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先端研究セミナー(20220721)

・日時:2022年7月21日(木)16:10-17:40

・表題:Financial Destabilization

・講師:柴田 章久 先生(京都大学経済研究所 教授)

・開催場所:滋賀大学彦根キャンパス 士魂商才館セミナー室Ⅰ(大)

・開催様式:対(感染症の蔓延状況に応じてオンライン併用に変更する可能性があります。)

・講演言語:日本語


セミナー概要

 本論文では、簡単な動学的一般均衡モデルを構築し、金融イノベーションとマクロ経済の安定性の関係を分析する。このモデルには、企業家、hand-to-mouth型の消費者および代表的企業が存在するが、特に重要な枠割を果たすのは企業家である。企業家は、各期において固有の生産性ショックに直面する。生産性が高い企業家は、金融市場で資金を調達し、資本を生産するが、その際、金融市場は不完全であり、手持ち資金の一定倍までしか借りることができない。それに対し、低い生産に直面した企業家は貸し手となる。このような設定の下で、本論文は、金融市場の不完全性が緩和され、資金調達が容易になると、経済が不安定化することを示す。より具体的に言えば、金融市場の不完全性が緩和されると経済変動の振幅が拡大し、金融市場の不完全性が消失した時点で振幅が最大になるのである。すなわち、本論文の結果は、金融イノベーションの進展が経済を不安定化させる可能性を持つことを示している。

キーワード:金融市場の不完全性、金融イノベーション、内生的景気循環、マクロ経済の(不)安定性


講演概要

2022721日、柴田章久氏(京都大学経済研究所)を招いて、第6回先端研究セミナーが開催された.タイトルは、Financial Destabilization.(同名の論文は四氏(Ken-ichi Hashimoto Ryonghun Im Takuma KuniedaAkihisa Shibata)の共著で、今のところ各種データベースにて論文共有時点での版が閲覧可能である.)報告は38ページの投影資料を用いて行われた.セミナーの場所は士魂商才館3階セミナー室.久しぶりに、オンラインを併用しない対面のみの様式で、出席者は9名.

 金融イノベーションの進展がマクロ経済を不安定にするか否かを明らかにすることは、実証的にも理論的にも、興味深い重要な研究課題の一つである.論文では、この主題が無限に生きる主体の最適化行動を含む動学的一般均衡モデルを用いて理論的に考察されている.特に、企業家群が資本の生産に関する生産性ショックに応じて、借手(高生産性)と貸手(低生産性)に分かれ、両者間に貸借が要請される状況が想定されている.その際、貸借に上限制約が存在するという意味で、金融市場は不完全であるのが一般であるとされる.金融イノベーションによって、この貸借に関する上限制約が緩和されるときに、マクロ経済の動学的振る舞いにどのような変化が現れるかが検討され、上限制約の緩和が経済の変動を(唯一均衡から振幅の拡大する周期循環に、さらにはカオス的な変動へと)激化させる、新たな可能性が示されている.

 無限に生きる主体の最適化行動を解き、マクロ的な動学式を導出するまでの過程では、ミクロ的基礎を築く上での隘路を知悉してそれらを避けようとする報告者の、年季の入った工匠的工夫が説明され、解析的に手に負える結果を得るための洗練された仮定群の構成が興味深かった.この洗練は、同時に、モデルの応用範囲を狭く限定する条件ともなりえようが、Agent-based computational economicsACE) の手法で、計算力にものを言わせて一般的なモデルを処理するのではなく、解析的に結果を導こうとする理論家の指向性として、筆者には共感的に理解できた.(言うまでもなく、本研究の文脈では、ACEの援用にも固有の課題が少なくない.)マクロ的な動学式の分析例として、CES型生産関数を使った数値計算が提供され、興味深い、印象的な結果が図示された.マクロ経済の変動の拡大が、どの程度、厚生損失をもたらすのか、それは政策的に是正されるべきなのか、などの政策にかかわる議論のためには、規範的な分析への拡張が望まれる.

 様々な議論の契機を含む、興味深い報告であった.

文責:経済学部ファイナンス学科 准教授 井手一郎

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