・日時:2022年6月2日(木)16:10-17:40
・表題:Effects of monetary and fiscal policy interactions on regional employment: Evidence from Japan
・講師:宮崎 智視 先生(神戸大学経済学研究科 教授)
・開催場所:滋賀大学彦根キャンパス 士魂商才館セミナー室Ⅱ
・開催様式:対面及びオンライン開催
・講演言語:日本語
セミナー概要
The objective of this study is to examine the effects of the interaction between unconventional monetary policy and fiscal stimulus on regional employment in Japan using a mixed vector autoregressions (VARs)/event study approach. Our empirical findings first show that employment recovery was salient in western Japan rather than the Tokyo metropolitan area, contrary to some criticism on the Abenomics policy. This suggests that when it comes to employment, rural regions reaped more benefit from the policy interaction than the country's major economic hub. Second, although we confirm employment recovery for female employees in all regions, we do not observe such a trend among male employees, implying that the policy interaction might not increase the number of regular workers, which supports the phenomenon observed in the entire country. Finally, the quantitative effects of the policy interaction are not larger than those of past fiscal stimuli regardless of the region, implying the policy interaction was not a silver bullet for employment recovery in the short run, despite its scale.
キーワード:
Monetary-fiscal policy interaction under secular stagnation; regional employment; a mixed vector autoregression/event study approach
セミナー報告
令和4年度第1回の先端研究セミナーの講師は、神戸大学大学院経済学研究科教授の宮崎智視(ともみ)先生である。宮崎先生は、2021年に「都市農業と土地税制に関する論点整理」で日本不動産学会論説賞、2022年に「長期停滞下における財政政策の評価」で村尾育英会学術奨励賞を受賞するなど、財政学、公共経済学の分野で多数の先端的業績を挙げられておられ、今回のテーマ" Effects of monetary and fiscal policy interactions on regional employment: Evidence from Japan"は、宮崎先生が今取り組んでいる最中の論文であり、先端研究セミナーに相応しいと言えるだろう。
一般には、世界金融危機以降の中央銀行の国債購入、財政政策は、雇用に良い影響を与えたと考えられている。そして、日本に限れば、2013年からのアベノミクスとして、第1の矢で大胆な金融政策、第2の矢として機動的な財政政策が掲げられた。そして、その雇用の改善は都市部に偏った効果であるという意見もある。また、女性の非正規雇用を増加させただけであろうとも言われる。
学術的には、Mukoyama et al.(2021)が、非正規雇用がビジネスサイクルを決定すると主張している。
そこで、地域によって、非伝統的金融政策、財政政策の共通のマクロショックが、どのような効果の違いを表すのか、非伝統的金融政策と財政政策の相互作用が、男性と女性の雇用に分けるとどのような効果の違いを表すのかを検証する。
なぜ日本に注目するのかと言えば、バブル崩壊以降、世界に先駆けて経済の長期停滞を経験しているからである。そして、アベノミクスの存在である。
計測手法は、VARとイベントスタディの組み合わせである。イベントスタディとしては、財政政策が行われた時期をダミー変数で表している。2013年から2016年のアベノミクスを1、90年代、世界金融恐慌の際の財政政策をそれぞれ1と置いた。この手法を使用する理由は、持続性、波及性を知りたいためであり、因果推論等の手法ではそれを知ることは困難である。
変数は、雇用と雇用の構造的要因の差を表す変数(雇用ギャップ)かもしくは循環的失業率とそのラグ付き変数、GDPギャップとGDPギャップのラグ付き変数、そして、先ほどのダミー変数とし、インパルス応答関数を推計する。なお、全国を9地域に分けた。推計期間は、1986年から2016年の四半期データである。
すると、西日本では、非伝統的金融政策と財政政策の相互作用により、男性、女性とも雇用の改善が見られた。首都圏では、女性に限って雇用の改善が見られた。地方部の方が雇用の改善がより顕著にみられる。そして、女性については、全ての地域で雇用の改善が見られたが、男性はそうではなかった。
ロバストネスチェックでは、為替レート、労働力率といった変数を入れ、またバブル崩壊以降の期間に限って推計した。その結果、女性に対してはすべてのケースで雇用ギャップ、循環的失業率の改善が見られたが、男性は雇用ギャップに対してロバストではなかった。
背景には、女性の非正規雇用の増加があると推測される。90年代以降の、小泉政権以降の雇用構造の変化がそのような結果をもたらしたと考えられる。
そして、非伝統的金融政策と財政政策の相互作用が持つ効果は量的に十分大きなものではなかったことが分かった。
質疑応答は多数行われたが、その1つに、地方の方が雇用改善効果が大きいのは、財政政策で公共事業が地方で行われたからではないかという質問があったが、その解釈は検討に値するとの見解であった。
(文責 ファイナンス学科 特別招聘准教授 吉田 桂)
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