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第4回先端研究セミナー(20210624)

・日時:2021年6月24日(木)16:10~17:40

・表題:資本主義の新しい形と税制-国際課税・デジタル課税・環境税の現状と展望-

・講師:諸富 徹 先生( 京都大学大学院経済学研究科 教授)

・開催場所:オンライン開催


セミナー概要

 資本主義の変貌は、税制の世界にも大きな影響を及ぼしている。本講演では、まず、資本主義にどのような変化が起きているのかを議論した上で、それとの関係で税制にどのような変革が求められているのか、また実際にどのような変革が起きつつあるのかを議論する。

 資本主義の変化でもっとも注目すべき動きは、その「非物質主義的転回」とでも呼ぶべき変化であり、有形資産を中心とする経済から、無形資産を中心とする経済に急速に移り変わりつつある。この傾向はコロナ禍でさらに加速化し、米国をはじめとする先進国経済は、かつての製造業主導経済からデジタル経済へと大きく変貌を遂げつつある。他方、資本主義のアポリアとして地球温暖化問題、そして格差の拡大が挙げられる。

これらに対処すべく、国際課税の改革の一環としてOECDを舞台にデジタル課税のあり方が議論され、本年7月にも国際合意が期待されている。他方、温暖化対策としてこれまた国際的にカーボンプライシング、具体的には炭素税の活用が活発に議論されている。さらに直近では、英米両国は法人税率引き上げ方針を発表したほか、バイデン政権は富裕層への課税強化を表明している。これらは、格差拡大への対処とみなすことができる。

本講演では、資本主義の転換に伴って税制も転換期を迎えているという視点に立って、今後の税制改革のあり方を展望する。


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 資本主義の新しい形については、GAFAなどに代表される企業群の新しい経営形態に関する研究であり、デジタル課税については、今まさにG7で議論され、G20でも議論されようとしている論題であり、環境税については、菅首相による、2050年のカーボンニュートラルの目標に向けて、導入が議論されているテーマであり、同氏の長年の研究分野として、先端研究に関する研究会に相応しいテーマであると言えるだろう。

 資本主義の新しい形としての知識産業、脱工業化、ポスト資本主義といった議論は、1950年代、60年代までさかのぼる。それを引き継いで、同氏は現代の資本主義を「非物質的転回」が起こっているとする。「非物質的転回」とは、資本と労働のあり方だけでなく、消費を含めた変化を統合的に捉え、生産と消費の両面で「物的なもの」から「非物質的なもの」への重点移行が進行することとする。資本主義の発展にとって投資は重要であるが、過去20年間に起きた非常に大きな変化は、「無形資産」投資の顕著な増大であるとする。一方、日本については、無形資産投資が停滞しているとする。

 所得税、法人税も、1980年代以降、国際資本移動が自由になった中で、富裕層や法人がどの国に納税するか、国を選択する時代になったため、所得税、法人税とも国際競争により、税率低下が起こった。パナマ文書で明らかになったように、富裕層は所得のほとんどを租税回避している実態が明らかになっている。また、簡単な所得移転が可能な資本所得から労働所得への税負担のシフトが起こっているとする。法人の租税回避のメカニズムについても言及があった。知的財産は、解釈によっては無価値とも取れ、タックスヘイブンに資産移転が容易であるという。

 そこで、グローバル化、デジタル化による税収損失への対処策として、OECDのデジタル課税提案における課税権の配分が議論されている。多国籍企業のグローバル利益を、どの国に所得移転しても世界全体で合算するところから始まる画期的なものとなっている。また、租税情報の国際的な交換・共有をするネットワーク型課税権力が形成されている途中であるという。

 環境税については、菅首相が2020年12月に経産相と環境相にカーボンプライシングの導入の検討を指示した。炭素税導入国では、二酸化炭素排出量が減っているとともに経済成長している国が多くある。日本は炭素生産性が低迷しており、他国は炭素生産性が上昇している状況にある。日本では、カーボンプライシングを導入すると、日本経済が悪化するという主張をする政治家等がいるが、実効炭素価格が高い国は、炭素生産性が高い傾向にあることが分かっている。炭素生産性が低く、利益率が低い業種から炭素生産性が高く、利益率が高い業種に産業を移行していく努力が求められるだろう。そのために、カーボンプライシングが役立つという。

 最後に、バイデン政権の巨額財政支出政策が説明された。この政策はしっかり財源調達を考えている。ただし、米議会は共和党と民主党が拮抗しており、成立はまだ未確定であるという。

 質疑応答では、日本の産業がこの先どうしていけば良いのかという問いがあったが、モノづくりにこだわらず、ものがサービスの媒体になるようなそのような、米と台湾の中間のような製品を造っていくのがいいのではないかという回答であった。

(文責 ファイナンス学科 特別招聘准教授 吉田桂)


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