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アジアの直接投資地域のリスク評価に関する研究―主要省別の中国、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアの比較研究

アジアの直接投資地域のリスク評価に関する研究―主要省別の中国、ベトナム、インドネシア、タイ、マレーシアの比較研究

経済学科 教授 小田野純丸
研 究 成 果
 1980年代から日本経済が急速にグローバル化を進展させた結果、日本から多くの企業の活動ベースが近隣東アジア諸国に展開されてきたことが観察されている。これまで経験してきた海外直接投資の役割と活動の拡大ペースの過程は、今後の企業活動の更なる国際化を考えるときに、その活動領域が今まで以上に拡大される可能性があることを暗示している。国内雇用情勢が懸念される中で、多くの企業が新たに海外市場を求めて積極的に取り組むのではないかという指摘は多くのことを暗示している。ある意味で、日本経済の国際開放度は米国、ドイツや英国など多くの国に比して低く、まだまだ取り組まなければならない領域が残されていることに注意が必要である。高コスト体質や他国に比して相対的に不利な経済要件や規制の存在などを考慮に入れると、日本企業の活動舞台はこれまで以上に海外に求めていかざるを得ない可能性や潜在性があることを安易に否定することはできない。かつては我が国の主要な生産企業が先駆となって欧米を中心に展開してきた直接投資の流れは、今世紀になって世界経済の活動の中心軸がアジアに移りつつあるという流れを受けて大きく変化する兆しを見せ始めている。現に、輸出入の動向は中国を含めて東アジアとの取引が主流となりつつある。投資の分野でも、東アジア諸国を中心にして更なる産業領域とペースでそれが進展していく可能性があると考えられる。
 今世紀に入ってからだけの実績を見ても、中国への海外直接投資は9億ドル(2000年)から65億ドル(2008年)に、アセアン向けのものは2億ドルから63億ドルに急拡大を続けている。東アジア向けの直接投資について一点注意すべきは、1990年台を通じてアセアンを中心に東アジア向けの投資は目覚しいペースと規模で展開していたことが思い出される。中国向けはそれを追う形で展開を見せてきた。しかし、90年代末のアジア通貨危機がきっかけとなって日本の海外直接投資が大きく落ち込んだことが思い起こされる。現地の経済状況を見極めたいという日本企業の慎重な姿勢がその背景の一つにあったと言われている。しかし、危機の収束が明らかになるにつれて、直接投資の流れに勢いが回復してきたことは明白であった。中国向けの直接投資は2003年からアセアン向けを大きく上回り、速いペースで展開を続けてきている。アセアン向けの投資も、2003年以降から急回復を見せ、中国向けと肩を並べるまでに伸びてきている。
 今回の研究は、アセアンの中でも日系企業が集中的に直接投資を展開させてきているタイ、インドネシア、マレーシア、ベトナムの四カ国に注目して、中国向けの直接投資と比較検証を行うというものである。とりわけ、本研究が腐心をした点は、大国である中国については一国として扱うのではなく、主要な投資先と考えられている地域(省、特別行政区など)を選定して、それがアセアンとの投資環境とどのように比較されるのかという視点から比較考量する作業を展開してきたことである。定量的なマクロ、ミクロ経済数値をベースにして、可視化(SOM)モデルを利用して投資先を類似グループに区分けする数量分析を展開した。同時に、それぞれの国が進めている直接投資に関わる政策などを加味しながら投資先のリスク要因を選別する作業も織り込む試みを展開している。直接投資や海外事業展開は必ずしも定量分析だけに依存してリスク要因を把握しているわけではない。そのために、関係政策部署の専門家へのヒヤリングも不可欠な情報ソースとなる。アセアン本部の担当官やインドネシア投資調整庁の専門家にヒヤリングを実施し、アセアン諸国内の投資受け入れ政策の差異や中国に対する優位性などについて貴重な情報を得ることが出来た。
 折から、中国の賃金高騰や内需重視に向けた政策転換が注目されることになり、それまでの中国一辺倒の企業姿勢から代替投資先の評価検証に目が向けられ始めている。今回の研究に含まれるベトナムはその最有力候補地と目されている。これまでのところの研究結果は、これから更に検証作業や定性情報を加える必要があるものの、ベトナムを含むアセアン諸国が、上海や広東、広州といった外資が先導する先進地域に続く中国国内の発展途上地域の幾つかに比肩され得るグループに接近していることを示している。経済活動の中心が東アジアに移行する傾向を明らかにする中で、中国の諸地域とアセアンの主要国を比較することによって、直接投資という重要な戦略や意思決定に資する成果や情報が得られたのではないかと考えている。
結果発表
 1.結果発表の時期  2010年9月
 2.結果発表の方法  リスク研究センターのワーキングペーパーと彦根論叢

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