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先端研究セミナー(20220630)

・日時:2022年6月30日(木)16:10-17:40

・表題:Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith?

・講師:御崎 加代子 先生(滋賀大学経済学部 教授)

・開催場所:滋賀大学彦根キャンパス 士魂商才館セミナー室Ⅱ

・開催様式:対面及びオンライン開催

・講演言語:日本語


セミナー概要

 本セミナーでは、20216月にThe European Journal of the History of Economic Thought誌に掲載された私の論文"Léon Walras and The Wealth of Nations: What Did He Really Learn from Adam Smith? "(レオン・ワルラスと『国富論』:ワルラスが実際にスミスから学んだこととは何か?)の内容を日本語で解説します。ワルラスの一般均衡理論は、スミスの「見えざる手」を理論的に発展させたものというのが、経済学の教科書に書かれている、一般的な解釈ですが、そのような常識に真っ向から挑むことが本論文の目的です。ローザンヌ大学ワルラス文庫の調査も手掛かりに、ワルラスとスミスとの知られざる影響関係を明らかにします。

キーワード:アダム・スミス 見えざる手 ワルラス 一般均衡理論 Adam Smith invisible hand Walras general equilibrium theory


セミナー報告

  ワルラスの一般均衡理論をスミスの「見えざる手」の発展とする一般的な解釈に対し多くの経済学説史研究者は違和感を持ち、スミス研究者からは思想的な観点から反論がなされてきました。しかし理論的な関心を主としてきたワルラス研究者は、この常識を批判的に検討する根拠を欠いていました。そしてワルラスに対するスミスの影響に関し、その直接的な影響を否定しつつ『国富論』の「初歩的な均衡理論」がセーの仕事を通じてワルラスの純粋理論を方向づけたとしたシュンペーターの解釈と、ワルラスの応用経済学の目的と『国富論』第4巻との共通性に着目しつつもワルラスは『国富論』を注意深く読んだわけではないとしたジャッフェの解釈が通説とされてきました。

 今回の御崎氏の研究は当初、シュンペーターやジャッフェの利用しえなかった、ローザンヌ大学ワルラス文庫所蔵の『国富論』仏語版(1859年版)へのワルラス自身の書き込みの調査を手掛かりにこうした所説の再検討を試みたものでした。ところが、ワルラスの書き込みの大半が余白への縦線、下線、数字、×印などであり、ワルラスの意図を読み取ることが容易ではないうえ、本人の書き込みであることを確認すること自体に課題を抱えていました。そのため、講義ノート「応用経済学講義」などやはりシュンペーターらの利用しえなかったものも含めたワルラスの他の著作を幅広く調査することで、そうした書き込みの意図等を確認するとともに、その書き込みをいわば傍証としてワルラスへのスミスの影響を一つ一つ検証していくという作業を要することになりました。

 その結果、 

・ワルラスはその純粋経済学においてスミスの「見えざる手」や価格分析の影響を受けていない。

・しかしワルラスは『国富論』を熟読しており、その応用経済学を中心にスミスの分業論の直接的な影響を受けている。

・しかしワルラスは分業や人間の道徳的人格を自然的事実と考え、その起源を決して論じておらず、そのことがおそらくスミスの『道徳感情論』を全く利用しなかったことと関係している。

など多くの新たな知見が得られましたが、それらはシュンペーターの軽視した応用経済学や社会経済学も含め、ワルラスの思想や実践面まで深く掘りさげたワルラス研究を行ってきた御崎氏だからこそたどり着くことのできた「ワルラスが実際にスミスから学んだことは何か?」に対する解答と言うことができるでしょう。

 対面、およびオンラインの双方から多数の質問が寄せられ、ワルラスの自由放任主義に対する立場、セーとの関係、数学の利用が人間の自由意志を否定する「危険思想」とみなされたこと、中山伊知郎らの日本のシュンペーター研究の再評価など、多岐にわたる論点が話題となりました。

(文責 経済学科 教授 田中英明)

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