経済学部

TOP経済経営研究所(ebrisk)■先端研究 ≫ 先端研究セミナー(20230627)

先端研究セミナー(20230627)


Abstract

We examine how financial statement dissimilarity is related to the pricing of private debt contracts. Our findings support a higher loan spread for firms with increasing dissimilarity of their annual financial reports. Dissimilarity contains information about firms' performance and the likelihood of violation of performance covenants in the future. The relation between financial statement dissimilarity and loan spreads is stronger when financial statements have a more ambiguous tone, and when the borrowers have an opaque information environment or when they don't share a lending relationship with banks or are subject to lower monitoring from institutional investors and directors. We further show that banks impose more covenant restrictions, especially performance covenants for borrowers with higher financial statement dissimilarity. Overall, our findings suggest that lenders pay additional attention to the dissimilarity of 10-K reports when deciding on the price and covenants of private debt.20230627D.jpeg


 Harminder Singh氏は、滋賀大学の海外協定校であるオーストラリアのDeakin大学にてファイナンス分野の教鞭を取られている。Deakin大学の学生が海外研修先として滋賀大学に訪れる時に引率教員として帯同することがあり、前回はコロナ禍前の2018年にもセミナーに登壇して頂いている。今回のテーマは、米国における企業年金のパフォーマンスについて、滋賀大学経済経営研究所と神戸大学経済経営研究所で講演を行われた。

 企業年金を持つ企業には、従業員の将来収入を保証する年金基金に対して拠出する義務がある。一方で当然のことであるが、企業は金融機関から融資を受け、債務返済の義務もある。そのため、企業の経営状況が悪化すると、従業員の年金基金への影響も避けられないことがある。

 Singh氏が着目したのは、企業の債務契約に設けられている債務者の義務を明記した特約条項(loan covenant)である。特約条項の代表的なものには、純資産や流動比率に閾値(数値目標)を設けることである。特約条項違反が生じただけでは、企業が債務超過に陥ったわけではない。しかし、貸手である金融機関は特約条項違反を確認すると、金利を引き上げたり、返済期間を短縮することが出来る。

 Singh氏の分析は、企業の債務で特約条項違反が生じた場合に、その後の企業年金が債務超過に陥る関連性を探ることであった。具体的には、1994年~2018年までの米国1,667企業の債務データと企業年金データを用いた分析を行った。分析結果からは、債務の特約条項違反が生じた場合、その企業の年金基金の債務超過確率がおよそ5%程度上昇することが示された。また、このような影響が生じる要因としては、特約条項違反後には年金運用方法が消極的(株式投資から債券投資へシフト)になり、安全資産(ローリターン・ローリスク)の比率が高まり、年金運用収益が低下する結果、本末転倒であるが年金基金が債務超過に陥ってしまうことを明らかにした。

 セミナーには、滋賀大学経済学部教員に加え、海外研修中のDeakin大学の学生、滋賀大学経済学部の学生が多く参加し、活発な議論が交わされた。

 ところで、今回のテーマに関連のある研究発表が、同じく経済経営研究所のセミナーとしてちょうど一年前に開催されている。2022628日にリスク研究セミナーとして開催された米国Dayton大学Ting Zhang教授の「Do Pensions have Real Teeth? Evidence from the State Government Borrowing Costs」である。こちらは、米国の地方()公務員年金についての研究分析であったが、滋賀大学で発表を行った海外研究者の二人の共通テーマであることから、ファイナンス分野で年金の分析が重要視されているトピックであることを窺い知ることが出来る。

 日本においては、公的年金として国民年金と厚生年金があり、企業年金を持たない企業が半数ほどあるため、米国ほど企業年金についての関心は低いかもしれない。しかし、一方で公的年金の制度を有する国であるために、我が国の公的年金ファンドのGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の規模は、2193,177億円(2023年度第2四半期末)と世界で一番大きい。日本においても、もっと関心が向けられるべきテーマである。

(文責: 滋賀大学経済学部教授 吉田裕司)

講演会の様子
講演会の様子

本ページに関するお問い合わせは

滋賀大学経済経営研究所
TEL : 0749-27-1047 /FAX : 0749-27-1397

E-mail:ebr(at)biwako.shiga-u.ac.jp ★(at)を@に変更して送信してください。