経済学部

TOP経済経営研究所(ebrisk)■リスク研究 ≫ 第6回 データサイエンス教育研究センター・経済経営研究所ジョイントセミナー(20211014)

第6回 データサイエンス教育研究センター・経済経営研究所ジョイントセミナー(20211014)


要 旨

 ネットワーク科学は、自然界や社会・経済システムに内在するさまざまな「つながり」をネットワーク(グラフ)として表現し、データ解析や数理モデル解析によって現象の理解を目指す新しい学問分野である。

 本発表では、とくに金融市場に焦点を当て、銀行破綻の連鎖モデルや、イタリア銀行間市場における実取引データを用いたネットワーク解析を紹介する。発表する研究は自然科学系および経済学系の雑誌に掲載された論文に基づいており、経済学研究のスタイルと自然科学系のスタイルの違いがどの辺りにあるのかなどについても述べたい。

 例えば、ネットワーク科学において議論されてきた拡散モデルとゲーム理論における拡散モデルの関係性など、両分野の交差地点について議論する。


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 交友関係、インターネット、企業間取引、生態系の捕食、感染症の拡がりなど、挙げればきりがないほど、社会・経済現象、自然現象に"つながり"を見いだすことができます。ネットワーク科学は、"つながり"の構造を紐解くことによって、現象のメカニズムを解明することを目指す学問分野です。今回のセミナーでは、ネットワーク科学に関する数多くの研究成果を発表されている小林照義先生(神戸大学大学院経済学研究科)に、経済・社会システムのネットワーク解析についてご講演頂きました。

 銀行間市場における取引ネットワークの日々の変化は、ランダムであり規則性はないと先行研究では主張されてきました。しかし、イタリアの銀行間市場の取引データを用いた小林先生の研究(Kobayashi and Takaguchi (2018a))では、①銀行間市場における1日の取引数が市場に参加している銀行数の1.5乗に比例するというSuper-linear Scalingと呼ばれる性質を有すること、②銀行間市場において、同一の取引相手と連続して取引する日数がベキ分布に従うことが明らかになりました。実は、社会ネットワークの研究において、人間同士の会話(携帯電話の利用者数と通話回数、同じ相手との会話継続時間)にも同様のパターンが観察されることが知られているようです。

 イタリアの銀行間市場の取引データに基づくリレーションシップ貸出の抽出を行う研究(Kobayashi and Takaguchi (2018b)、Kobayashi,Takaguchi, and Barrat (2019))も解説頂きました。研究では、まず、参加銀行同士がランダムに取引を行う「ランダムモデル」を仮定し、各銀行の活動量(取引のしやすさを表す量)を最尤法により推定します。そして、同一銀行同士の一定期間における実際の取引回数が、ランダムモデルを前提に推定された取引強度から計算される取引回数に比べて過大であれば、ランダムモデルを棄却し、当該銀行同士の取引はリレーションシップ関係にあると判定します。このような方法に基づき実データを用いて推定を行った結果、リレーションシップ関係にある取引の割合が、リーマンショックや欧州債務危機発生時には増加しておりました。イタリアは、欧州債務危機発生時に国債のデフォルトに対する懸念が高まった時期があります。本研究の結果は、この時期、イタリアの銀行が不利な金利を受け入れてでも同一の貸し手から持続的な資金調達を図ろうとしていた可能性を示唆していると考えられます。非常に興味深い結果に思えました。

 さらに、セミナーでは、経済学とネットワーク科学の比較にも言及されました。両者は、扱うトピックに共通性がありますが、アプローチや思想に違いがあります。例えば、ネットワーク上の情報拡散は、ゲーム理論でもネットワーク科学でも扱われますが、その分析アプローチは異なります。小林先生の最近の研究(Kobayashi,Ogisu, and Onaga (2021), Kobayashi and Onaga (2021))では、ゲーム理論で扱われてきたネットワーク上の拡散問題をネットワーク科学の立場から捉えなおし、従来の研究では得られなかった知見を得る成果を出されました。 

 小林先生には、ネットワーク科学による社会・経済システムの分析方法や結果を分かりやすく解説頂きました。多くのセミナー参加者が、ネットワーク科学が社会・経済事象のメカニズムを解き明かす力に魅了されたのではないかと思います。

(文責 経済学部ファイナンス学科 准教授 菊池健太郎)


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