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講演会 丁寧に表現するとはどういうことか フランス語の動詞形式による語調緩和について 

日 時:2023年6月23日(金)16:10~17:40

表 題:丁寧に表現するとはどういうことか フランス語の動詞形式による語調緩和について

発表者:森一平(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)

場 所:滋賀大学彦根キャンパス 研究工房(士魂商才館1F 経済経営研究所横)

開催様式:対面


講演報告

 日本語では目上の人に向けて話す場合,敬語を用いる.この敬語の文法は韓国語やタイ語など,アジアの言語で多く観察されるのだが,ヨーロッパの言語ではこのような敬語の体系を持たない.その代わりに,フランス語では,人称代名詞を使い分けることで,敬意を示したり,親密さを示したりする.同世代や友達には2人称単数の代名詞である"tu"を使用し,目上の人や親密でない人には2人称複数の代名詞である"vous"を使用する.フランス語の"tu/vous"の使い分けに相当する用法がドイツ語やハンガリー語などに存在する.

 今回の森さんによると,フランス語には"tu/vous"以外にも敬意を示す用法が見いだされるとのことで,その点に関して講演をしていただいた.フランス語は,先に示したように敬語の体系が簡素であるが,他方,数多く存在する過去形(半過去形や大過去形),または条件法の形式や未来形を使うことで,語調緩和と呼ばれる,話し手の意思や欲求,忠告を和らげる方法がある.森さんのデータによると,特に半過去形に丁寧さを示す用法があり,この丁寧さの意味は過去性の標示または予備的判断の擬制によるものである.実は,森さんが発表されたフランス語の用法は,日本語にも似たような用法がある.日本語において,ファミリーレストランに入店した際,「いらっしゃいませ,店内でお召し上がりでよろしかったでしょうか」や「メニューのほう,おさげしてよろしかったでしょうか?」というような表現がなされる場合がある.これは「バイト敬語」と呼ばれる表現であり,いきなり店内に入って過去形で話されたり,注文してメニューを下げることを過去形で話したりすることにより,「客に対する配慮」を意図している表現である.

 このように,もともとは語彙用法であったり,一部文法的な用法が,時がたつにつれて(より)文法的な機能を担うようになるプロセスを「文法化(grammaticalization)」と呼ぶ.文法化の用法の意味変化の方向性は,多くの言語で共通していることがあり得る.フランス語と日本語の語調緩和の用法も,文法化理論で説明できるかもしれない.

 文責:野瀬昌彦(経済学部 教授)


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