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第1回先端研究セミナー(20210423)

・日時:2021年4月23日(金)16:10~17:40

・表題:老舗企業の存続メカニズム

・講師:曽根秀一 先生(静岡文化芸術大学 准教授)

・開催場所:オンライン開催


セミナー概要

 本講演では、2019年3月に上梓した、『老舗企業の存続メカニズム』(中央経済社)をもとに報告いたします。老舗宮大工企業の存続や衰退について、経営学とくに経営戦略論、企業史的な観点から検討いたしました。分析視角としてビジネスシステム論等を用いて、近年着目される老舗企業論やファミリービジネス論の変遷について、考察、問題提起し、金剛組をはじめとした長期存続を果たす宮大工組織の存続メカニズムの事例分析について報告させていただきます。

老舗企業の存続というダイナミズムをつうじて、経営の研究のみならず、地域社会や文化、歴史から、その奥深さや魅力を伝えられたらと考えております。また、補足として国際比較についても触れたいと思います。


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 老舗企業の長期存続メカニズムを解明する研究領域は、近年の経営学において最も注目されている研究分野であると言える。従来の経営学のメインストリームが、その学説史からみても明らかなように、近代企業の企業経営の現象と理論の開発にあるのに鑑みれば、同氏の研究の重要性が際立って理解できるように思える。先端研究セミナーを関する研究会に相応しいテーマであると言えるだろう。

 一般的に老舗は創業から100年以上の業歴を誇る企業と定義されるが、本研究セミナーにおいては、同氏は200年以上の業歴を誇る老舗を分析対象とし、国別の統計数値の把握から議論を始めている。その一部を紹介すると、世界の老舗企業数は3位がフランスの331社、2位がドイツの1563社、1位が日本で3113社が存在する。わが国が老舗企業大国であることがこの数値から容易に理解できる。

 同氏の研究報告は日本の老舗企業の中でも老舗宮大工企業の比較研究がメインとなっている。世界で最も長寿である企業は578年に創業した大阪の宮大工企業である金剛組であることは世界的に知られており、その契機となったのは、同氏の研究である。ちなみに同氏の研究を契機にShinise(老舗)という日本語が海外の学会でも通用するようになった。他にも竹中工務店、松井建設、大彦組、石川工務所、播磨社寺工務店等の企業が分析対象となっている。

 同氏の研究報告によれば、老舗企業には家元力、即ち血縁による正統性の源泉や家元力を支える継承財に注目する。同氏はそれらの資格・資源に基づき、経営者の選抜システム(事業継承システム)、及び宮大工企業のコアコンピタンスとなる技能伝承のシステムが明らかにされた。

 前者については、棟梁に選別される基準である家訓が紹介されと共に、金剛本家だけでなく、分家、柳家等、複数の家の連合体によって金剛組の経営者選抜システムが形成されていること、また長子相続に固執せず、分家や柳家からの養子縁組等、血縁の中ではあるけれども能力に応じた経営者の選抜システムが存在することが明らかにされた。

 また、後者については、技能伝承システムについては、組中組に基づく内部競争システムが存在し、職人の技能の切磋琢磨が促進されていること、大棟梁制という形で10年程度修行を続け、一人前と認められた職人が別家として独立することができ、技能伝承だけでなく、華道・茶道・習字などの教養を習得させるインセンティブシステムが存在したこと、また、外注制が採用されており、現在のゼネコンのビジネスシステムと共通していたことが明らかにされた。以上の金剛組の事例を中心に、竹中工務店等の老舗企業のビジネスシステムとの異同が様々に議論された。

(文責 企業経営学科 准教授 柴田淳郎)


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