経済学部・大学院経済学研究科

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先端研究セミナー(20220609)

・日時:2022年6月9日(木)16:10-17:40

・表題:Statistical Inference in Evolutionary Dynamics

・講師:澤 亮治 先生(筑波大学システム情報系 准教授)

・開催場所:滋賀大学彦根キャンパス 士魂商才館セミナー室Ⅱ

・開催様式:対面とオンラインの併催

・講演言語:日本語


セミナー概要

 本研究では、進化ゲームのモデルへ統計的推論を意思決定ルールとして組み込み、統計的推論を行うプレイヤー集団の行動の帰結予測を行った。統計的推論については、Salant and Cherry(2020, Econometrica 88, pp.1725-1752)により統計的推論を組み込んだ静学ゲームモデルが提案されており、均衡概念として(統計的推論の下での)サンプリング均衡が提案されている。同様に、他のプレイヤーをランダムにサンプルし、そのサンプルから統計的推論により意思決定を行うプレイヤーを仮定し、そのようなプレイヤーにより構成される進化動学モデルを構築した。いずれかのサンプリング均衡への大域的な収束、および一定の条件の下での特定の均衡への大域的収束など構築した動学に関する重要な性質を明らかにした。

キーワード

進化ゲーム, 統計的推測, 二項分布, 最適反応動学


セミナー報告

 報告者の澤亮治氏は進化ゲーム理論を専門にされており、特に行動経済学の知見を取り入れながら、均衡の動学的安定性や均衡選択問題に取り組んでおられます。既に澤先生はJournal of Economic Theoryなど、トップジャーナルに多数論文を掲載されております。

 今回のセミナーで報告された研究「Statistical Inference in Evolutionary Dynamics」は、各プレイヤーがプレイヤー全体の戦略の分布に関して統計的推論を使用する状況を分析した大変興味深い研究です。一般的な進化ゲーム理論での、プレイヤー全体の戦略分布を観察できるという仮定を課さず、戦略分布に関するサンプルを収集、戦略分布を統計的に推論し、最適反応を行うプレイヤーが考察されています。今回の報告では、主に戦略が2つのみ存在するケースに注目をされました。

 澤氏はまずsampling equilibrium with statistical inference(SESI)と呼ばれるプレイヤー全体の戦略分布に関する均衡概念を紹介されました。具体的には、ある戦略(戦略Aと呼ぶ)を選んでいるプレイヤーの割合αにおいて、各プレイヤーがプレイヤー全体の戦略分布に関するサンプルを収集、統計的推論をし、最適反応した結果生じる、戦略Aを取るプレイヤーの割合がまたαとなる場合、そのαをSESIと呼びます(戦略が2つのみ存在するケースに注目しているので、戦略Aの割合が決まれば別の戦略、戦略Bの割合も決まる)。

 進化的動学においては、初期時にプレイヤー全体の戦略分布が均衡である必要はなく、各プレイヤーの戦略の見直しの結果、最終的に戦略分布が均衡に収束するかどうかを考えます。今回の報告では、各期にある確率で戦略の更新の機会を得るプレイヤーが選ばれ、そのプレイヤーがサンプルを収集して統計的推論を行い、それをもとに最適反応を行うという進化的動学が考えられています。

 そのような進化的動学を考えたとき、どのようなサンプル数、推論方法を考えても、もし更新の機会を得るプレイヤーの割合が十分に小さければ、上で挙げられた進化的動学はあるSESIに収束することを示されました。

 特に、非調整ゲームにおいては、SESIはユニークに存在し、進化的動学はそのSESIに収束をすることを示されました。調整ゲームにおいては、全員が戦略Aを選ぶ、全員が戦略Bを選ぶという二つのSESIが存在し、進化的動学が全員戦略Bを取るというSESIに収束するための条件を示されました。

 今後の展望として、行動が3つ以上のケースや学習理論への拡張を考えておられるようで、筆者は学習理論への拡張に大変興味を持ちました。

 また、セミナー後に澤氏と会食する機会がありましたが、澤氏の研究や研究以外のことで会話が弾み、大変有意義な時間となりました。     

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