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第6回先端研究セミナー(20210708)

・日時:2021年7月8日(木)16:10-17:40

・表題:起業と経営についての研究の始め方と続け方のリフレクション

・講師:伊藤智明 先生( 京都大学大学院 経営管理教育部 特定助教)

・開催場所:対面(士魂商才館3Fセミナー室2)及びオンライン開催


セミナー概要

 起業の出口を上場やM&Aと見定めて、設立されるスタートアップ企業の多くは、当初の目論見どおりの望ましい出口にたどり着けない。こうした起業の帰結は、一方で、スタートアップ企業の法人としての終わりを意味する。他方で、スタートアップ企業のファウンダーにとっては、次の起業の始まりを意味することもある。
 本セミナーの報告者は、こうしたスタートアップ企業の存亡を見取りながら、一人のシリアル・アントレプレナーと共に研究を行なってきた。本報告では、報告者のこれまでの経験や成果から、起業と経営についての研究の始め方と続け方を検討する。
 主な報告内容は以下の3点である。第1に、起業と経営についての研究の始め方を省察する。第2に、起業と経営についての研究の続け方を省察する。第3に、今後の起業と経営についての研究のあり方を展望する。


セミナー報告20210708-3.png

 経営学の研究方法は、大きく分けて定量的研究法と定性的研究法がある。当然のことながら、その中の一領域である起業家研究においても同様である。とりわけ、定性的方法論による起業家研究においては、起業家に対する回顧的インタビューに基づく聞き取り調査が主流であり、そこから得られる結論は「起業家がいくつもの困難に遭遇しながらも、それらを克服して新たなものを創り上げていく」というお決まりのストーリーによる結論が多い。

 講師である伊藤先生は、起業家研究における質的研究の行き詰まりにブレークスルーをもたらす新たな定性的方法論にもとづく起業家研究の方法論構築に向けて調査研究している新進気鋭の研究者である。

 伊藤先生が提唱する新たな質的研究法に基づく起業家研究のアプローチは、「起業家と研究者の関わり合いのモデルとしての二人称的関係」と「関わり合いを生成・維持するための技術としての共愉的道具」という要素から成り立つ。前者の二人称的アプローチとは、起業家と研究者が「私-あなた」という二人称的関係を構築しデータを引き出すインタビューではなく、複数回に及ぶ対話を通じて起業家との情感込みの応答を重ね、起業家自身の自己や意味成果について省察を促し、その応答を観察および記述することで起業家の意味世界の矛盾・齟齬を孕んだ事例を再構築するというものである。後者の共愉的道具については、起業家と研究者がそれぞれ異なる目的や利益を追求しながらも、対話においては共にいることが楽しく、創造性を刺激し合う関係を造る共愉的道具の場であると双方が認識できるように研究者が働きかけると言うことを意味する。ちなみに、伊藤先生によるとこの共愉的道具を構築するにあたっては経営学者アージリスが提唱したアクション・サイエンスといった経営学の研究成果が大いに役立つとされている。

20210708-2.png この新たな方法論にもとづく起業家研究を実践することによって、単なるサクセスストーリーではない起業家の試行錯誤の過程をリアルタイムで追跡することができるようになり、起業家研究における新たなる可能性が展望できるのである。今回のセミナーでは、起業家研究方法としての二人称アプローチと共愉的道具について、着想に至る背景にあるストーリーをベースにこれまでに実践された研究結果と今後の課題を語っていくという斬新なプレゼンテーションで実施された。研究内容、プレゼンテーション方法、いずれも挑戦的でクリエイティブなものであり、大変知的刺激を受けたセミナーであった。

(文責 企業経営学科 教授 小野善生)


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