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第5回先端研究セミナー(20210701)

・日時:2021年7月1日(木)16:10-17:40

・表題:災害対策における伝統知・地域知~コミュニティの視点から

・講師:落合知帆 先生(京都大学大学院地球環境学堂 人間環境設計分野)

・開催場所:対面(士魂商才館3Fセミナー室2)及びオンライン開催


セミナー概要

 近年、大規模な災害が各地で発生し、多くの被害を出している。災害が多い日本では各地域において独自の災害対策が講じられ、その対策や知恵は家庭内や集落内で引き継がれてきた。これら自然災害に対する対策や知恵は、地域の地理、地質、気候や社会的な状況など様々な要素を反映させたものであり、人々の生活史が刻まれた「地域の財産」ともいえる。一方で、近年大規模な災害が発生しなかったこと、土木事業が進んだこと、生活習慣が変化したことなどから、伝統的に引き継がれてきた災害対策が忘れ去られようとしている。

 また、住宅開発により移り住んできた新住民達は、かつてその地域で起きた災害について知る機会が少なく、地域全体の脆弱性を上げる結果ともなっている。

 本講義では、岐阜県白川村の合掌造り集落での防火対策と、滋賀県の比良山麓における水害・土砂災害対策の事例を通して、災害対策における伝統知・地域知をコミュニティの視点から考える。


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 水害、火災、感染症など、人間社会は様々な脅威にさらされる。そうした脅威にいかに備えるか。これらの脅威はいつ現れるかわからないので常に備えておく必要がある。しかし、備え続けるのは容易ではない。脅威が何もない時、日々の生活は他のこと(例えば仕事)で何かと忙しい。備えは疎かになりがちで、平時に備えを維持するのは決して容易なことではない。そうした備えの継続をいかに実現するか、様々な地域コミュニティで調査を重ねてこられた落合知帆先生にご講演いただいた。

 落合知帆先生と司会(竹村幸祐)はこの日が初対面であった。専門分野も異なり、接点はまるでなかった。竹村が偶然、落合先生の論文に出会い、もっと詳しく知りたいと思い、突然メールを送った。そんな突然の講演依頼に、落合先生は二つ返事で快諾してくださった。フットワークの軽さがうかがわれる。

 そのフットワークの軽さは、研究にも現れていた。各地の地域コミュニティを訪れ(国内だけでなく国外も)、そこに住む人々の話をじっくり聞きこみ、石の建築物のサイズを測り、そして古文書を紐解く。フットワークが軽くなければ、こうはいかない。

 講演では、主に、岐阜県白川村(白川郷)の防火対策と、滋賀県・比良山麓における水害・土砂災害対策の事例をお話しいただいた。白川村では、建築物(合掌造り)の特徴もあって、火災は大きな脅威となる。それゆえ、常日頃から、火災を起こさない備え、火災が起こった時のための備え(延焼防止策)が徹底されている。町内会の活動として、1日4回の注意喚起を毎日行うというのだからすごい。午前11時に「火の番大丈夫ですか」と隣家に声をかける、午後6時には拍子木を打ち鳴らしながら歩き、午後8時には錫杖を引きずり音を立てながら歩いて各戸の玄関先で「火の番大丈夫か」と声をかけ、最後に午後11時に拍子木を打ち鳴らしながら地区内を歩くという。拍子木には火の縄(スピリット)を切るという意味合いも込められ、超自然的存在への畏敬の念もこうした活動を背後から支える。このコミュニティにおける消防団の役割も重要で、世代・業種を超えた人間関係の形成につながっている。こうしたネットワークが平時から形成されることで、有事に迅速に行動できる。もちろん、「防災」だけを意識していては息が詰まり、持続しないし、人を惹きつけることもできない(消防団への参加も消極的になる)。白川村では、防災は、平時の様々な活動・喜びと密接な関係を持つと落合先生は指摘する。先生の観察によれば、祭りの際の消防団の活躍(重い祭り道具の運版、行列の誘導など)は、実はそのまま有事に向けての訓練になっている。

 滋賀県・比良山麓の水害・土砂災害対策も、各地域の歴史の中で積み上げられてきた伝統知に支えられていた。例えば、川に砂堤が築かれ、近くに松が植えられ、水害時にその松をどう活用するか(e.g., 切り倒して砂堤を守る、切り倒された後の松の根は大雨時の松明の燃料にする)が伝えられていた。気候・地形・地質は地域ごとに(たとえ隣接する地域であっても)異なる。そのため、水害への対策のあり方も、地域ごとに異なる。各地域は、構造物対策(e.g., 堤)・非構造物対策(e.g., 避難方法)を組み合わせた防災を伝統的に行ってきた。こうした伝統知・地域知は継承が容易でないが、軽視されるべきでないと落合先生は指摘する。

 講演参加者のほとんどはZoomでのオンライン参加だったが、積極的な質疑がなされた。質疑の時間には、ある参加者が口頭で質問している合間に、チャットで別の参加者から質問が届いた。地域コミュニティをどうするか、そのテーマへの関心の高さがうかがわれるとともに、落合先生の研究の魅力と重要性を再認識した。

(文責 社会システム学科 教授 竹村幸祐)


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