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先端研究セミナー(20230525)

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・日時:2023年5月25日(木)16:10-17:40

・表題:Strategic Aspects of Bundling to Prevent Information Acquisition

・講師:水野敬三 先生(関西学院大学商学部 教授)

・開催場所:滋賀大学彦根キャンパス 士魂商才館セミナー室Ⅰ(大)

・開催様式:対


セミナー概要

 潜在的参入者が,ある財市場に参入することにより,関連する財の生産技術に関して詳細な情報を得ることができる,いわゆる知識スピルオーバーが働く経済環境を考える.

 初めに(簡単な理論モデル分析により),そのような経済環境のもとでは,既存事業者は抱き合わせ販売戦略により,知識スピルオーバーに基づく参入者の情報獲得を阻止し,独占的地位を維持できることを示す.しかし,この抱き合わせ販売戦略は経済厚生を著しく悪化させることも確認できる.

 続いて,知識スピルオーバーのみならず,既存事業者が自身の生産技術について私的情報を持っている経済環境を考えてみる.既存事業者の持つ私的情報は,知識スピルオーバーの有無に関わらず,参入者の参入誘因を弱める役割を持つ.しかし,知識スピルオーバーがあるとき,私的情報を持つ既存事業者にとっても抱き合わせ販売戦略は参入者の情報獲得阻止の機能を有することがわかる.


講演報告

報告論文は、Hori, Keiichi and Keizo Mizuno "Strategic Aspects of Bundling to Prevent Information Acquisition" May, 2023である。13名が参加し、活発な議論が行われた。

既存企業が独占している市場に、新企業が参入を試みる状況は、動学ゲームの基本形の一つとして良く知られている。サブゲームやサブゲーム・パーフェクト・ナッシュ均衡、バックワード・インダクション、空脅しといった概念を、参入ゲームの文脈で初めて学習した人も少なくないであろう。この基本モデルでは、新企業の参入の脅威が、既存独占企業の利益を損なう状況を思い描くのは容易い。

次に、補完的な二財ABの両方を1単位、消費して、初めて消費者が1の効用を得る状況を想定しよう。(これをモデル2と呼ぶ。)εを0に近い正数として、既存独占企業はAの生産に1‐ε、Bの生産に0の費用が掛かるとする。この場合、価格を1として消費者の効用の増分をすべて吸い上げるとしても、既存企業の利益はεに過ぎない。ここで、費用0でAを作る新企業が現れるならば、そのA市場への参入を許し、価格競争を通してAの価格をεに抑えることができるなら、既存企業はB市場での独占を利用して1-εの利益を確保できる。このモデル2の結果は、Aにおける新企業の参入が既存企業の利潤を増やす点で、最初に述べた基本モデルとは対蹠的なものになっている。

さて、関連するAB両市場での現実的な局面では、例えば、エレベーターのメンテナンス会社が、メンテナンス業務を通じて、エレベーターの主要パーツへの理解を深め、その生産を始めるとか、ハードウェアとしてのゲーム機の製造を請け負っているメーカーが、その過程で最新のゲームソフトへの消費者の嗜好等を把握し、ゲームソフトの生産に参入するといった展開可能性が知られている。すなわち、Aで生産することが、Bへの参入を助ける情報をもたらす可能性がある。これが報告論文の対象とする状況であり、Aへの参入の結果、将来、Bでの独占的地位が脅かされるリスクがある場合、既存企業はABを抱き合わせで販売し、新企業の当面の参入を阻止する戦略をとる選択肢が議論されている。これは、上記の基本モデルやモデル2とは異なる現実的局面において、抱き合わせ販売の機能に関する理論的理解を深めるものと言えよう。

競争環境は、知的財産権の制度等を通じて、政策的に作られるものでもある。既存独占企業の独占的地位が研究開発に果敢に投資してきた開発者としての努力の結果である場合、模倣者の参入を許すことは、研究開発への誘因を損ない、経済厚生を引き下げる結果をもたらすかもしれない。技術情報の流出という側面に加えて、知的財産権の制度の設計を通じる公的主体の関与の在り方についても、追加的な興味深い議論ができるように思った。

なお、セミナー後は京都に場所を移し、報告者の水野敬三氏、本学の石井利江子・井手一郎に加えて、京大経研の柴田章久氏の参加を得て、4名で歓談した。 

(文責 滋賀大学経済学部准教授 井手一郎)


--講演の風景--

講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子
講演会の様子

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