日時:2024年11月28日(木)14:00-16:00
論題及び報告者:講演会
- 「日本統治期台湾における教育のネットワーク:台北高等商業学校開校10年までの教官と生徒の動きから」
- 横井香織(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授 )
- 「東アジアの近現代史を〈環流文化〉として考えること」
- 阿部安成(本学経済学部教員 )
場所:セミナー室Ⅲ(総合研究棟3階)
※今回の研究会は、静岡県立大学グローバル地域センター(環流文化東アジア研究会)との共催となります
講演報告
2024年11月28日開催の講演会では、横井香織さん(静岡県立大学グローバル地域センター特任准教授 )の報告「日本統治期台湾における教育のネットワーク:台北高等商業学校開校10年までの教官と生徒の動向から」と、阿部(本学経済学部教員)の報告「東アジアの近現代史を〈環流文化〉として考えること」を予定したが、後者については、体調不良により高等商業学校史研究(ここでは官立高商を対象とする)の課題をあげるにとどめた。
横井報告にさきだつ後者の概要をあげると(ディスカッションでの提示もふくめて)、課題1:研究のもとである史料の議論が不可欠であり、史料論をふくめた高商史研究、課題2:列島の高商にとどまらず、台湾、京城、大連の高商をふくめた帝国の高商史研究、課題3:従来の学校史誌が記述した単独の高商史ではなく、複数のかつ比較の観点をふまえた高商史研究が示された。
横井報告は、高商教官と高商生はどこから来て、なにを得て、どこへ行き、なにものになったのかとの観点から、開校から10年の時期にかぎって、その動向を説く内容である。当該期には4名の校長がいたその3名が官僚出身で、第4代で初めて高商出身かつ高商での教育歴をもつ校長が就任した。「台湾総督府の政策を受けて」「南方経営の中堅人物育成の使命」「南支南洋方面に発展するに適当なる人材を育成する」を方針とした台北高商には、「台湾組の日本人」「「内地」組の日本人」「台湾人」の三者が在籍し、開講科目、行事(旅行をふくむ)、講演、調査、研究(紀要発行をふくむ)をとおして、「「内地」ではなく台湾を軸にアジア各地への理解を深めていった。同時に、台湾への愛着も芽生えてい」き、官公庁(総督府をふくむ)、金融業、製造業など台湾で職に就く卒業生が多かった。
台北高商は、その使命を「開校初期にある程度達成」し、「台湾経営や南方経営に官民それぞれの立場で貢献する若者を輩出し」、かつ「台湾島内の教育のネットワークを形成」する一翼を担った――これが横井報告の要旨である。
ディスカッションで議論があったとおり、「台湾島内の教育のネットワークを形成」というとき、やはりそこでは、島内の師範学校との関係を明確にする必要がある。また、台北高商の機能をめぐって、その初期においては学校の使命を「ある程度達成」したというとき、帝国日本による台湾での植民地「経営」という観点からは、その「達成」とはなにを意味するのかが問われると、わたしは考えた。この問いは、学校という社会資本を整備した点で日本は台湾の近代化に貢献しただとか、学校教育もまた植民地支配の一端だったとかいう議論をこえて、帝国と植民地とをつなぐ商業や実業の領野をめぐる教育という制度、学校という機関を考えることにつながるだろう。
本講演会は、静岡県立大学グローバル地域センターとの共催とした。末筆ながら同センターにお礼をもうしあげる。ありがとうございました。 (阿部安成)
本ページに関するお問い合わせは
滋賀大学経済経営研究所
TEL : 0749-27-1047/FAX : 0749-27-1397
E-mail:ebr(at)biwako.shiga-u.ac.jp ★(at)を@に変更して送信してください。