが紹介された。

次に、この反応性窒素の大量生産が可能になった人類史におけるターニングポイントとなるハーバー・ボッシュ法の歴史について解説が行われた。ハーバー・ボッシュ法は高温高圧下で窒素からアンモニアを合成する画期的な方法で、20世紀初頭に開発された。この開発により、人類は安価で大量の窒素肥料の生産ができるようになった。大量生産された窒素肥料の利用は農作物の収穫量を飛躍的に増大させ、20世紀に人口が爆発的に増加した背景となった。

その後、窒素利用の環境汚染について報告の焦点が移行した。反応性窒素の生産は人口増加に大きく貢献した一方、大気や土壌、水域などへの汚染という弊害もあることが解説された。さらに報告の中では、農業における反応性窒素の利用効率は高くなく、投入された窒素の相当量が作物に吸収されずに環境中に流出してしまっているという研究結果が紹介された。

そして講演の最後には窒素汚染の問題解決への取り組みが紹介された。報告者の所属する総合地球環境学研究所ではSustai-N-ableプロジェクトと呼ばれる、持続可能な窒素利用を実現するための研究プロジェクトが実施されている。その活動内容として、窒素汚染問題の周知活動や、窒素排出量を定量的に分析するための指標開発研究についての紹介が行われた。

講演の後に質疑応答の時間が設けられ、聴講者と報告者の間で様々な議論が行われた。数人の学部学生からはコメントとともに、講演内容について本質的な質問が行われ、報告内容を深掘りした議論が行われた。また、ある研究者との質疑ではその研究者の専門性と交えた発展的な議論が行われた。盛況な質疑応答が繰り広げられ、講演内容に対する建設的な議論を重ねる姿が印象的であった。

また、今年度からは新たな取り組みとして設けたセミナー前後に気軽に交流できる場において、参加者同士は和やかな雰囲気の中で交流を深めた。セミナー前のコーヒーセッションにおいては参加者それぞれの研究背景や関心領域について自由に語り合う姿が見られた。そして、セミナー終了後のワインセッションでは、講演内容を振り返りつつ、様々な研究アイデアを出し合う姿が見られた。セミナーは、対面で32名、オンラインで11名が参加し、合わせて43名が集う賑やかな会となった。

全体を通して、講演者の林健太郎教授による示唆に富む講演内容、質疑応答での白熱した議論、そして参加者間の活発な交流が印象的であった。窒素汚染という複雑な課題の解決に向けて、多様なバックグラウンドを持った人々が協働していくことの重要性を再認識させられるセミナーとなった。

(文責:滋賀大学経済学部 講師 井上 俊克

--セミナーとラウンジセッションの風景--

講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子


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