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先端研究セミナー(20220623)

・日時:2022年6月23日(木)16:10-17:40

・表題:A mathematical model of collective memory decay with a dynamical switching point

・講師:佐野幸恵 先生(筑波大学システム情報系 助教)

・開催様式:オンライン

・講演言語:日本語


セミナー概要

本セミナーでは、「集合的記憶」と呼ばれる社会や集団の中で共有される公的な記憶を再現する、われわれの提案した数理モデルを紹介する。
このモデルは指数関数とベキ関数の組み合わせによって表現され、早い忘却フェーズとゆっくりとした忘却フェーズを内在しており、これら異なる忘却フェーズの転換点も表現することができる。
われわれは有名人の訃報や自然災害に対する英語版Wikipediaのアクセスログを用いて、このモデルの妥当性を検証し、複数の既存モデルより適合性が有意に高いことを示した。

また記憶の転換点は多くのサンプルにおいて10日前後となり、集合的記憶の持つ普遍的な性質が示唆された。

キーワード
集合的記憶、Wikipedia、データサイエンス


セミナー報告06231.png

 災害や大事故など、インパクトの大きい出来事は、社会内で共有された記憶(集合的記憶)となる。この集合的記憶は永続するわけではなく、時間とともに風化する。風化を防ぎ、被害が繰り返されるのを避けるためには、集合的記憶の減衰メカニズムの解明が求められる。社会の中で、重要な情報がいかに保持されるか、必要な行動をいかに促し続けるかは、人文・社会諸科学に広く通じる共通の関心事と言えよう。

 従来は概念的論考によるアプローチが目立った集合的記憶について、本セミナーの講師・佐野幸恵先生は、「ビッグデータ」と「数理モデル」でアプローチする。論文投稿中とのことなので、詳細は省略しよう。ただ大枠にだけ触れると、膨大な蓄積のあるWikipedia各ページの閲覧数データを用い、時間の経過の中で、人々の閲覧行動がどのように変化するかを捉えるモデル(指数関数とベキ関数の組み合わせたモデル)が提案された。この提案モデルは、広範なイベント(e.g., 地震、航空機事故、有名人の死去)で良い当てはまりを示していた。また、単に当てはまりが良いだけではない。2つの関数それぞれの特徴を踏まえて解釈することで、集合的記憶がどのような関心を持つ人々によって支えられ、そして減衰していくのか、その質的理解も深めてくれるモデルとなっていた。

 質疑応答時間には、続々と質問が寄せられた。質問者は学内の研究者・他大学の研究者・民間の研究者と幅広く、また専門分野も防災・社会学・法学・心理学と幅広かった。この研究が持つインパクトの広範さがうかがわれる。多くの分野が関心を持ち続けてきた重要テーマに、新たな角度から新たな方法論が提示された時の興奮と熱量を、会場から(オンラインだったにも関わらず)感じた。

(文責:経済学部社会システム学科 教授 竹村 幸祐)


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