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先端研究セミナー(20230119)

・日時:2023年1月19日(木)12:50-14:2020230119.jpg

・表題:進化ゲーム理論、意思決定、Society 5.0

・講師:図斎 大 先生(東北大学経済学研究科 准教授)

・開催場所:滋賀大学彦根キャンパス 士魂商才館セミナー室Ⅰ(大)

・開催様式:対

・講演言語:日本語


セミナー概要

Abstract
進化ゲーム理論というと、「進化的安定状態」や「レプリケーターダイナミクス(複製子動学)」といった謎めいた数理的概念を用いた、ともすれば数学・計算でごり押しする分析手法だと捉えられがちである。それが故に、社会・経済の文脈で理解可能な直観や、特定の定式化に依らない一般性が見えにくいと批判されることもあった。しかし近年では、進化ゲーム理論を適応的な社会動学の一般的な枠組みとして捉えようという見方が進んでいる。すなわち、まず動的環境に適応していく主体の意思決定のあり方を定式化することからモデルを構築し始める。このような進化動学の再構築によって、特定の定式化に依らない一般的性質への探求、直感的な理解、多層的・複雑な構造を持つモデルへの拡張が進んでいる。また各主体の意思決定へとモデル構築の視点を深堀することで、認知科学・行動経済学を取り入れたモデル、エージェントベースドシミュレーションへの解析的基礎づけ、そして分散環境下での工学的制御システムの設計へと応用が広がっている。特に、無数のAIが人間と共に動的に行動するという、Society 5.0の社会を設計するにあたって、進化ゲーム理論は理論的基礎となる。本発表では、発表者自身の研究を軸に、こうした進化ゲーム理論の最近の流れを紹介する。また時間が許せば、このような視点からワルラスの模索過程に端を発する市場モデルでの安定・不安定性の分析という古典的な経済理論の問題を再検討してみたい。
Key words
進化ゲーム理論、適応的動学、分散制御、エージェントベースドモデル、限定合理性

【講演報告】

報告者の図斎大氏は進化ゲーム理論を専門にされており、特に、最適反応動学や模倣動学に関する研究をされています。研究実績に関しては、Journal of Economic Theoryなど、トップジャーナルに多数論文を掲載されております。

 今回のセミナーでは、「進化ゲーム理論、意思決定、Society 5.0」の題で報告していただきました。特に、Society 5.0において、人工知能(AI)を作る側は工学や計算科学で、経済学はAIが及ぼす社会・経済的影響を分析するのみであるという見方に反し、いかに経済学・経済理論が作る側の基礎理論となり得るかについて話していただきました。また、図斎氏の専門の進化ゲーム理論がどのように関わってくるのかについてもお話しいただきました。特にAIを持つドローンの運用を例に話を進められました。簡単な概要は以下の通りです。

 Society 5.0ではAIを搭載した無数のドローンが同時に運用されると予想できる。中央管理に関するコストなどから、ドローンがどの運航ルートを取るかなどの意思決定を各自行う場合、他のドローンの意思決定や天候などに反応・適応する必要がある。AIは人々と違い、人が設計でき、無数のドローンによる混雑や衝突は、作成側がAIのアルゴリズムをうまく設計することによって回避・減らすことができると予想できる。では、無数のドローンが存在する中で、どのようなアルゴリズムがドローン社会にとって最適だろうか。無数のAIを無数の人々、AIを搭載したドローンたちの分権的な意思決定・相互依存を人々のそれと置き換えて考えると、いかに効率的な社会システムを達成できるかを考察してきた経済学の知見を活かすことが期待できる。特に、自律分散系のAIの適応という点に関しては、進化ゲーム理論の知見を活かすことが期待できる。

 個人的な感想ですが、図斎氏の今回の報告ではドローンのみの社会、つまりドローンたちのみの相互依存関係に注目されていましたが、AI搭載のドローンやロボットと人々が共存する社会への理論の発展へと関心を持ちました。

 また、セミナー報告前後で図斎氏とセミナー参加者間で意見交換をする機会もあり、大変有意義な時間を過ごすことができました。

(文責:経済学科准教授 府内直樹)

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