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講演会「人に優しい都市とは フル・インクルージョンという考え方」

日 時: 2023年12月11日(月)14301600

論 題: 「人に優しい都市とは フル・インクルージョンという考え方」

講 師: 玉木幸則 (社会福祉士・西宮市社協アドバイザー・NHKバリバラコメンテーター)

場 所: 滋賀大学彦根キャンパス 大合併教室&オンライン

開催様式:対面・オンライン

社会福祉士であり、NHKバリバラコメンテーターとしても活躍されている玉木幸則氏をお招きします。なお、本講演会は経済学部「地域の社会と経済」を外部公開して実施します。あらかじめご了承ください。


【講演報告】

 ヤン・ゲールは、ドキュメンタリーのなかで、人に優しい都市は、本当はとても安上がりで、他のどんな投資に比べても費用対効果は大きいと語った。現在、国内外の多くの都市が、クルマに占有された道路空間を、人々のための空間に作り変えるために、膨大なデータを収集し、可視化と分析した結果を反映している。このような都市空間の更新は、果たして、安上がりと言えるのだろうか?そして、人に優しい都市は実現できるのだろうか?これらの問いに向き合うナビゲーターとして、玉木さんをお招きした。

 冒頭、標語としての「誰も取り残さない」という日本語に対する疑問を提示した。そのうえで、本来は「誰も取り残されない」であり、この一文字の違いのなかに「自分は、支援される側に行くことはない」という潜在的なバイアスの可能性を指摘した。そして、自らの生い立ちや職歴を紹介しつつ、分類によってマイノリティの定義が変わるという前提をふまえて、障害を、地域の中で阻害され生きづらさを感じている状態とした上で、地域社会の仕組みやそれらを作ってきた人たちの意識(こころ)の中にこそ、真の「障害」が潜んでいるという彼なりの解釈を示した。さらに、障害者権利条約や子どもの権利条約に対する国連の審査をふまえて、日本政府に対して出された勧告から、単なる日本語の問題だけでなく、人権や差別に対する意識が、国内と海外では乖離している実情を投げかけた。

 残念ながら、我々が暮らす日本という国は、人権や差別に対する意識が、海外に比べて低い。つまり、自戒も込めて地域や都市に関わる私たち自身に「障害」が潜んでいるということを自覚するとともに、そういった意識を国際標準にアップデートしていく必要がある。そして、この自覚を出発点としたうえで、社会を変えるという概念そのものを捉え直す必要がある。見てこなかった、あるいは除外、排除してきた人々を含めていくなかに、人に優しい都市の風景が見えるのではないか、ということではなかろうか。

 最後に、福祉に興味がない、自分とは関係ないというみなさんには、玉木さんが投げかけた言葉は覚えておいてほしい。かつて、私自身、指導教官だった末石冨太郎先生(環境学)が、ゼミのなかで、足が悪くなるにつれて1センチの段差を超えることが厳しくなってきたこと、そして、すべての人が障害者になりうる可能性を含めた都市のあり方や計画の重要性を話された。20年前には全く理解も興味もなかったけれども、今、玉木さんをはじめとした福祉に携わる人々との対話を通して、恩師の言葉の意味を理解しようとしている。その時が来るまで待つということも重要なのである。

(文責:経済学部講師 近藤紀章)


講演会の様子
講演会の様子


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